トイレのまりさん

神山れい

明日の運勢

 三番目のトイレに、花子さんがいる。

 これはよく聞く噂。

 わたし達の学校には、二番目のトイレにまりさんがいる。


「まりさん、まりさん。明日の運勢がよかったら一回ノックしてください。悪かったら二回ノックしてください」


 少しして、静かな女子トイレにノックが二回響いた。

 コン、コン、と。

 二回ノックされたと言うことは、明日の運勢は悪いと言うことだ。それを知った彼女は、翌日学校を休んだ。

 話を知らない者なら、不思議に思うだろう。

 運勢が悪いと言うだけで、休まなければならないのかと。


 こんな話がある。

 彼女と同じく、運勢が悪いと言われた子がいた。その子は翌日も普通に登校し、何事もなく授業を受けていたが、下校の際に交通事故で亡くなった。


 そして、更に翌日。

 彼女は昨日の夜に自宅で亡くなっていたそうだ。

 つまり、答えは休んでも休まなくても同じ。

 悪いものは、休んだところで何も変わらず、悪いものは悪いのだ。


 誰もがまりさんに恐怖し、誰もがそのトイレに近付かなくなる。

 ──そんなことはない。恐怖はするものの、まりさんに占ってもらいたいものはまだまだいるのだ。


 それは何故か。

 たった一回ノックされるだけで、劇的に人生が変わることを知っているからだ。

 宝くじを買い、億万長者になった者。偶然であった者に見初められ、玉の輿に乗った者。何せ、人生の幸せが約束されているのだ。


 だから、今日もまた自分の人生を賭けて誰かがノックをする。

 そうして、こう言うのだ。


「まりさん、まりさん。明日のわたしの運勢を教えてください。良ければ一回、悪ければ二回、ノックしてください」


 コン、コン、と静かなトイレにノックが響いた。

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トイレのまりさん 神山れい @ko-yama0

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