後方腕組み従者に絶対になる!!!

栗頭羆の海豹さん

第1話

「そこまで!!勝者!アリセシア・アマス!!」


 歓声を上げる者、あまりにも一方的な試合に戦慄する者にこの闘技場にいる者達の反応は別れていた。

 前者は女性、後者は男性に綺麗に分かれていた。

 それもその筈、アリセシアと戦っていたのは一年生の中でも頭一つ抜けて強い者だった。

 それが全ての攻撃が封殺された上で一方的に嬲られたのである。

 幾ら女性が強くなる傾向にあるアマゾネスでも異常な光景だった。


「流石です。アリセシア様。」


「お見事。」


「この程度、貴方でも可能でしょう。マリア。ノロ。でも、賞賛は素直に受けるわ。」


 闘技場の奥に設けられている休憩室に戻ってきたアリセシアはモニターで試合を観ていたマリアとノロが賞賛の声と共に迎えた。

 あの程度の雑魚を倒しての賞賛なんていらないと思っているが、親友達からの純粋な賞賛ならもらっておこうと思ったのである。


「アイスティーでございます。」


「ありがとう、ウス。・・・やっぱり貴方の淹れたお茶は格別ね。これが死闘の後だと更に美味しかったんだけどね。」


「なら、私と戦いますか?」


 自分の右腕であり、自身が唯一認めた男であるウスがイスに座って落ち着いた瞬間にお茶を置いた。

 自分の好みに合わせて味も温度も匂いも調整された最高のお茶を飲みながらこれで雑魚の試合後ではなく、強者との死闘ならもっと美味しいのにとさっきまで戦った雑魚に怒っていた。

 そんな主人の不完全燃焼を感じ取ったウスは己なら満足させられますと申し出たのである。


「・・・いや、それには及ばない。ウスとの戦闘は楽しいが、楽しみすぎてやり過ぎてしまうからね。大切な従者を傷物に出来ないよ。」


「そう・・・ですか。」


 いつもウスとの戦闘はコチラを絶好調にしてくれるため、本気の死闘前にすると調整には最適だった。

 でも、そのまま続けるとアマゾネスの戦闘本能を刺激しまくって加減がうまく出来なくなるのだ。

 その程度で死ぬ程ウスが柔ではない事は知っているが、それでも重傷を負わせる事はあるだろう。

 それに答えたウス相手にこちら側も無傷とはいかないため、この後も授業があるのにボロボロになるわけにはいかなかった。

 ウスは自分の力不足で断られたと思い込み落ち込んでいた。


「ねぇ、ウスって強いの?」


 そんなやり取りを見ていたノロは主人のアリセシアと違って社交界にも出てきた事のないウスの実力を知らなかった。

 自分達、アマス王国三大公爵家の一つ最恐のゾネ家の一人息子であるウスの噂は聞いた事はあった。

 男ながらAランク魔物の単独討伐に加えて王族近衛騎士を試合にて勝利したなど、様々な戦果を挙げていた。

 その中でも第二王女であるアリセシアの従者を決める選定戦で数多の女を勝ち抜いてその座を得たのがウスだった。

 それだけでもウスの実力は保証されているが、正確な強さを分かっていなかった。


「ウスは強いわよ。魔力は少ないけど、体格はこの通り男ながら長身で筋肉は鋼鉄より硬いわよ。それに武器はなんでも使えるわ。」


「なんでも?」


「なんでもよ。相手の一番苦手な武器で戦うことが出来るわ。」


「それは凄いですわね。それをする為にはかなりの鍛錬が必要だったでしょう。」


 それを聞いたマリアとノロは素直に称賛した。ただ使うだけならマリア達にも可能だ。

 でも、アリセシアが認めるだけの基準となると自身の得物以外では無いのである。

 それがなんでもレベルとなると並の鍛錬では手に入らない技術だった。

 その上、入学してから数日見てきたウスの給仕は実家の執事長と比べても遜色ないレベル、料理にしても料理長と同等である。

 この歳で大ベテラン達と肩を並べるレベルとなると才能もあるだろうがコチラにも並大抵ではない努力が注がれていたことが判断できた。

 ただ、時間が有限である。

 武にも給仕にもそして、学にも努力を惜しまず注ぎ込んでいたら身体が持たない事は自明の理である。


「皆様の予想通り、何度も倒れそうになりましたが、戦闘以外はどうやら才能があった事が幸いでした。なんとかアリセシア様に仕えるまでに及第点レベルになれました。」


「これで及第点って、アリセシア様、流石に厳しくない?」


「人聞きの悪い事を言わないで。ウス、私はそこまで求めてなかったわ。ただ、男が王女の右腕になるにはそれだけ大変と言うことよ。」


 アリセシアが考えていた従者のレベルはウス程ではなかった。

 ただ、ウスの母親、つまりゾネ家現当主が可愛い息子を家から出さないために無理難題にしてしまい、その無理難題をクリアしてしまったのである。

 その結果、男ではあり得ない力をウスは手に入れる事が出来たので、ウスは母を感謝している。


「ウス、そろそろ貴方の番でしょう。いってらっしゃい。」


「そうですね。では、行ってまいります。」


 ウスはそう言って部屋から出て行った。


「・・・・・・」


「マリアどうしたの?そんなにウスの去った後を見つめて?」


 もしかして惚れた?と茶化すアリセシアにマリアは首を振って否定した。


「いえ、ウス君は確かに強く惹かれると思っていたのですが、感じないのです。」


「あっ、それ分かる。僕も今まで会った男の子で一番強いのに何故か?惹かれない。ウスを見る度に奇妙な感覚に襲われるんだ。」


 そんな狐に化かされている様な表情をする二人に何故、アマゾネスの本能が刺激されないのか知っているアリセシアは微笑んで見ていた。


「その顔、アリセシア様は知っているんですね。」


 教えてくださいよ〜と言うノロにその内分かるわとはぐらかすアリセシアだった。

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