さようなら。

らりるれり

第1話

「さようなら。」


紗奈はそう夢から目覚めた。


私が恋をした人は決して手の届かない人でした。


紗奈には大好きな人がいる。それは拓海先生だ。高校3年生である紗奈は4月に新しく入ってきた拓海先生に、一目惚れをした。こんなことは初めてだった。紗奈は3年生、だが、拓海先生は1年生の担当で関わることが全くない。



4月、、

「ねぇ〜紗奈!!あの先生めっちゃかっこよくない?!」

「え?!あ、うん。ほんとだ。」

紗奈は友達の優里からの返事もまともに出来ないくらい、夢中になっていた。


1週間が過ぎ、部活それぞれ顧問の先生が発表される日になった。体育館はとても暑かった。

「紗奈ー、拓海先生何部かな〜」

「ほんと気になるよね〜」



「卓球部は拓海先生です!若くてかっこいい先生に見惚れないように。」

校長先生が言った。

だが、紗奈には遅かった。校長先生の声は届くこともなく、ただただ拓海先生を追っていた。


紗奈と優里はテニス部。卓球部とは関わりもない。

「私、卓球部に入ろうかな〜」

「えっ?だめに決まってるでしょ!」

優里が変なことを言い出して、紗奈は少し焦っていた。紗奈も同じことを考えていたのである。到底こんなことは言えなかった。



拓海先生に出会って約1ヶ月。話すタイミングなんかなくて、毎日変わらない日々を送っている。1つ変わったことがあるとしたら、拓海先生を探すようになったことくらいだ。職員室に行けば会えるかな、などいつも考えている。



1週間後。話題は歓迎遠足についてだった。

「ねぇ〜紗奈〜?もうすぐ、歓迎遠足だね!!」

「また、あの山登るのやだよ〜。」

「絶対筋肉痛だわー。」


こんな会話をしている間に歓迎遠足当日になった。お昼休憩の時間になった時、優里が紗奈に近づいてきた。優里は拓海先生に話に行きたい衝動が抑えきれなかったようだ。優里は紗奈と違って何に対しても積極的だ。そういうところを紗奈は尊敬していた。紗奈は臆病で人見知りで、泣き虫で、優里とは真逆の性格なのだ。


「紗奈!行くよ!!!」

「えっ?!ちょっと待ってよ!!!」

紗奈は優里に手を引っ張られて、ついて行くしかなかった。拓海先生を見つけたが、相変わらず拓海先生は人気で、1年生の女子に囲まれていた。


「拓海先生ー!私たち、3年なんですけどー。」


優里は何を気にすることもなく、普通に話している。横にいる紗奈は約1ヶ月間、見ているだけしか出来なかった拓海先生がすぐ目の前にいることに動揺を隠せず、戸惑っている。


「ねぇ〜紗奈。」

「あ、うん。」


いつの間にか写真撮ることになっていた。話の展開がはやすぎて何もついていけない紗奈。滑り台の目の前で話していたから、滑り台に座って写真を撮ることになった。


「紗奈〜!横おいで!」

「えっ?あ、うん。」

「拓海先生は紗奈の横ね!」

「はい、撮るよー」


紗奈は死にそうだった。緊張しすぎてなぜか涙が出てきた。こんな姿絶対見せれないとすぐさま涙を拭った。案の定、拓海先生にはばれていない。頭が当たるかと思った。とても近くて、息するのも心も苦しかった。心臓の音が拓海先生に聞こえないか心配だった。


「拓海先生!私たちのこと覚えててくださいね!」

「おけおけ!余裕だって!」


優里は紗奈が拓海先生が好きなことに気がついていた。離れて、また自分たちがいた場所に戻ると、優里が…


「よかったねー紗奈!」

「え?あ、あぁ、知ってたの?!」

「何となくね!紗奈ったら、拓海先生のこと話すと心ここにあらずっていうか。教えてくれたら良かったのに〜」

「ごめんごめん!でも緊張したな〜。ほぼ話せなかったけど、心臓止まるかと思った。」

「ほんとだよー!次は話なね?」

「つぎ、ね、…」

「写真後で送っとくね!」


今さらになって紗奈は拓海先生の横で写真を撮ったことに動揺していた。今まで何も行動を起こせなかった紗奈が5センチくらいの距離で一緒に写真を撮ってしまった。嬉しいはずなのに、嬉しさを今は表せないほど緊張からの解放感が強い。


その日の夜。優里から写真が送られてきた。紗奈は現実に戻り、嬉しさが隠しきれなかった。


「拓海先生は私のこと名前を覚えているかも分からない。何百人もいる学校で私はただの生徒。あーどうしたらいいんだろー。きっと私は何も出来ない。告白なんてできるわけがない。先生と生徒。決して許されない。話すことでさえ精一杯だから。でも、もしも、もしも……」

こんなことを考えてしまう私は身の程知らずの馬鹿だ。


拓海先生を目で追うだけの毎日をただただ過ごしていた。

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