第27話 膨れっ面の王様


 オーキオさん、いつの間にそんなところに隠れていたんですか!?


「ふふっ。あっさりバレちゃったわねぇ」

「……まったく。姉さんがヴェルデを連れてきたんだろう?」


 あ、バレてる。

 まぁそれもそうか。私じゃあの茨のバリケードを抜けられるわけもないし。


「あら、私が言い出したんじゃないわよ? ヴェルデちゃんが陛下くんに会いたいって言ったの。それにしても、ヴェルデちゃんを見て驚いたあの顔と言ったら……ぷっくく……あー、おかしい。笑いすぎて涙が出てきたわぁ」

「姉さん……!!」


 コルテ様は頬を膨らませていた。どうやら拗ねてしまったらしい。


 オーキオさんはまだクスクスと笑い、私は恥ずかしくて顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。


 なにも私が会いたいって言ったことを言わなくても良かったのに。穴があったら入りたいとは、まさにこのことだと思う。



「そ、そうだ。ヴェルデ。僕に会いたいって、何か用事でもあったのかい?」

「えっと……特に用というわけでは……」


 私がそう答えると、彼は顎に手を当てて考え込むような仕草をした。そしてしばらく沈黙した後、少し照れくさそうな様子で口を開く。


「……僕のしていることが気になるのかい?」

「うっ、はい……」


 ここまできたら正直に答えてしまおう。そう思って口にしてみれば、彼は少し驚いたような表情をした。


「そうか、僕のことを知りたくなったんだ……なんだか嬉しいな」

「……!?」


 私は思わずドキッとした。コルテ様の言葉と表情が、あまりにも破壊力があったからだ。コルテ様は私が見てきた誰よりも整った容姿をしていると思う。そして今はエルフ特有の神秘的な美しさだ。


 そんな彼は照れるように私に微笑んだのだ。こんな顔を向けられたら、どんな女の子だってイチコロだろう。


「でも……なんだかちょっと意外です」

「意外? 嬉しいって言ったことが?」

「はい。コルテ様はてっきり、私を拒むのかと」


 彼には他にフィオレという名の想い人がいるし、トラスが嫁となる。私はただのお邪魔虫だ。


 冷たくしてもおかしくないのに、彼はとても優しく接してくれている。裏があるようにも思えないし、不思議で仕方がない。



「僕はそんな酷い男だと?」

「いいえ。私のような醜女を相手にするなんて、コルテ様は物好きだと思って」


 私がそう言うと、コルテ様は困ったように笑う。


「君はちょっと……いや、自分のことをかなり卑下しすぎだよね」

「だって、事実ですから。お兄様たちからは不細工だの、気色の悪い瞳をしていると言われたので……」


 これまでずっとそんな目で見られてきたのだ。自分に自信なんて持てるわけがない。


「君は……その、エルフの僕がドワーフの美醜を語るのは変かもしれないが……とても可愛らしいと思う。それに……その、瞳は宝石のように美しい。……僕はす、好きだよ」

「すっ……好き!?」

「ああ、やっぱり聞き流してくれ! こんな恥ずかしいことを言ったのは生まれて初めてだ! 女性を褒めるだなんて、僕には無理だ!!」

「コルテ様の……初めて……」


 コルテ様の言葉を聞いて、私は思わず固まってしまう。


 彼の顔を見れば、羞恥心で真っ赤に染まっていた。それでもコルテ様はとても美しい顔をしている。まるで芸術品のように。

 そんな人に綺麗だなんて褒められるだけでも信じられないのに、好きと言ってもらえた。そう考えただけで、私の顔も熱を帯びてくる。


「……私はいない方が良いみたいね?」

「茶化さないでよ、オーキオ姉さん」


 口元を押さえながら肩を震わせているオーキオさん。そんな彼女をコルテ様はジト目を向けた。


「ふふ、ごめんなさい。でも、陛下くんのあんな表情は初めて見たわ。ヴェルデちゃんが来てから、本当に楽しそう」

「そ、そんなことはないよ! むしろ仕事が増えて大変で……」

「あら、嫌だったかしら? じゃあ、本来のドワーフ姫をさっさと迎えて、ヴェルデちゃんは私が貰おうかしら?」

「どうしてそんな話になるんだよっ!?」


 コルテ様はボソボソと話すと、そのまま顔を横に逸らす。


「コルテ様はやっぱり、妹の方が良いですか……?」

「そんなことはない! ほら、ヴェルデを悲しませてしまったじゃないか! オーキオ姉さんの馬鹿!」

「はいはい、分かったわよ。陛下くんは相変わらず素直じゃないんだから」

「……ふん」


 コルテ様は時々ツンとしているけど、それ以外はとても優しい人だと思う。ちょっとお可愛いところもチャームポイントだ。


 少しムッとしている彼の隣で、私とオーキオさんは顔を見合わせながらクスクスと笑い合った。

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