第16話 報連相

 お天道様もご機嫌のお昼。


 1週間の特別訓練の3日目、担当教員のダリア先生が気だるそうに号令をかける。


「天幕展開ー」


 俺たちはその号令に従い、代表者一名が格納魔法を展開し、天幕を取り出す。

 そして、他の生徒たちですぐに天幕を固定していく。

 風圧抑制魔法に耐熱魔法等、天幕の魔法耐性ギリギリにバフをかけていく。


 他のクラスでは、魔法耐性以上の負荷をかけてしまい爆発なんて事も多いらしいが、流石はアルバスの生徒たち、1度の失敗もなければ速度もかなり速い。


「ふむ。お前達は大丈夫そうだな」


 ダリア先生も満足げだ。


 この特別訓練期間中は、オースティンのグラウンドで行われており、基本的に各人の固有魔法の使用は禁止されている。

 固有魔法が炎や水などを持つ生徒が班にいた場合に有利になってしまったり、暴発を起こしてしまった時に危険になってしまうからだ。


 なので、薪を集めたり、水源を探したり等が必須となる。

 と言う事もあり、千里眼魔法や発火魔法など、基本的な常駐魔法をここで習わされると言うわけだ。


 3日目の途中からは班行動の訓練となる為、リーダーであるアリアが収集を掛ける。


「第1班集合」


 班員の俺たちは直ぐにアリアの前へと整列し、サブリーダーである俺は異常の有無をアリアへと伝える。


 班行動とクラス行動で1番違う点は、魔獣と遭遇する確率である。


 ラースの森では魔獣が多く生息していて、殆どが初級魔獣にも属さないような可愛らしい魔獣なのだが、初級魔獣も少数生息している。


 クラス行動の様な大勢でいる時は基本的に魔獣は姿を見せないのだが、6人と言う少数に変わると話が変わってくる。

 なので、班行動の訓練ではそう言ったことから身を守るための魔法が教えられる。


 ダリア先生は各リーダーの元へと行き、使用魔法を伝達する。それを各リーダー号令の下、演練していくと言うわけだ。


 アリアは俺たちに使用魔法を伝達し、号令をかける。

 元々授業で習った様な魔法なので、ただそれを実演していく。

 威圧魔法や投石魔法、目眩し魔法等、難易度もそんなに高くなく、初級魔獣には有効とされる魔法。


 それでも撃退が不可能な場合は、リーダーのみ固有魔法の使用が許可されているので、そちらで対処をするらしい。

 うちのリーダーは学年トップの5つ星魔法使いなので、アクシデントの心配は無用なのだ!……多分ね。




 一通りの訓練を終え、ダリア先生が指揮を解く。


「明日も同じ様な訓練だが、しっかりと寮でイメージトレーニングしておく様にー」


 俺たちは返事をし、グラウンドを後にする。

 するとシャーロットが俺の肩をポンと叩きながら話しかけてきた。


「やほー! イブくん調子はどう?」

「なんかテンション高いな」

「今まで、座学が多かったからね! 一日中外で訓練なんて……楽しくてしょうがないよ!!」

「ははっ、確かにね」


 俺とシャーロットが話しているのを聞いて、同じ班員のミハも会話に参加してきた。


「僕はもうクタクタだよ。シャーロットさん凄いね」

「ミハくんは情けないなー。私は元気が有り余ってるよ!」

「ダリア先生に延長で訓練させてもらったら?」

「あはは、絶対無理でしょ」


 3人でその様なことを談笑しながら教室へと戻り、クラスミーティングをして、その日は下校となった。


 部屋へと戻る前に……


 呼び出されている場所がある為、職員室の更に奥、校長室へと向かう。


 この間の悪魔 レクイエム の話を一応アレフ校長へと伝えにいく為だ。


 勿論、褒められることはないだろう。完全なる独断専行、一言の相談もなしに勝手に進めてしまったからである。


 バレてないなら言わなければいいんじゃない! とも勿論思ったさ、思ったんだけど……

 特別演習場の結界を組み替えたのと、この様や事例があったと言うことを伝えておくことで、次の事案への対処にも繋がっていくからである。


 結界の組み替えがバレた暁には、アレフ校長の中で犯人は自ずと決まってくるしね。複雑すぎるとは行かなくても生徒はおろか、教員の中でも組み換えできるものなどそうはいない。

 そうなったら怖すぎる。


 校長室へと入室した俺は、アレフ校長への挨拶を終え、淡々と事の経緯を話していった。




 俺の話を聞き終え、俯きながら長いため息を吐き、アレフ校長は話を始める。


「確かに、君が単独で動いた方が事も荒立たず穏便に済ますことができるのは分かる。しかし私には一言言うべきではないのか?」

「申し訳ございません。反対される可能性を示唆致しました」

「だからと言って、君の考えは結果論だろ?確実に殺せると確信してその場へと出向いたのか?」

「はい。そう判断したので相談をしませんでした。」

「必ず一言声をかけろ。結果的に出来たから良かったものの、出来なかった時、被害は物凄いことになっていたぞ?」

「申し訳ございません」


 説教が終わり、校長は最後に通信結晶を俺に渡した。


 次何か緊急のことが起きた場合、これを使用して相談できるために。


 使わないに越した方はないけど、何かあった時は直ぐに相談しよう。めちゃくちゃ怖かったしね!


 報連相の大切さを改めて認識をし、寮へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る