第3話 ギャル 小テストを食べる
テストが近い。
皆、この時期はピリピリし始める頃だ。
私も頭を抱えていました。
どうすれば『紫崎くんと一緒にテスト勉強をする』というシチュエーションに持っていけるかで頭がいっぱいだった。
私が紫崎君に勉強を教えるにはそれなりの口実が必要だ。
『紫崎君。私が勉強教えてあげる』
これは駄目ですね。こんな上から目線女可愛くない。男性のプライドを刺激するような真似は一発で嫌われてしまうからアウトです。
ギャルはお馬鹿なくらいが愛嬌あって可愛い。
つまり――
『紫崎君。私に勉強教えて♡』
「これだあああああああああああ!!」
「うわぁ!? ど、どうしたの!? 黒峰さん!」
その場で立ち上がり不意に大声を上げた私に驚きを示す紫崎君。
あっ、もしかして今話しかけるチャンス!?
「紫崎君。私に勉強教えてほしいな♡」
「黒峰さん前回の試験ランキングで学内1位じゃなかったっけ?」
ぐっ、そういえばそうでした。
早速計画に支障が……
「紫崎君。私、実は記憶喪失なの。前回の試験後から現在まで学習に関する記憶だけが抜け落ちてしまったの。これは誰かに勉強教えてもらわないといけないです。絶対そうです」
チラッチラッと紫崎君に視線アピールしながらぶりっ子ポーズで懇願する。
「なにそのピンポイントな記憶喪失は!? ていうか黒峰さん、たった今返された小テスト余裕で満点取ってたよね!? そこに満点答案広がっているし」
グシャ! もぐもぐ
「小テストを食べた!?」
「もぐもぐ……小テスト? なんのことかな? バカな私にはわかんなーい」
「満点の答案をもぐもぐさせながらよくそんなこと言えるね!? ていうか本当に不衛生だからホラ吐き出して!? ねっ!?」
「ごくりんこ。お願い紫崎君。馬鹿な私に勉強を教えてください」
「たぶん僕が教えなきゃいけないのは倫理観だと思う!!」
「(((紫崎が正しい)))」
「あと、二人きりだと手に負え――じゃなかった。き、緊張するからさ。他にも2人くらい呼んでもらえると」
確かに。いきなり二人きりは私もハードルが高い。緊張で何しでかすか自分でも分からない。
でも大丈夫。そういう時に止めてくれるお友達が私にはいる!
「召喚! 朱美ちゃん! 佐藤君!」
「アタシはいつからアンタの配下になったんだ」
呆れながらもしっかり私に付き合ってくれる朱美ちゃん。好き。
佐藤君も何も言わず頷いてくれている。なんでこんなに良い人なの? 今まであんまり喋ったことないのに。
多少強引だったけど紫崎君は最終的に一緒にテスト勉強することに了承してくれた。
やっぱり恋の進展には多少の強引さも必要だよね。
「すごい。紫崎君。教え方上手なんだね」
これはお世辞でもなく本音だ。
紫崎君はいい先生になれる。あ、やっぱダメ。近づいてくる女の子の教え子に片っ端からパイルドライバー喰らわせたくなるからダメだ。紫崎先生は私だけの先生なんだから。
「う、うん。それはありがとう。それはそうと……近いね」
「えっ? 5mmも離れているのに?」
「せめてセンチ単位で離れるべきかなと」
「でも近くないと手取り足取り教えづらくないかな?」
「テスト勉強で何を手取り足取り教えなきゃいけないの!?」
「お互いの足を絡めながらテスト勉強したら捗ると思いませんか?」
「どう考えても集中できなくなるよ!?」
私の提案を尽く拒否してくる紫崎君。
あっ、もしかして――
「紫崎君。もしかしてだけど緊張してる?」
「そ、そりゃあ……ね。黒峰さん美人だし、こんなに近いといい匂いするし」
「ぬぎょはああああ!!」
「久々に出たな!? 謎の雄叫び『ぬぎょはああああ!!』」
し、紫崎君に美人って言ってもらえた。良い匂いって言ってもらえた。
嬉しい。もっと彼に喜んでもらいたい。
「ち、ちなみに紫崎くんはどんな香りが好き?」
「む、難しい質問だね。僕は緑の香りとかが好きかな。ハーブ系とか」
「わかったわ! ちょっと待ってて! すぐに教室を緑でいっぱいにして見せるから! 佐藤君手伝って!」
佐藤君は首を縦に振って私の指示通りに動いてくれる。
「紫崎君、今最高の土壌を持ってくるからね!」
「教室内に!?」
「最高の緑は良質の土あってこそだよ! 大丈夫! 私と佐藤君なら一日もあれば教室内をジャングルに変えられるから!」
「それは緑化活動の幅を大きく超えているよ!」
いつの間にかテスト勉強が室内緑化活動へと変更になってしまっているけど、でもいいの。一緒にテスト勉強をしたいというのは私の願望。そんなものよりも紫崎君に喜んでもらえる行動を起こしてあげたい。
「……ねぇ、朱美さん。キミの親友すごいね」
「……まぁね。元々変な方向に突っ走っていてしまう子だったんだけど、あそこまで頭おかしいのは初めてだわ」
「でもそれが黒峰さんの一番の魅力なんでしょ?」
「そうね」
「……眩しいなぁ」
私と佐藤君が土の運搬業務を行っている最中、その様子を朱美ちゃんと紫崎くんがぼんやりと眺めていた。
紫崎君の優しく見守る視線がぶつかり、私の心臓は飛び跳ねた。
ああ……
もう駄目だ……
好き過ぎてどうにかなってしまっている……
決めた。
告白しよう。
この室内を緑でいっぱいにすることができたら私の思いをぶつける。
やると決めたらもう迷わない。
ギャルというのはそういう生き物なのだから。
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