第22話 憎しみのない世界で

 昔の夢を見ていた。私がまだ聖女になる前のことだ。お母様がまだ健在で、お兄様も私のことを可愛がってくれていた遠い昔のこと。



「ねぇ、お母様。お父様とはいつ結婚されたのですか? お母様とお父様が結婚した理由って何なのですか? お二人の馴れ初めを教えてください!」


 私はお母様に甘えたくて質問攻めにした。お母様は少し困ったような顔をした後、優しく微笑んでくれた。



「あら、ヴェルデったら。そんなことを聞くなんて珍しいわね」

「だって、私もいつか誰かと結婚するんでしょう?」

「そうね。ヴェルデなら素敵な人と結婚できると思うわ。でも、今はそういうことを考えなくてもいいのよ。まずは勉強を頑張って立派な大人になること。そして、自分のやりたいことをしっかり見つけなさい。それから、お相手の方を大切にしてあげるの。わかったかしら?」

「そっかぁ……そんな人がいつか見つかればいいなぁ」


 お母様はいつも私を褒めてくれるし、悪いことをしたら叱ってくれた。私はそんなお母様が大好きだった。



「ふふっ。そういえばこの前、城で開かれたパーティに、不思議な男の子が入ってきたことがあったでしょう?」


 お母様は思い出しながら目を細めた。


 うん、その子のことは私も覚えている。私が会場で転んじゃって、わんわんと泣いていた。そうしたら、私と同じくらいの歳の子が優しく声をかけてくれて……それで、私にお花の冠を作ってくれたっけ。


「嬉しかったなぁ。その子の名前は聞けずじまいだったけれど……」

「うふふ。きっといつか、また会えると思うわよ」

「そうか、そうだといいな。じゃあ私、その子のお嫁さんになる!」

「はいはい。それじゃあその子に好かれる女の子になれるよう、勉強をもっと頑張りなさい」


 お母様は私の頭を優しく撫でる。私はお母様の手があたたかくて、嬉しくて……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る