今日も平常運転です

「ヴィクトリア、やっと見つけた…て、どうしてヴィクトリアが、ディカルド殿下の輪から出てくるのだい?」


「ディーノ様、何を慌てていらっしゃるのですか?それにしても、どうしてディカルド殿下に令嬢たちが群がっているのでしょう。私はてっきり、新作のお菓子の発表をしているのかと思いましたわ。まさか人を見るために、集まっていただなんて」


本当に理解できない。もしかして、ディカルド殿下がお菓子でも配っていたのかしら?でも、そんな気配わなかった。とにかく無駄足を踏んでしまったのだ。


「ヴィクトリア様、いくら何でも学院で、新作のお菓子の発表はございませんわ…」


アマリリス様が苦笑いをしている。


「あら、そうなの?それならそうと、早く教えてくれるかしら?無駄足を踏んでしまったわ。なんだか急に、頭痛が…」


フラフラとその場に倒れ込む。このまま入学式を欠席してやろうと思ったのだが…


「ヴィクトリア、大丈夫かい?僕が抱っこして、ホールに連れて行ってあげるね」


すかさずディーノ様が私を抱きかかえ、嬉しそうに歩き出したのだ。


「ディーノ様、私は1人で歩けますわ。降ろしてください!」


さすがに沢山の人がいる中で、お姫様抱っこは恥ずかしい。


「でも、体調が悪いのではないのかい?」


「もう治りましたわ。すぐに降ろしてください!」


「分かったよ、残念だな…」


ディーノ様が私を下ろすと同時に、急いで歩き出した。あの男、羞恥心と言うものがないのかしら?そもそも王太子なのに、どうして皆の前で、あんな恥ずかしい事が出来るのかしら?なんだか悔しいわ。


その上、カルティア様とアマリリス様が、なぜかクスクス笑っているのだ。あの子たち、私を馬鹿にして。ギャフンと言わせてあげないと気が済まない。さて、なにをしてあげようかしら?


そうだわ!


ホールに着くと、4人で並んで座る。そろそろ式が始まるかな?よし!


「先生」


すっと手を上げ、近くにいた先生を呼ぶ。


「ヴィクトリア、どうしたのだい?」


「ヴィクトリア様?」


「ヴィクトリア嬢、どうされましたか?」


先生も急いでこちらにやって来た。


「申し訳ございません。先ほどから少し、体調が悪くて…でも、私は公爵令嬢です。何が何でも式にだけはと思いましたが、もう限界で…」


目に涙を浮かべ、フラフラとその場に倒れ込む。


「ヴィクトリア嬢、大丈夫ですか?真っ青な顔をしていらっしゃるではありませんか?大変です、すぐに医務室に参りましょう」


「待って、ヴィクトリアは…」


ディーノ様が何か言いかけたタイミングで、ちょうど式が始まったのだ。その隙に先生につれられ、ホールを出た。


「ヴィクトリア嬢、大丈夫ですか?歩けますか?」


「ええ、大丈夫ですわ。ただ…」


このまま入学式を欠席しただけでは、腹の虫がおさまらない。すっとポケットからあるものを取り出し、近くの草むらへと投げた。


すると、モクモクと煙が上がり


「ゴホゴホ…何ですか?これは」


出てきたわね。


「先生、ディーノ様は学院に内緒で、あの様な護衛を私に付けさせているのです。本来貴族学院は、とても安全な場所。その為、護衛は連れて来てはいけない決まりになっているはずです。それなのに、ディーノ様は…」


近くに隠れていた護衛たちを、煙幕であぶり出してやった。そして、涙ながらに先生に訴える。


「ディーノ殿下がですか?いくらヴィクトリア嬢が心配だからと言って、殿下自ら規則を破るのは良くありませんね。入学式が終わったら、殿下を注意させていただきます」


「ええ、そうして頂けると助かりますわ。私の言う事など、何も聞いて下さらなくて…あぁ、増々体調が…」


フラフラと倒れそうになる私を、先生が受け止めた。


「随分と体調が悪いようですね。今日はもう帰った方がいいです。担任の先生には、私から伝えておきましょう。ヴィクトリア嬢のクラスは、特待Aクラスです。明日から特待Aクラスに来てください。それでは、門まで一緒に行きましょう」


「これ以上先生のお手を煩わせる訳にはいきませんわ。先生はあの護衛を連れて行ってください。それでは、私はこれで失礼いたします」


護衛たちを縛り上げると、そっと先生に渡した。そして1人、フラフラとしながら門を目指す。しばらく進み、後ろを振り向く。よし、先生はいないわね。あの護衛たちもいなくなってる。先生が連れて行ってくれたのだわ。


あの程度の護衛を私に付けさせるだなんて、舐められたものだわ。さあ、早速学院の探検をしないと!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る