ミルクティーよりも苦くて甘い恋
あやかね
1章 クラスのアイドルを助けて告白されるまでの話
第1話
物語の始まりはだいたい主人公の自分語りで幕を開ける。自分がどういう人間で、どれだけ平凡かを数行に渡って書き散らすあれだ。僕はあれが嫌いだ。主人公の生い立ちなんぞに興味は無いし、同族嫌悪を抱く。僕だって平凡なのになぜ女神が降りてこないのだろう。平凡だしなんの取り柄も無い。特に容姿を良くしようと努力をしてはいないし勉強に勤しんでいるわけでもない。それなのにラブコメヒロインはそういう者どもに理由も分からず惚れるのではないのか! ………この物語の主人公たる僕『
四月。何の希望もない。高校生になったからなんだというのだ。新しいクラスメイトにむやみに希望を抱き、ありもしないバラ色高校生活を
初登校の朝。
知らない教室へ行き、入学する前のオリエンテーションを受ける特別な時間。これからクラスメイトとなる者たちの不安そうな顔を見て、心のドキドキするようなむず
どんな日々が待っているのだろう。初めて出会う高校の教師のオリエンテーションを聞きながら僕の胸は高鳴っていた。
――――――この日だけは。
七月。クラス内のコミュニティが固まり、いつもの友達ができはじめるころ。教室の片隅に僕の姿があった。それはあたかも川の流れに
「最近動画も同じのばっかでつまんねーよな」
「分かる。人気があるやつの動画しか回ってこんから飽きるんよな」
「テレビも予算が無いとかでクイズと歌番組ばっかりだしよ。勘弁してくれ……」
いかにも朱に交わる事の出来なさそうな黒の集まり。
猫背だったり出っ歯だったりニキビだらけだったり、何もかもを容姿のせいにして己の素行を棚に上げる彼らこそクラスのはみだし者である。
クラスメイトは彼らを石ころ同然に扱い、授業などで発言する時だけ彼らを認識した。彼らもまたそれで良いと思っていた。カクレクマノミとイソギンチャクのような共生関係にあるというのである。クラスの陽キャたちに紛れる事で我ら陰キャは
僕はそんな愚かな集団に見切りをつけて一人孤高の道を選んだ。
僕の事をボッチと呼ぶ
「……はぁ、喉乾いた」
白米を喉に流し込んで席を立つ。お昼休みの教室はお弁当と陽キャの臭いで大変居心地が悪い。
外階段の下にある自販機へと向かい、僕はいつものミルクティーを買った。取り出し口に紙コップがセットされ、氷のじゃらじゃら投入される音を聞く。なぜ夏にミルクティーなのかって? 好きなんだからほっとけ。
これでも青臭い情熱を抱いていた時期はあった。中学生の時分は吹奏楽部で打楽器を叩き散らしたものである。バンドマンはモテるという軽薄極まりない理由で選んだ部活だ。軽音部が無かったから似た部活で代用したが、何の因果か全国大会まで進んでしまった。しかし、彼女は出来なかった。
そんな僕は部活に情熱を燃やす青春男児であった。それがどうしてこうなったのか。そこには聞くも涙語るも涙の事情がある。そのあまりの悲劇に全米が泣けばいいのに。と思う。
しかし、降って湧いた幸運を掴むことができるのは相応の努力をした者のみだが、不幸は誰にでも降りかかる。
ミルクティーを取り出し階段に腰かけた僕はボンヤリと空を見上げた。
「……まぁ、いまさら幸運なんて降ってこなくてもいいけどな」
もう頑張る事は疲れた。このままボンヤリと大人になってボンヤリと墓に入るつもりだ。2人よりも1人。人間結局死ぬときは独りなのだから何の問題があろうか。
しかし、ぽつりと呟いた僕の顔に降ってくる物があった。上の窓から放り投げられたらしい。
ピンク色の薄い布だった。
この階段は色んな部活が集まったB棟に繋がっており、この階段の上の窓はパソコン部の部室だったと記憶している。
パサッと顔にかかるその布は、洗剤の良い匂いがした。
それを幸運と呼んで
僕はその布をつまみ上げてパソコン部の窓に目をやる。
「……ブラジャー?」
開いた窓からブラジャーが降ってきた。
これこそが、僕の不幸の始まりだった。
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