人類最後の逃避行
数多怜悧
現代編1《この世界の日常》
1、静寂
静寂、この言葉がイヤと言うほど似合う街で、彼は寝ながら本を読んでいた。太陽を浴びるのはいいからと外に出たが、案外悪いものじゃない。そう思い次のページをめくる。
「はぁ、、作者の体調不良ねー、。ま、いつものことか。」
新しい本はもう見つからない。新しい本が売られることもない。
「悪いが、"君たち"に構ってる時間はないんだ。」
多少の皮肉を込めて吐き捨てる。目線を少し離れた電柱に向ける。あそこなら頑張れば飛び乗れそうだ。のっていたトラックの荷台は助走をつけるには十分な長さを持っていた。重いリュックを背負い、持ってきた"銃"を拾い上げる。トラックの端に行き、助走をつける。声を上げながら、自分が出せる全力で飛んだ。目の前がスローがかかったかのように遅くなる。
「よし、つかんだ。」
点検用の足場釘にしがみつく。そうして何とか電柱の上につく。ここからあの家までかなり距離がある。普通だったら諦めるが、なんとなく行けそうな気がする。まあ、落ちても「残念だった」。それでいい。そう思い、電柱から民家の屋根に飛び移る。
「はは、、、いけた。」
運がよかったようだ。そう思いながら、屋根の上に立った。下を見ると家の塀にぶつかって奴らは来れないらしい。
「ザマア見ろ、腐れ外道が、」
そう言い放ち、屋根の上をつたう。嫌な位に晴天の空は昔よりも寒さを感じる。記憶が正しければこのくらいの時期でも30度近くなる日がかなりあったはずだが、今では20度前半位だろうか、些細なことで時間の流れを感じてしまう。それから屋根を伝ってあまり荒らされていない家を見つけた。あいつらも来ていない。
「入るか、、」
屋根から塀に飛び移るそれと同時に銃を取り出す。警戒しながらドアの前に行き、ドアノブを回す。鍵は空いていた。ドアを勢いよくあける。家の中からは気配がない。急いですべての部屋を確認する。埃は積もっているが内装は荒らされていない。幸い、この家は大きい窓が一ヶ所しかないため、窓をソファーで、玄関にはテーブルなどの家具を設置してバリケードを築く。そこまでしてようやく落ち着ける。
「何か使えそうなものはないか、、」
いえの散策を始める。法律があれば間違いなく捕まるだろう。そう考え、少し笑った。リビングだったろう場所は埃にまみれているがかつての団らんを想起させる。今は映らないテレビのしたに、小さな額縁がおちている。家族三人の写真だった。
「いい写真だ、、」
そう呟き、また散策をする。キッチンには災害時用の乾パンや缶詰めが出てきた。どちらも賞味期限が切れているが、特に問題はないはずだ。持参した食料を使わずにすむのはありがたい。余った食料もそのまま持っていかせて貰おう。
「次は、二階か。」
銃を構えて二階への階段を上る。部屋が三つあり、一つずつ確認する。一番奥の部屋は写真の父親のものだろう。パソコンもキーボードも、もう帰ってこない主を寂しくまっているようだ。クローゼットを空けてみる。趣味のいいスーツやコートがかけられていた。
「これ、いいな、、」
あまり痛んでいないコートがひとつあった。もう他に使う人はいないだろうし、ありがたく貰っておこうか。いい戦利品をてにいれ、次の部屋を空ける。おそらく母親の部屋だろう。めぼしいものはないかと探したが、化粧用具と女物の服しかなかった。最後の部屋は子供部屋だった。いろいろな図鑑や本、それに"マンガ"もかなりの数がある。しかし、どれも"作者の体調不良"で連載終了している。
「全く、嫌な話だ。」
そう言いながら、日は沈む。辺りは闇に包まれ、一人逃げ込んだ家で、盗んだ食料を食べる。どれも問題なくおいしかった。外からは時々低いうめき声がきこえる。明日には囲まれる恐れがあるから、早朝のうちにここを出ることにしよう。そう思いながら、奥の部屋に入り、壁にもたれ掛かって夢に堕ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます