第33話 目も当てられない
「着替えは終わったか?」
「あっ、はい……」
ガチャリ、とアルベルトさんが入ってきた。相手は木の精霊なのに、ちょっとだけ気恥ずかしさがある。
「はい。ご迷惑をおかけしました。あの、この部屋は……」
「ああ、この家や家具たちは儂が趣味で作った」
「趣味で!?」
失礼だけど、ドライアードさんが作っても使えない気がする。そもそも木が木を切っていいの!?
「人間の暮らしに興味があったのでな」
「そ、そうなんですか」
「ところで、今日はどうした。さっきは散歩と言っていたが」
「えっと……」
私は自分のことを話しても良いのか迷っていた。すると、アルベルトさんは私に椅子を差し出してきた。座れという事だろうか首を傾げていると、肯定するように頭の枝を縦に振った。
「大丈夫だ。ここには私とお主しかおらん。そもそも、誰も訪れないがな」
「……実は私、この国に居られなくなっちゃって」
「ふむ。何か問題を起こすようには見えないが……」
アルベルトさんは私の事情を聞いてくれた。私がどうしてここに居るか。そして、これからどうするか。それを決めるために。
「なるほどな。それで行き場を失い、ここへ来たと」
「はい……。でも、勝手に城を飛び出しちゃいましたし、もう戻って来なくて良いって言われても仕方ないかなと思ってます」
こんな身勝手なことをしておいて、都合よく戻りたいだなんて……言えない。
「……そうでもないと思うがな」
「え?」
「それなら当分の間、ここにいると良い。この森は誰からも必要とされなくなった、古き者が集まる場所だ。お主がいたところで、誰も文句は言わんよ」
アルベルトさんはサラサラと優しい葉擦れの音をさせながら私を見つめていた。
彼はここにいて良いと言ってくれたけど……私はその言葉に甘えても良いのだろうか。
「それに、儂には少しばかり悩みがあってな。誰かに相談に乗ってほしかったのだ」
相談事?
ドライアードがドワーフの私に??
「まぁ、そういうことだ。遠慮することはない。好きなだけ此処に居ればよい」
「ありがとうございます、アルベルトさん……」
「うむ」
――良かった、まだ私が居てもいい場所があったみたい。
私を受け入れてくれたアルベルトさんに感謝しつつ、私はこれからどうしようかと考えるのだった。
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