第2話 Case1 絡んだ赤い糸(後編)
「一度切ってしまうと、次の相手を見つけて繋げるまでに時間がかかるから、丁度いい時期に運命の人に出会えなくなるのよ。そんなだから、晩婚の人が増えるし、婚姻率も下がるんだわ」
イヴが嘆くような口調で言う。
ホントにイヴの言う通りだ
それにもっともっと深く根深い部分にも影響することを知らないひとが多すぎる
リオンは二人の会話を聞きながら心の中でそう呟いたが、続きはミウへの指導を兼ねて口に出して言った。
「赤い糸を切って、誰とも繋がっていない期間が出来ると、人によっては副作用が出ることがあるので注意が必要なんだ」
リオンがそう言うと、ミウとイヴがリオンの方を見た。
「多かれ少なかれ皆、寂しい気持ちに襲われるんだけど、人によっては寂しさが恐怖に感じるレベルになって、自ら命を絶つキッカケになることもあるし、歪んだ感情を持つようになってしまって、ストーカーに走るようになるケースもあるんだよ」
リオンはだまになった糸を少しでも崩せないか手を動かしながら言う。
「巻き込まれただけの人がなるべくそういう状態にならないよう、天使は気を配って手厚くケアをしていく必要がある。でも、……本当に最近は対象者が多くて天使達も全然回ってない状況なんだ」
リオンはそこまで言い、何かに気付いて糸をほぐす手を止めた。
「まいったな、この男、すでに伴侶と出会っているのに出会い系サイトでいろんな女性と……」
リオンは左手でだまになった塊を持ち、右手で一本の赤い糸を持った状態でそう言った。
えっ? と言う様子でミウとイヴもリオンが右手に持つ赤い糸を掴んだ。
「うわぁ、本当だ。最低ね」
イヴが本当に嫌そうに言う。
「うわぁ~、しかも相手は高位レベルの魂をもつ女性ですよ! それで浮気なんてありえないですね」
ミウが驚いて声を上げた。
「え? 高位レベルの魂??」
イヴが驚いてもう一度しっかり糸を掴んで確認する。
「本当だ! この低俗な男の相手がこんな高潔な女性の運命の相手なんてありえません! これ、絶対ミスですよ。こんなふたりを繋げちゃうなんて!」
「うん、そのようだね」
イヴの言葉にリオンは頷く。
「これは”繋ぐ課”のミスだね。まったく、……”繋ぐ課”の連中は何をしてるんだか」
リオンは呟くように言う。
「とりあえず、早く切断してしまおう。で、すぐに”繋ぐ課”にクレームを入れて、なるべく時間を空けずにふさわしい相手に繋ぐように頼まなきゃ」
リオンがそう言うとふたりは、”はい!”と元気に返事を返した。
ふたりはぐちゃぐちゃのダマになっている赤い糸の、両サイド持ち
「んじゃ、切りマース」
と言ってから、ジョキジョキと切っていった。
~~*~~
「おはよう、悠里。大丈夫?」
ベットの上で目が覚めて体を起こした悠里にキッチンから智美が声をかけた。
「……うん。平気」
「ご飯できたよ。食べてから、梅の花でも見に出かけない?」
「梅? いいわね、行こう」
笑顔で答えて、悠里はぱっとベットから出る。
「凄く気持ちが軽いわ。昨日、話を沢山聞いてもらったからかな」
「それなら、良かったわ。ほら、座って」
悠里がテーブルに着こうとしたとき、携帯が鳴った。彼氏のマサルだ。
「ありゃ、彼氏から電話か。梅は無理かな。いいよ、出て」
携帯の表示を見て、智美がいう。
悠里は電話に出た。向こうから聞きなれた声が聞こえて来る。
「あ、悠里? 今日、出掛けないか? 先週のお詫びに奢らせて欲しい」
悠里は不思議な感覚になった。
なんだろう? いつもなら嬉しいこの声に心が全く響かない
「お詫びなんて、別にいいわ」
悠里は、電話の向こうにそう伝える。
「まだ怒ってるの? あの子は本当にただのバンドのファンだからさ」
「……」
悠里は、全く怒ってもいない自分に気付き不思議に思う。
「お~い、悠里、聞いてる?」
「あ~うん。……えっと、……ごめん、もういいから」
「え?」
「うん。別れましょう。だから好きなだけファンの女の子達と遊んでください。じゃあ、いままでありがとう。さようなら」
そう言って、悠里はぶちっと電話を切った。
「何、一体どうしたの??」
横で聞いていた智美が驚いて聞く。
「いや……なんだか、すごくスッキリしるの。なんで私、昨日まであんなに泣いてたんだろ? 智美の言う通り、あんな男のどこが良かったのか、なんかホントに分かんないわ」
「まるで、憑き物が落ちたみたいね!」
「うん。ほんと、そんな感じかも。自分でもよく分からない」
悠里はそう言い首を傾げた後、智美を見る。
「……まぁ、もうどうでもいいわ。さ、食べて梅を見に行こ!」
そう言って悠里が微笑むと智美も微笑み返す。
「OK、そうしよう。いや~本当に良かった! 私は嬉しいよ悠里!」
2人は、さわやかな気持ちで朝食を食べ始めた。
「Case1 絡んだ赤い糸」完
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