第16話 ただ者じゃない
ヴェルデの眼。それは一般的なドワーフの赤い瞳と違って、エメラルドのように綺麗な緑色をしている。
「何か得体の知れない、彼女ではないナニカに見られている気がして……初めて目が合った時は思わず息を呑んだよ」
彼女に見つめられると、どういうわけか目が離せなくなってしまう。不思議な魔力のある瞳だった。
「やっぱり陛下くんも何かを感じていたのね」
「――うん。あれはまるで、ヴェルデの代わりに誰かが視ているような印象だったよ」
「もしかしたらヴェルデちゃん、本当は目が視えていないのかしら。お風呂で転んだ時も、反応が遅れていたみたいだったし……」
姉さんいわく、ヴェルデは浴槽に入った直後から、常にあたりをキョロキョロと窺うようになったという。それはまるで、視覚が奪われたかのように。
「つまりヴェルデは何らかの方法で、自分の視覚を得ていた可能性が高いということか」
「普段の振る舞いでは気付かなかったけど、きっとそうね……それに彼女は他にも、私たちに何かを隠している気がするの」
他にも秘密をだって……?
たしかにヴェルデに関して気になることは多い。
あの異様に痩せているのもそうだし、常に何かに怯えている様子だった。
「……これは陛下くんだから伝えておくけれど。ヴェルデちゃんは国にいた時、閉じ込められて育ったらしいわよ? 世間の常識からちょっとズレてるのはそのせいみたい」
「閉じ込められていた!? それはいったいどうして!? 彼女は仮にも一国の姫で、しかも聖女なんだろう!?」
問題児ならまだしも、あの純粋無垢なヴェルデが幽閉されていたと聞いて僕は驚いてしまった。
そして、僕の言葉を聞いた姉さんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。どうやら姉さんにとっても、この事実はあまり喜ばしくないことだったようだ。
「理由なんて私も知らないわよ。ヴェルデちゃん、国にいた時の事をあんまり話したがらないから……」
「それは……」
彼女にとってつらい過去だから……つまりはそういうことだろう。
それほどまでに自分の過去を知られたくない。それとも、何者かに口止めをされているのか……。
「あのいけ好かないドワーフの王め。自分の妹を嫁にやるというから、何か仕組んでくるかと警戒していたけれど……まさか訳アリの娘を押し付けてくるとは」
援助の条件に姫との婚姻を、と言い出したのはドワーフ王だ。
自身の血縁をエルフの国にねじ込むのが目的だと最初は思ったが……それだけではなかったか。これはまだ他に何か狙いがあるな。
「何度も言うようだけど、ヴェルデちゃん自身はとても良い子よ。あの子を責めるようなことは慎みなさい?」
「……分かってるさ。僕がそんな事をするように見えるのかい?」
「さっき自分が彼女に何をしたか、もう忘れたのかしら?」
うっ、と言葉に詰まる僕を見て、姉さんは深いため息を吐いた。
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