あなたがギャルを好きと言ったから

にぃ

第1話 ギャル 猛者感を存分に醸し出す

 うへへ。紫崎くん。今日も格好いいなぁ。隙あれば体操着盗みたいなぁ。

 彼の中性的な声も大好き。毎日録音してイヤホンでそれを聞きながら寝るのが生涯の楽しみになっていました。

 今日も彼はお友達と他愛ない会話をしている。もちろん録音中。

 だけどその他愛ない会話が私の人生を狂わせることになった。







「朱美ちゃん。私、ギャルになる」


「う、うん? どうした急に……」


「私の好きな人が『付き合うなら断然ギャルが良い』と言っていたからです!」


 私の好きな人。

 紫崎恭弥くん。


「紫崎のやつ、そんなことを言っていたか」


「あれぇ!? どうして私の好きな人が紫崎くんであると知ってるの!?」


 朱美ちゃんには『好きな人はいる』と言ってあるけど、それが『紫崎くん』であることを教えていなかったはずだ。


「いや、わかるわ。紫崎とすれ違う度にアンタ彼の匂い嗅ぎ始めるし、前の席のアイツからプリント受け取る時、両手でアイツの手を握り締めに行っているし」


「だってだって! 彼の香りを体内に取り入れることは必要な栄養補給だし、彼の手に触れることで私の血流の活性化にもつながっているんだもん」


「意味わからんわ! 真白、アンタ恋すると意味不明な方向に突っ走るよな。奇行の次はギャル化? 無理すんなし。ていうか真白は『ギャル』とは一番遠い位置の女の子じゃん」


 朱美ちゃんの言う通り、私、黒峰真白は見た目が大人しいタイプだった。対して『ギャル』とはその真逆の位置に在する者。


「う、うん。でも私、頑張るの」


 紫崎くんの好みの女の子に少しでも近づく為に、黒峰真白、ギャルになります!







「皆さん! そして紫崎くん! おはようございます!」


 ギャルに変身した初日の登校。

 うふふ。皆さん私を見て驚いています。

 紫崎君をチラッと見ると口を大きく開けて呆然としています。その口の中に住みたい。


「ま、まままま、真白!? 真白――だったもの!?」


「なんですか朱美ちゃん。『だったもの』って。えへへ。どうです? どこからどう見てもギャルでしょう?」


「どこからどう見ても変態よ!!」


「えええ!?」


「ちょっとこっちにきなさい!」


 朱美ちゃんに連れられ、人気の少ない場所にまで担ぎ込まれる。

 朱美ちゃんひどく狼狽えている。その表情には沈痛なものが浮かんでいた。


「ツッコミどころが多すぎるわ……そうね、まず、その足の装備品は何!?」


「何って……普通の50cm厚底ブーツですけど」


「普通の厚底ブーツはそんな竹馬みたいなものじゃないのよ! ていうか今までよく転ばなかったわね!?」


「紫崎君の為に足腰を鍛えてきました」


「あと、どうして靴下片っぽ履いてないのよ!?」


「片足ルーズソックスです。ちゃんと片方失ってきました」


「ルーズって『失う』って方の意味じゃないからね!? 『緩い』って意味の方だし!」


 なんと。朱美ちゃんに指摘され自分の解釈違いに気づく。


「あと、爪! 何この意味不明な長い付け爪は!?」


 朱美ちゃんが私の付け爪に気が付いてくれた。

 70cmの鋭利の爪がキラリと光る。


「ふっふっふ。90年代後半に流行していたというヤマンバギャルの特徴です。ヤマンバっぽく攻撃力重視で装備してきました」


「可愛さ重視で選べ!? 猛者感出してどうするのよ!?」


「えっ? 付け爪って相手を威嚇する為につけるものですよね?」


「猛者感!!」


 朱美ちゃんはどうして頭を抱えているのだろう? ルーズソックスの解釈違い以外完璧なギャルの装いだと思っていたのですが。


「まぁ、いいわ。全然よくないけどまぁいいわ。私がね……最も突っ込みたかったのは――」


 朱美ちゃんが私の背後に回り、私の背中から伸びる『妖精の羽』をむんずと掴む。


「このバカでかい羽はなんじゃああああああああ!?」


「知らないんですか。朱美ちゃん。これは00年代後半に流行った『アゲハ系』ギャルの特徴ですよ」


「アゲハ系を通って来た先人様全員に謝れ! 妖精コスプレすることをアゲハと勘違いしてきたな!?」


「えっ!? 違うのですか!?」


「これが流行っていたら大問題になるわっ!」


 正直、ギャルファッションの中でこれが一番可愛いと思って気合を入れて徹夜で作ったのに。


「ちなみに『耐風』『耐水』『耐熱』にこだわった作りです。付与能力だけじゃなく骨組みも丈夫なので防御面でも優秀なんですよ♪」


「鍛冶師にでもなれ! アンタは!!」


 本当は肌を焼いたり髪色を染めたりするべきかなとも思ったのだけど今の私にはそこまでする勇気はなかった。

 だからこそ装飾品で身を包むくらいは全力で取り組んだ。

 朱美ちゃんは色々言ってくるけど私なりに自信のあるギャル変身だった。


「ね、朱美ちゃん。今の私のギャルギャルしさなら紫崎君も気に入ってくれますよね?」


「真白……正直に言うわ……」


 片手で頭を抑えながら沈痛の表情を向けてくる朱美ちゃん。

 意を決するように強く言ってきた。


「お前のそれはギャルじゃねーよ! ギャグだよ!!」


 木霊する朱美ちゃんの叫び。

 ギャグと言われようと私は自分の信じるギャル道で紫崎君にアタックするの。


「今に虜にしてあげますからね紫崎君。ギャ~ルギャルギャル!!」


「ギャルは『ギャ~ルギャルギャル』って笑ったりしないわぁぁぁっ!」


 黒峰真白17歳。

 ギャル始めました。

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