第37話 決着を付けましょう

「お嬢様、ついに明日、正式にお妃候補が発表される日ですね。殿下から明日着るドレスが届いておりますわ。本当に豪華なドレスですこと」


クロハがうっとりとドレスを見つめている。あの男、まだ私にこんなドレスを贈ってくるだなんて。


あの後、びっくりする程動きがなかったのだ。毒を盛られる事もなくなったし、我が家に不審者が侵入したりすることもなくなった。もしかして諦めた?なんて思う訳がない。


向こうが動かないなら、私から行くまでよ。


それにしても、そんなに私の存在が心配なのかしら?確かに殿下は私と仲が良いけれど、私がお妃になる事は絶対にないのに。


でも、もしあの方が捕まったら、私が王妃になれなんて言われないかしら?そのへんは上手くやる必要があるわね。


よし!


「クロハ、今日は明日に備えて早く寝るわ」


「承知いたしました。それでは私はこれで失礼いたします」


クロハが出て行った姿を確認し、灯りを消しベッドに横になった。そしてベッドの中に隠しておいたワンピースに着替える。しばらくそのままジッとした後、そっとベッドから出た。


きっと私の部屋の前には、護衛たちが立っている。前回窓から外に出たことがバレたため、外にも護衛たちが監視しているだろう。という事は、やっぱりあそこからね。


実は私、見つけてしまったのだ。私の部屋にある隠し扉を。この扉を使えば、簡単に外にでられるのだ。カーペットをめくり、隠し扉を開ける。通路は真っ暗なので、小さな灯りを頼りに外に出た。


そして向かった先は、中庭だ。誰もいない真っ暗な中庭。どんどん奥へと進んでいく。


「お待たせしてごめんなさい。マーリン様」


私が声をかけると、ゆっくりとこちらを向くマーリン様。


「ヴィクトリア様、こんな時間にこの様な場所に私を呼び出すだなんて、一体どういうおつもりですか?」


いつものように穏やかな表情を浮かべているが、目は笑っていない。


「このような場所でないと、本音で話せないかと思ったのです。マーリン様、単刀直入にお伺いいたします。私の食べ物に毒を入れたり、我が家に刺客をおくりこんだのはあなた様ですね?」


私の言葉に、大きく目を見開いたかと思ったら、すぐに笑顔に戻った。ただ、口元は扇子で隠している。


「何をおっしゃると思ったら、一体何のことでしょう。私があなた様にその様な恐ろしい事をしたですって?一体どんな根拠があって、私が犯人だとおっしゃるのですか?酷いですわ…」


「根拠ですか?マーリン様、あなた様は押し花が趣味とお聞きしましたわ。その押し花を少し見せてもらったのですが、不思議なお花ばかりを使っていらっしゃいましたね。その為、色々なお花を育てていらっしゃると聞きました」


「ええ、私は花が好きですので、花を育てております。それが何か問題でも?」


「申し訳ないと思ったのですが、あなた様が育てているお花を少し見せていただきましたの。どれもとても素敵なお花ですね。ただ…私、見つけてしまったのです。その中に、テリオの葉が紛れ込んでいる事に」


テリオの葉は、一見普通の葉っぱに見えるが、よく見ると葉っぱの裏にギザギザが付いているのだ。ただ、本当に普通の葉っぱに見えるため、よほど草花に詳しくないと分からない。


まさか王宮内で、堂々と毒の葉を育てていただなんて。


「それにかすかに臭うのですよ。あなた様からテリオの葉の香りが。もしかしてテリオの葉も押し花に見立てて持ち歩いていたのですか?いつでも私に毒を飲ませられる様に」


テリオの葉は手で触れただけでは、特に害が及ぶことはない。テリオの葉のエキスを体内に取り込んだ時、初めて毒の威力を発揮するのだ。その上葉を水分に付けると、エキスが勝手に溶け出す優れもの。


「さすがヴィクトリア様ですわね。そうですわ、私があなたにテリオの葉で毒殺しようとしましたの。よくわかりましたわね。本当に憎らしい女…」


今までニコニコ笑っていたと思うと、みるみるうちに顔つきが変わり、私を怖い顔で睨みだしたのだ。


「やっと本当の姿を見せて下さいましたわね。あなた様も初めて出会った時の殿下の様に、心を閉ざしている様な気がしていたのです。それにしても、どうして私を毒殺しようとしたのですか?このような事が公に出れば、あなたも公爵様も無傷ではいられないはずですわ」


「どうしてですって?あなたが私からディーノ様を奪ったからよ。私は物心ついた時から、王妃になる事が決まっていた。王妃になるために、今まで沢山の努力をして来たわ。このままいけば、私が王妃になれるはずだった。でも、あなたが現れたの。あなたはディーノ様の心を完全に掴み、虜にした。このままでは私は、王妃になれない。だから私は、あなたを…」


「ちょっと待って下さい。私は王妃になるつもりはありませんわ。父からも、あなたが殿下のお妃になる事が決まっていると聞いていますし」


「何を今さら寝言を言っているのよ!それならどうして、わざわざ私をここに呼び出したの?私の罪を暴き、私をお妃候補から引きずりおろすためでしょう?」


この人は何を言っているのだろう。本当に面倒な女ね。


「誰があなたをお妃候補から引きずりおろすものですか。私はただ、あなたに喧嘩を売られたから買ったまでよ。いい、この勝負、私の勝ちだからね。あなたがいくら私に手を出そうとしても、無駄なの。それから私は、あなたの罪を明らかにするつもりはないわ。あなたは明日、予定通り殿下のお妃になってもらわないと、私も困るのよ」


「あなた、何を言っているの?喧嘩を売られたから買った?私に予定通りにお妃になってもらわないと困る?意味が分からないわ。ただ…バレてしまったものは仕方がないわ。あなたにはここで、命を落としてもらいましょう」

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