第41話 歴史的遭遇?


「お兄様、だからわたくしが何度もドライアードには自我があると言ったでしょう? わたくしは断片的な意思しか伝わってきませんが、たしかに意思はあるんです。ねぇ、アルベルト様?」


 フィオレさんが話し掛けると、アルベルトさんは葉をユサユサと揺らして答えた。



「……ヴェルデ」

「大丈夫ですよ、アルベルトさん。さっきの話はコルテ様には内緒にしておきますから」

「そうしてくれると助かる」


 せっかく何百年もここで静かに暮らしていたのに、初代の王だという事がバレたら放っておけるわけがない。彼の意思を尊重して、私は口を噤むことにした。



「でもまさか、ドワーフであるヴェルデがドライアードと意思疎通ができるだなんて」

「ただの意思疎通じゃないですわよ、お兄様。ヴェルお姉様は言葉で会話をしているのです」

「言葉? だが、彼女は何も喋っていないぞ?」

「えぇ。でも、私には分かるんです」


 フィオレは私の手を握りながら嬉しそうにしている。


「ヴェルデ。キミは本当にビックリ箱みたい人だな……」

「それは褒めているのですか、コルテ様」


 聞き返すと、コルテ様は呆れた様子でため息を吐いた。

 みればアルベルトさんまで、やれやれといった感じで頭を振っている。


「……ところで、森の畑でなにをしていたんだ?」


 んんっ、あからさまに話題を変えられたわね。

 ……まぁいいか。なんだか引っ掛かるところはあるけれど、私は事情を説明することにした。


「最近の不作についての調査?」

「はい。といっても、私はこの森の植物の声を聞くことしかできませんが」


 さらに私はこの森で起こっている出来事をコルテ様たちに話した。

 森や作物に異変が起こっていること。その原因は世界樹が弱まっているせいだということ。そして、その問題を解決する方法が見つからないことも……。


 それを聞いたコルテ様は険しい顔をしながら考え込み、その隣でフィオレ様は不安そうに私を見つめてきた。


「そうか、ヴェルデでも分からないか……」

「残念ながら、ハッキリとしたことは。私が聞いた声はどれも苦しんでいる声でした。それと、少しだけですが、もうすぐ枯れてしまうかもしれないという不安な気持ちも聞こえました」

「不安、か……」


 コルテ様は何かを考え込むように顎に手を当て、ブツブツと呟いている。

 きっと解決策を模索してくれてるんだろう。


 私もできる限りのことはしたいけれど……。



「ありがとう、参考になったよ。フィオレが元気になったことだし、僕も明日から本格的に調査を始めよう」

「本当ですか!?」


 その言葉を聞いて、私は嬉々とした。

 フィオレ様やコルテ様が力になってくれるなら、きっとこの問題を解決する糸口を見つけてくれるに違いない。

「喜ぶのはまだ早いよ。まだ何も分かっていないんだから」

「そうですね。でも、それでも嬉しいんです。コルテ様と一緒にこの国のために何かができるということが」

 私は満面の笑みを浮かべ、コルテ様の手を握った。

 彼は照れてるのか顔を背け、ぶっきらぼうに「僕も嬉しいよ」と言った。

 でもその耳は真っ赤に染まっていて、彼が照れていることが一目瞭然だった。

 可愛いな。こういうところが好き。


「はぁ……わたくしの事も忘れないでいただけませんこと?」


 拗ねたように口を尖らせつつも、ニヤニヤと嬉しそうな表情をしたフィオレ様。

 そしてアルベルトさんはこっそりと私の隣りにやって来て、葉っぱでツンツンしてきた。



「……よかったな、ヴェルデ」

「はい!!」


 そうして私はみんなと共に世界樹の王城へと帰還した。

 もう心配することはない。

 世界樹の問題も、きっとこの人たちとなら解決できるはず――。


 だがそんな私たちを出迎えたのは、一番会いたくなかった人物だった。


「ようやく帰ってきたわね」

「トラス……」


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