第3話 変な遊びばっか

 父さんが森に見回りに行き、しばしの休憩をしたところで遊びに行くことにした。


「それじゃあ母さん、行ってくるよ!」

「ええ、あんまり遠くに行ったり、危ないことをしたりしちゃだめよ?」

「分かってるって!」


 こうして母さんと挨拶を交わし、遊びに出る。

 向かうは公園……といえばそれなりにカッコがつくのだろうけど、空き地と表現したほうがそれっぽいかな?

 それはともかくとして、ジギムとルゥはもう来てるかな?

 そんなふうに2人の友達の姿を思い浮かべながら歩みを進め……到着。


「お、来たかノクト!」

「待ってたよぉ~」

「いやぁ、父さんがこれでもかってぐらい剣術稽古にハッスルしちゃってね……おかげで体力回復に時間がかかってしまったよ」

「ははっ、フィルおじさんはなんつーか、燃え盛る炎みたいな人だもんな! といいつつ、俺の父ちゃんもなかなかヤベェけどな! 見てくれよこのアザ! 俺もさっきまで、しこたま父ちゃんに木剣で打ちのめされてたところだ!!」

「痛そう……ジギムちゃん、大丈夫?」

「へっ、こんなもん、大したことねぇぜ! ……ッてぇ!!」

「わわっ、ジギムちゃん! ホントに大丈夫!?」


 ジギムがルゥにワイルドさを見せようとしたのか、自分のアザを叩いて悶絶している。

 そんなジギムを見て慌てるルゥという構図。

 でもまあ、痛いよね……

 そう思いつつ、僕もさっき父さんに打たれた部位をそっと指で押してみる……うん、やっぱり痛い。


「……ノクトちゃんも何してるの?」

「いや、ジギムと痛みを分かち合っているんだ。ほら、よくいうだろ? 辛いことは友達と半分こってな」

「おい、ノクト……全然分け合った感じしねぇぞ?」

「あっれ~おっかしいなぁ?」

「たぶん、押し方が足んねぇんだ! もっとバチンといかねぇとな!!」

「あッ、ダメだって! それ痛いやつ!!」


 ジギムが僕のアザを狙って叩いてくるので、逃げるよりほかない。


「おいコラ! 待てノクト!!」

「待てませ~ん!」

「もう~2人して変な遊びばっかやめてってばぁ!」

「チッ、仕方ねぇなぁ……今日のところはルゥに免じて許してやるよ!」

「ふむ、ならばこちらもルゥに免じて許されてやろうじゃないか!」

「う~ん……私に免じてとはいうけど、何かが変な気がする……どことはいえないけど……」


 ルゥの仲裁により、僕とジギムの追いかけっこは終わった……ルゥの釈然としない表情とともに。


「そんじゃあ、今日は何して遊ぶ?」

「う~む、何がいいかなぁ……?」

「ねぇねぇ! それなら『お茶会ごっこ』しよっ!!」

「はぁ? お茶会ごっこだぁ?」

「……お茶会ごっこねぇ?」

「そう! キレイなドレスを着て、あま~いお菓子を食べて、ステキな香りのお茶を飲んで、楽しくお話するの!!」

「……なぁ、いっこいいか? お前がいうようなドレスもお菓子もお茶も……ここにはな~んもないぞ?」

「ドレスとお菓子は無理だけど……その辺に生えてる木の葉っぱでお茶っぽい物でも作ってみる? どうせ不味いだろうけど」


 ルゥが希望する品物はどれも高級品だからね、こんなしがない村にあるわけがない。

 ……まあ、もし仮にあったとしても、領主様とか偉い人に持ってかれちゃうんじゃないかな?


