第二十九話 集結

 森は異様な空気に包まれていた。

 これまで何度もクリーチャーズとの戦いの舞台になったこの森だが、これまでのどの時よりも、森は禍々しい空気に包まれている気がする。

 さっきまでそんなことなかったのに、今は風が荒れて、空は分厚い雲に覆われていた。

「やっぱりおかしい」

 と、隣に立つ佐々木が言った。

 佐々木と海鳥とは先程合流した。

「『三頭狼ケルベロス』、『双頭狼オルトロス』、『丈夫獅子ネメアのしし』、『魔猪パイア』、『混合獣キマイラ』、『毒水蛇ヒュドラ』、『百頭蛇ラドン』、『神食鷲エトン』……クリーチャーズが全種類いる。しかも複数体」

 俺は何がおかしいのかわからないから訊いた。

「その何がおかしいんだよ?」

「クリーチャーズは群れを為さないのよ」

 聞けば、クリーチャーズは『魔獣女帝エキドナ』の命令に必ず従い、『魔力を持たない人間は襲うな』と、恒久的に命令されているそうだ。

 『魔獣女帝エキドナ』が何故そんな命令を出し続けているのかはわからないが、ただ、その命令によって人を襲えないクリーチャーズは、魔力を持つ者しか襲えず、常に魔力が枯渇し、生命力が不足気味のため、二頭以上が出会えば、必ずと言っていいほど共食いを起こすそうだ。

 確かに振り返ったら、これまで襲って来たクリーチャーズは、どれも単独で行動していた。

 気にしたことなかったから、疑問に思ったことがなかったけど……そんな理由があったのか。

 が――今現在、統率を取っているかのように行動しているということは、クリーチャーズは『魔獣女帝エキドナ』から新しい命令を受けているということで、それが意味することは、つまり――

「『魔獣女帝エキドナ』が近くにいる」

 佐々木はより一層警戒心を強めて言った。

「チッ。この数のクリーチャーズだけでも厄介なのにっ‼」

「けど言っちまえば、『魔獣女帝エキドナ』は完全に黒ってことだろ」

 話している最中にクリーチャーズが襲い掛かって来た。俺達は各々で攻撃を迎撃する。

 佐々木は空を飛んで火球で。

 海鳥は空へ跳んで繊維を張り巡らせて。

 俺は肩に担いだレイラが雷撃で迎撃した。

「神崎かなめ! あんたに言われた通りここに来たけど、これからどうするのよ⁉ この状況を増援なしで覆す方法なんてあるの⁉」

「あるよ」

「あるの⁉」

「ああ――レイラ」

「ん?」

 俺は山賊に攫われた姫のように担がれている、レイラに向かって言った。

 『災禍の化身』と言われている最強の吸血鬼に。

「暴れろ」

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