第21話

「紅羽ちゃん、素はあんな感じなんだね~」


 紅羽と別れ、教室の席に着くと夕実が声を掛けてきた。


「な? 言った通り、面倒くさいだろ?」

「そんなことないよ~、すっごく可愛いじゃん」


 まぁ、夕実の場合はそうだろうな。

 夕実に限らず、彼女は誰に対しても可愛がられる。

 人懐っこくて誰に対しても平等に接する理想の美少女を

 夕実に対しては少し素の彼女を見せていたが、まだまだほんの片鱗しか見せていないだろう。


「いつもあんな感じなの?」

「いや、いつもは猫を被ってる」


 正直、夕実に素を出すのが意外だった。

 紅羽は基本的に僕以外の誰にも素を見せる事はない。

 だが、夕実に対しては何故か素の彼女でいたのだ。


「そうなんだ~」

「猫の中に虎が入ってる」


 実際、猫という可愛らしい生き物ではなく、虎のように狂暴な性格をしている。

 何かにつけてかみついたりどついたりと僕に対してはやりたい放題だ。

 夕実は僕の言葉に口元に手を当てクスリと笑う。


「ふふっ、虎って……」

「実際、凶暴だぞ?」


 ぎゃぎゃー騒ぐわ、噛みつくわ、脅すわ。

 正直、ろくでもない。


「それは……まぁいっか」


 夕実がそう言うと同時に、本鈴が鳴り先生が入ってくる。

 そして午後の授業が始まった。

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