フェアリーテール
ひらぞー
強い竜と弱い狼
ある所にとても強い竜がいました。
鋭い爪、大きな顎、硬い鱗、空を自由に飛ぶ翼、しなやかな尻尾に山の様な体を持ったその竜は負ける事を知りません。
猪、熊、虎に獅子にゾウ。
自身が集めた宝を狙ってやって来る人間の軍団にだって、敗れた事は一回もありません。
竜はこの世界で一番強いのは自分だと信じ切っていました。
そんなある日の事、竜は狩りで仕留めた猪でお腹を満たし、巣で昼寝をしていました。
ぐうぐうと寝息をたてていると、巣の入り口から音がしました。
竜は目を覚まし、音の方向を確認するとそこには酷く痩せた狼がいました。
狼は竜に問いかけます。
「竜よ、竜よ。大きな竜よ。
あなたにお願いがあります。
どうか私に食べ物を分けてはもらえないだろうか?
もう、何日も何も食べていないんだ」
狼の腹から音が聞こえます。
くうくうと侘しくないています。
竜は鼻息を軽く出すと自身が狩った猪の方へ顔を向けます。
多少ながら肉が残っています。
竜にとっては僅かな量ですが、狼の大きさなら十分な量になるでしょう。
竜は狼の方へと向き直り、猪の死骸を指差して言いました。
「残飯でいいなら食うがいい。
さっき狩った猪がそこにある」
竜の言葉に狼は嬉しそうにパッと笑いました。
「ありがとう、竜よ」
狼は感謝を述べると一目散に猪の側に駆け寄ると食べ始めました。
しばらくして、お腹が膨れた狼は満足そうにふぅと息を吐きました。
狼は竜の側まで来るとあらためてお礼を言いました。
「本当にありがとう、優しき竜よ。
もうダメかと思っていたんだ」
「気にするな。ただの気まぐれだ。
それよりもどうしてそこまで飢えていたのだ?」
竜の問いに狼は恥ずかしそうに答えます。
「私は狩りが苦手でね。
何度やっても失敗してしまう。
そのせいで今までろくなものを食べられていなかったんだ」
「どんくさい奴だ」
「返す言葉もないよ」
竜は呆れ、狼は苦笑します。
竜は大きくあくびをすると目を閉じて、丸くなりました。
「俺は眠る。用はすんだだろう。早く出ていくといい」
「ああ、そうさせてもらおう、竜よ」
狼は出口に向かって歩き、巣から出ていく手前で振り返り、竜に言いました。
「竜よ。この恩を私は決して忘れない。
だから、あなたも覚えておいてほしい。
あなたがつらく、苦しい目にあった時、私が必ず、あなたの元へ駆けつける。
あなたを救いに現れる。
約束するよ」
竜は片目を開けて、狼を見ました。
そして、小馬鹿にした様に笑うと皮肉を口にしました。
「そうか、なら期待して待っておこう」
「ああ、必ずだ」
それを最後に狼は去っていきました。
竜はゆっくりと眠りにつくのでした。
※
それからしばらく経った頃、竜の巣に人間が攻めてきました。
数は4人。
普段の軍団で来る人間達に比べるとかなり数が少ないと感じましたが、いてもいなくても変わりはないかと竜はいつも通り、返り討ちにすべく火の息を吐き、爪や尻尾を振り回します。
だが、今回の人間達は違いました。
竜の攻撃をうけても引かず、逃げず、立ち向かい、竜に対し攻撃を打ちこんできました。
何度も受けていく中で竜の硬い鱗は剥がれ、人間達の武器が竜の肉を切り裂き始めました。
竜は叫びます。
生まれて初めて痛みを知りました。
生まれて初めて血を流しました。
生まれて始め恐怖しました。
自分よりもずっと小さく、弱い者達をこんなに恐ろしいと思った事はありませんでした。
竜は必死に戦いましたが、人間達の攻撃で、
どんどん体は傷つけられていきました。
そして、ついに竜は逃げ出しました。
翼を広げ、空を飛び、必死になって逃げました。
飛んで、飛んで、飛び続けて、人間の影も形もない山の中の洞穴に竜は逃げ込みました。
へとへとに疲れた体を休めようとしましたが、痛めた体がズキズキ痛んで寝る事もできません。
あまりの辛さに竜は涙を流しました。
大きな声で泣きました。
生まれて始めての涙でした。
泣いて、泣いて、泣き疲れて、お腹が空いて、体の力も抜けてきて。
ああ、これはもうダメかもしれないと竜が思って目を閉じた時、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえました。
竜が目を開けるとそこにいたのは狼でした。
「竜よ。約束を果たしに来たよ」
狼のすぐ側には猪が置かれていました。
「すごいだろう?頑張って狩れるようになったんだ」
狼は竜にそれを食べる様に言いました。
竜は急いで食べました。
竜はまた、泣きました。
ですが、つらくて泣いたのではありません。
安心して泣いたのです。
これも初めての事でした。
狼は薬草を摘んでくると、竜の傷口にペタペタと貼りました。
すると、痛みが和らいで、心も軽くなりました。
竜は狼に言いました。
「ありがとう、狼」
竜は生まれて始めて感謝しました。
狼は笑います。
「感謝しているのは私の方だ、竜よ。君は私を助けてくれた。そして、その恩を今、返せている。こんなに嬉しい事はないよ」
狼は竜の側でお世話を続けました。
食事を用意し、傷を治療しました。
時が流れ、看病の甲斐あって竜はすっかり良くなりました。
竜は狼に言いました。
「君のおかげだ、狼よ。あらためて礼をしたい。何か欲しいものはないか?」
狼は言います。
「ならば、竜よ。頼みがある。私と友になってくれないか?」
狼の言葉に竜は驚き、何度か目をパチパチとしましたが、その後、笑って頷きました。
「ああ、ああ、構わないとも。狼。我が友よ」
「ありがとう、竜。我が友よ」
狼も笑いました。
2匹の笑い声が洞窟の中に響きました。
※
それから、長い月日が経ち、狼は永い眠りにつきました。
冷たくなった狼を竜は抱きしめ、涙を流します。
それは悲しみの涙でした。
初めての悲しみの感情でした。
狼のお墓を作った竜は残りの生涯を狼、自分の唯一の友の墓守をして生きようと決めました。
今日も竜はお墓の前で寝息をたてます。
夢の中では、狼と笑いあう2匹の姿がありました。
フェアリーテール ひらぞー @mannennhirazou
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