第12話 西都州 西永 ②
桂申とはそこで別れ、執事に連れられ奥の方の部屋に案内された。
中には15、6歳くらいの少年が2人ソファに座っていた。2人ともキレイな顔立ちをした少年だ。明蘭が部屋に入ると一斉にこちらを見た。
「今日から入った新入りだ。侍従教育を頼むぞ。仕事は明日からの予定だ。」
執事はそう言い残すと明蘭を残し部屋の外に出て行った。
「あの、明翔です。侍従教育って何ですか?」
「お前何も聞いてないのか?」
背の高い方の少年が尋ねてきた。
「桂申に、奥様の話し相手をする仕事って聞いただけで。」
「ああ、桂申さん。あの人なんでも大雑把だからな。まあ間違ってはないが。・・・宝林様は幼い少年がお好きなんだよ。俺たちはもうそろそろ宝林様の好みから外れるから新しい子供を探してたんだよ。」
「お話のお相手をするんですか?」
「はっ。話だけのわけないだろ。身体やもろもろ込みに決まってる。」
小さい方の少年が吐き捨てるように言った。
顔色の変わった明蘭を見て、大きい方の少年が意地の悪い笑みを浮かべた。
「慣れれば大したことないさ。ちょっとだけ我慢したら給料もいいし、住むところもおいしい食事も与えられる。仕事は体力もいらないし、宝林様の機嫌を損ねない限りは危険もない。」
ますます顔色の悪くなった明蘭に小さい方の少年が言った。
「ここまで連れてこられたら逃げられないさ。あきらめろ。」
その後、宝林のもとでどういったことをするのか、彼女の嗜好など、いかにして彼女の機嫌を損ねないようにするかを教えられた。
「まあ、だいたいこんな感じだ。明日の夜から初仕事だな。初日は先輩達がしていることを見ているだけでいいだろう。今日は遅いし、もう部屋で休め。」
少年たちに指示され、別の部屋へと通された。
中は個室で寝台とタンスが一つずつ置かれた殺風景なものだった。
侍従とは名ばかりのとんでもない仕事内容はもとより、明蘭は男児ではないし、ここに留まるという選択肢はない。
逃げるしかないな。
そっと部屋から出て、お手洗いに行くふりをしながら出口を探した。
廊下を道なりに進むと、かん高い女性のあえぎ声と少年の声が聞こえた。戸がうすく開いていたので、そっと覗き見ると太った中年女性の上に裸で乗っている少年やまわりに10~15歳くらいの少年数人がはべっているのが見えた。その醜悪な光景に明蘭は顔をしかめ、そっとその部屋から離れた。
寿峰ほどではないが、明蘭も小さな火をおこしたり水を出したり自然を操る仙術が少し使える。
自分がいるところから離れた階段の踊り場に置かれていた趣味の悪い裸の少年象に火をつけ小さなぼやを起こした。燃え広がって大火事にならないよう細心の注意を払って火力を調節しながら、家の者たちがそちらに気を取られている間に急いで一階に降り外を目指した。
その時、ある部屋の中から声が聞こえた。
「それは本当か!
桂申の声か?
「ああ、いつものお気に入りの占い師に占わせたら、あの辺りに悪い気が溜まっているから全て火で浄化しないといけないと言われたとおっしゃっていた。」
「占い?ばかな。・・・決行はいつだ?」
「次の朔の日の夜と聞いたが・・・。」
「朔?・・・今日じゃないか!台関には妹が、
扉が激しく開け放たれ桂申が飛び出してきた。
「まて桂申。宝林様は流行病の後遺症で起こる肺病の患者を殲滅されるおつもりなんだ。小鈴を逃がしたらお前まで投獄されるぞ!」
奥にいた男が桂申の腕をつかんで言った。
「はなせ!それなら小鈴を連れて他の州に逃げるさ。」
男の手を振りほどき、桂申は駆け出して行った。
物陰から見ていた明蘭は桂申の後を追った。
台関というのは、西永の中でも貧民層の多く住む治安の悪い地域である。台関地区にいる桂申の妹を含む肺病患者を焼き殺す計画があるということか。
明蘭が暮らしていた天竜村も父の明翔を含め、後遺症の肺病患者が沢山いた。彼らの顔を一人一人思い出してみた。
なんとむごいことを・・・。
屋敷の外に出た桂申は馬小屋の中へと入って行った。
外から見ていると、やがて馬を一頭連れだしてきた。明蘭も馬小屋に入り、すばやく馬を一頭選び、飛び乗って桂申の後を追いかけた。
桂申は門のところにいた守衛に止められていたが、
「宝林様に急ぎの伝令を頼まれたんだ!」
とウソをついているのが聞こえた。
「桂申様のお供です。」
明蘭も何食わぬ顔でそう告げ、桂申の後を追いかけた。
西永の中心街まで駆けてきたところで、南の方で大きな火の手が上がっているのが見えた。
「小鈴!」
桂申が大声で絶叫し馬の速度を速めた。
台関地区に着いた時には、辺り一帯火の海だった。
桂申は馬を乗り捨て、火の中に入って行った。明蘭もあわてて後を追った。
仙術で水を出し桂申の頭からかけてやる。明蘭の今の力では、それが精一杯だった。
桂申は一心不乱に妹を探しているようで、水がかけられたことにも気付いてない様子だった。
明蘭自身も水をかぶって布を口に当てて、桂申の後を追いかけた。
焼け焦げた小さな遺体の前で、桂申は膝をついて茫然としていた。
「桂申。」
明蘭が声をかけたが桂申は反応しなかった。
「雨で火は鎮火してるけど焼けた建物が崩れそうだ。危ないし早く離れた方がいいよ。」
「妹のなんだ。この溶けた指輪。俺がやったやつで・・・。」
遺体の手の辺りに熱で変形した金色の指輪がはまっている。
桂申は指輪を取り手に握ると、自分の上着を小鈴にかけた。
「あの女、許さない!殺してやる。」
絞り出すようにうなった。
そのままの勢いで立ち上がり、怒りのままに宝林の館に乗り込もうとしていた桂申に明蘭は仙術で当て身をくらわせた。不意打ちをくらい意識を失った桂申の身体を風の仙術で浮かせて背負った。
「仙術を使ってもさすがに重いな・・・。」
明蘭はため息をついて男を運んだ。
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