「そういうことじゃなくってぇ! イメージ! ここにそれがあると思ってなりきるの!!」

「ないものをあると思う……まったくルゥは難しいことをいうもんだぜ!」

「……そういえば、父さんが冒険者時代に出会った魔法士によると『魔法はイメージだ!』っていってたらしいよ」

「へぇ、イメージか……お菓子よ! 出ろォ!! ……って、出るわけねぇじゃん!!」

「フフッ、まあね、魔力がないんじゃお話になんないだろうさ」

「はぁ、魔力かぁ……それがあれば、今頃俺もお貴族様になれたかもしんねぇってのによ!!」

「確かに物凄く小さい可能性だけど、たまに平民から魔力を持った子が生まれるっていうからね……でもま、僕らには縁のない話さ」


 正確にいうと誰でも魔力を持ってるらしいけど、僕らみたいな平民の魔力量では少な過ぎて魔法と呼べる現象を起こすことができないのだ。

 そんなわけで、魔力がないと表現せざるを得ないって感じだね。


「でもよ! 俺たちみたいな魔力のねぇ単なる平民から成り上がったスゲェ人もいるって話だろ!? いいよなぁ、俺もなりたいもんだぜ!!」

「ちょっとぉ! すぐそうやって違う話をするんだからぁ! 今はお茶会ごっこをするの!!」

「いや、だからよ……お前の望みどおり、楽しくお話してるだろ?」

「うん、僕も混じりっけなしのお話だったと思うよ?」

「ニュアンスが違うの! もっとキラキラするの!!」

「わ~ったよ、仕方ねぇなぁ」

「よし、それじゃあルゥは『お嬢様』をできたらいいんだね?」

「そう! そういうことよ! ノクトちゃんったら、分かってるじゃないの~!!」


 うん、そういうことでいいらしい。


「それじゃあルゥはお嬢様をやるとして、僕は『護衛の騎士』をやるよ」

「おっ、騎士か! カッコいいな! 俺も護衛の騎士をやってやるぜ!!」

「えっ? 護衛の騎士って……え?」

「ではお嬢様、ごゆるりとティータイムをお楽しみください」

「お楽しみください!」

「え、ええ……ありがとう?」

「……」

「……」

「……ねぇ、なんで何もしゃべらないの?」

「いえ、我々は職務中ですので、私語を慎まねばなりません」

「そのとおりなのです!」

「そ、そうかしら……分かったわ」

「……」

「……」

「……こんなんじゃダメぇ! 護衛の騎士は禁止ィ!!」

「おやおや、我々はお暇を頂戴することになってしまいましたか……」

「……残念です」


 どうやらルゥは、僕とジギムの騎士としての働きぶりがお気に召さなかったようだ。


「だぁかぁらぁ! 違う役をやってっていってるの!!」

「違う役か……では執事などはいかがかな?」

「……今みたいに黙って立ってるだけってことはないでしょうね?」

「それはもちろん! お嬢様を支えるため、誠心誠意尽くしますとも!!」

「うん、まあノクトちゃんはそれでいっか……それでジギムちゃんは……」

「おう、俺は何をすればいいんだ?」

「ふむ……それならジギムは、ルゥお嬢様にお呼ばれした御曹司様ってところでいいんじゃない?」

「まぁっ! それはステキね!! そうよ! そういうのが欲しかったの!!」

「なんでもいいけどよ、御曹司って何をすればいいんだ?」

「……お嬢様、今からジギムをどこからどう見ても素晴らしい御曹司になるよう指導してきますので、少々お待ちくださいませ」

「えっと、ノクトちゃんはもう役になりきっているのね? それじゃあ……ええ、あなたに任せますわ」


 というわけで、ジギムを連れて少し離れる。


「さてジギムよ、御曹司として……というかこういう場合にやるべきことは決まっているんだ」

「マジか!?」

「それはズバリ『相槌』だ!」

「……ふぅん? 相槌ねぇ……」

「ジギムから無理に話題を出す必要はないんだ。ルゥの言葉に適当に相槌を打ってるだけで全てが完成されていくはずだからね」

「ほぉう? んじゃ、やってみっかな!」

「頑張れ! ルゥの機嫌を損ねないためにもね!!」

「仕方ねぇが……いっちょやったるか!」

「よし、その意気だよ!」


 こうして、お茶会ごっごがスタートとなった。


「ようこそおいでくださいましたわ、ジギム様」

「ああ」

「こちら、南方より取り寄せたお茶でございます」

「ええ、そうなのよ! なかなか手に入らないお茶の葉でしたのに、お父様のご友人が送ってくださったの!!」

「ほう」

「どうかしら? なかなかステキな香りでしょう?」

「そうだな」

「もう一杯、いかがですか?」

「おう」


………………

…………

……


「それでお母様ったら、新しいドレスを用意してくださったの、今着ているのがそれよ」

「そうか」

「……さっきからず~っと、短い返事だけぇ! なんなのそれぇ~!!」

「ん? 俺はノクトのいうとおり、相槌を打ってたんだが……ダメだったのか?」

「ジギム……確かにそうはいったけど、もう少しなんというか、アドリブがあってもよかったんじゃないかなぁ~って思うんだ」

「う~ん、そうなのか? お茶会ごっこっていうのは難しいんだなぁ……」

「難しいのは、2人が余計なことばっかするからでしょ~! 普通にやってくれればいいのにぃ~っ!!」


 ……だってさ、この調子だとルゥに合格を出してもらうのはまだまだ先になりそうだね。

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