第35話 本当に君って子は…~ディーノ視点~
「ヴィクトリア、夫人も落ち着いてくれ。とにかく座ってゆっくり話をしましょう」
急いで2人の間に入り、夫人からヴィクトリアを引き離すと、彼女を僕の隣に座らせた。彼女は絶対に渡さない、そんな思いでヴィクトリアの腰をギュッと掴む。
そんな僕の焦りとは裏腹に、ゆっくりお茶を飲むヴィクトリア。
「お父様、お母様、私は家に帰るつもりはありませんわ」
両親を見てヴィクトリアがはっきりとそう告げたのだ。僕の耳がおかしくなったのか?あのヴィクトリアが帰るつもりはないとは、一体どういうことなのだ?全く訳が分からない。侯爵も夫人も父上も目を見開き固まっている。ただ、母上だけが優美にお茶を飲んでいるではないか。
「ヴィクトリア、あなたは何を言っているの?毒殺されそうになったのよ。私はあなたの命の危機に晒されてまで、あなたに王妃になって欲しいなんて望んでいないわ」
「そうだぞ、ヴィクトリア。やはりヴィクトリアには荷が重かったのだよ。一緒に侯爵家に帰ろう」
ヴィクトリアの両親が必死にヴィクトリアに訴えている。
「お父様、お母様、今回の毒混入事件は、私に対する犯人からの宣戦布告なのです。いわば挑戦状の様なもの。相手から勝負を挑まれているのに、のこのこ逃げ帰るだなんて、そんな恥ずかしい事は出来ませんわ」
「何を訳の分からない事を言っているの?おバカな事を言っていないで、一緒に帰りましょう」
夫人があり得ないと言った表情を浮かべ、必死に訴えている。まさかスープに毒を入れられて、怯えるどころか勝負を挑まれていると思うだなんて。ヴィクトリアの想像力には、毎回驚かされるばかりだ。
「夫人、ヴィクトリアもこう言っています。それに今後は僕が必ずヴィクトリアを守りますので、どうか見守ってくださいませんでしょうか」
「私は殿下に守ってもらわなくても大丈夫ですわ。とにかく私は、王宮を離れるつもりはございません。もう、クロハはすぐにお父様に報告するのだから。次からは何も言わないからね」
近くに控えていたヴィクトリアの専属メイドに、文句を言いながら頬を膨らませている。
「ヴィクトリアちゃんもこう言っている事ですし、どうかヴィクトリアちゃんをこのままディーノお妃候補として王宮で生活をさせてあげてもらえないかしら?」
「シーディス侯爵、私からも頼む。無事お妃候補の期間が終わったら、シーディス侯爵家は正式に公爵に爵位を上げるつもりだ。領地も今までよりも大きな土地を与える予定でいる。だからどうか頼む」
母上だけでなく、父上までもが必死にシーディス侯爵と夫人に訴えている。さすがのシーディス侯爵もこれ以上は言えないだろう。
「分かりました。ヴィクトリア本人が王宮に残りたいと申しておりますし、私共はこれ以上何も言いません。ヴィクトリア、あまり無理はするなよ。どうかヴィクトリアの事をよろしくお願いします」
シーディス侯爵と夫人がついに折れた様で、僕たちに頭を下げて来たのだ。一時はどうなるかと思ったが、これでヴィクトリアは僕のお妃候補のままでいてくれたぞ。
それにしてもあのヴィクトリアが、まさか自ら王宮に留まる事を選んでくれるだなんて。それが何よりも嬉しい。ヴィクトリアと幸せな日々を送るためにも、何が何でもヴィクトリアを守らないと!
「少し娘と話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
急に侯爵がそんな事をいいだしたのだ。もしかして僕たちのいないところで、ヴィクトリアを説得するつもりか?
「ええ、構いませんわ。それでは私たちは部屋から出ていきましょう。ディーノも行くわよ」
母上が笑顔で返答し、そのまま僕の腕を掴むと、部屋から出された。
「母上、侯爵はきっとヴィクトリアを説得するつもりです。このまま親子だけにしてもいいのですか?」
「心配いらないわ。侯爵や夫人よりもヴィクトリアちゃんの方が一枚も二枚も上手よ。侯爵たちにヴィクトリアちゃんを丸め込めやしないわ。あの子は本当にすごい子だから…」
確かにヴィクトリアはすごい子だ。そういえば母上、ヴィクトリアが王宮に残る事を知っていた様な感じだったな。
「母上はヴィクトリアが王宮に残る事を知っていた様な口ぶりでしたが…」
「ええ、知っていたわ。侯爵たちと話す前に、ヴィクトリアちゃんと話をしたもの」
そうだったのか、だから母上は、ヴィクトリアがここに残る選択をするという事を知っていたのだな。
「ディーノが思っている以上に、ヴィクトリアちゃんはエネルギッシュな子ね。それに知識量が半端ないし。あの子が次期王妃になってくれたら、我が国はもっと発展するでしょう。ただ、ヴィクトリアちゃんが正式にお妃に内定した時、なんて言うかしら?ディーノも大変ね」
母上がクスクスと笑っている。確かにヴィクトリアは、すんなりと僕のお妃にはなってくれないだろう。でも、その点に関してはある程度秘策を準備している。それに意外とヴィクトリアは単純な性格をしているから、上手く丸め込むつもりだ。
それよりも今は、ヴィクトリアの命を狙っているフィドーズ公爵家をなんとかしないと。
※次回、ヴィクトリア視点に戻ります。
よろしくお願いします。
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