家出します

「いいかい?ヴィクトリア。僕が与えないと決めたら、絶対に与えないからね。そもそもどうして3日間もスイートポテトがもらえないのか、今一度考えてごらん?わかったね。僕はこれから公務があるから、傍にはいられないけれど、いい子にしていてくれよ」


私を自室へと送り届けると、さっさと部屋から出ていったディーノ様。


何が“今一度考えてごらん?”よ。私は何も悪い事なんてしていないわよ!確かに入学式をサボったうえ、ディーノ様が付けていた護衛たちを先生にばらしたのは悪かったけれど…


でも、ディカルド殿下の件は、向こうから近づいてきたのよ!それに別に、やましい事なんてしていし。私が反省する事なんて、なに1つないはずよ。


それなのにディーノ様ったら!増々腹が立ってきたわ。


引き出しの奥にしまってあったスーツケースを取り出す。


「お嬢様、またその様な物を引きずりだしてきて、今度は何をなさるつもりなのですか?」


はぁっとクロハがため息をついている。


「ディーノ様に腹を立てているから、実家に帰るのよ。クロハ、悪いのだけれど、荷造りをしてくれるかしら?」


「全くお嬢様は。分かりました、すぐに準備を行います」


再びはぁ~っとため息をつきながら、準備を始めたクロハ。珍しい事もあるものね、私の言う事を聞くだなんて。


そっとクロハのおでこを触った。熱は無いようね。


「お嬢様、一体何の真似ですか?」


「クロハが私の言う事を聞いてくれることが、信じられなくて。熱でもあるのかと思って、心配になったのよ」


「私はお嬢様の専属メイドです。お嬢様の言う事は、常識の範囲で叶える様務めておりますわ」


そう言ってクロハが怒っている。その割には、私の言う事をあまり聞いてくれないじゃない。今日だって、スイートポテトを食べさせてくれなかったし…よくわからないが、まあいいか。


荷造りが終わると、早速馬車に乗り込み、公爵家を目指す。


「クロハ、何かおかしいと思わない?いつもなら私が勝手に王宮を出ると、護衛はもちろん、ディーノ様も飛んでくるのに。今日はすんなりと外に出させてもらえるだなんて」


「そうですか?お嬢様の我が儘に、さすがに殿下も嫌気がさしたのではないですか?」


「私の我が儘は、今に始まった事ではないわ。ディーノ様と出会った時から変わらないわよ。やっぱり変だわ…何かがおかしい」


きっとディーノ様は、何かを企んでいるに違いない。このまま実家に帰ってもいいのかしら?行き先を領地に変更した方がいい?


「お嬢様、公爵家に着きましたよ」


「そう、ありがとう」


考えていても仕方がない、公爵家に着いたのだから、とにかく家に入ろう。そう思い、屋敷に向かったのだが…


「ぎゃぁぁぁぁ、どうしてこいつがここにいるのよ!!」


屋敷の外には、マーリン様が飼っていた恐ろしい大蛇の姿が。


「ヴィクトリアちゃん、大丈夫?」


腰を抜かした私に声をかけるのは、お義姉様だ。あろう事か、あの大蛇を首に巻いたのだ。


「お…お義姉様、その大蛇は一体…」


「実はね、私、爬虫類が大好きなの。この子の主でもあるマーリン様はあの後、処罰されたでしょう?それでこの子の行く場所がなくなってしまって…殿下が“よろしければ公爵家で飼ってやってくれないか”と、提案してくださったの。それで、思い切ってこの子を飼う事にしたのよ。ねっ、マロンちゃん」


何が“マロンちゃん”よ!ふざけないで欲しいわ。それにしてもあの男、私が蛇が苦手な事を知っていて、実家で蛇を飼う様に仕向けるだなんて!


「ヴィクトリアちゃんが帰ってくるときは、予めマロンちゃんを別宅の一室で過ごさせていたのだけれど…今日来るとは思わなくて」


そう言いながら、困った顔をしているお義姉様。その首には、ちょろちょろと舌を出した大蛇の姿が。本当に無理だわ。


腰を抜かしながらも、必死に逃げようとする。ふとクロハを見ると、涼しい顔をしていた。クロハめ、この大蛇が実家にいる事が分かっていて、私をあえて里帰りさせたのね。


涙目でクロハを睨んだ。


「ごめんね、ヴィクトリアちゃん、すぐにマロンちゃんを連れて行くわね。とにかく、ゆっくりしていって」


お義姉様があの大蛇を連れて、別宅に向かおうとしたのだが、何を思ったのか大蛇の奴が、お義姉様の首からスルリと抜けると、こちらにやって来たのだ。


「ぎゃぁぁぁ、お願い、来ないで!」


「マロンちゃん、ダメよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る