第27話 森に行きました

「ここにいたのだね。探したのだよ。またアマリリス嬢と一緒にいたのかい?」


アマリリス様の言葉通り、殿下が笑顔でやって来た。何よ、さっきまで楽しくマーリン様とお話ししていたくせに。プイっとあちらの方を向いてやった。


「ヴィクトリア、随分とご機嫌が悪い様だね。一体どうしたのだい?もしかして、アマリリス嬢が何か変な事を言ったのかい?でもあの子、すっかりヴィクトリアに懐いている様だけれど…」


「別に何でもありませんわ。今日は気分がすぐれないので、面会はなしでお願いします」


スッと席を立ち、そのまま自室に戻ろうとしたのだが…


「本当にどうしたのだい?午前中はいつものように笑顔でクリーに乗ったり、王宮騎士団員と稽古に励んだりしていたじゃないか?まあいい、機嫌が悪いヴィクトリアの為に、とびっきりの場所に連れて行ってあげるよ。さあ、行こう」


私の手を握ると、急に歩き出した殿下。


「私は部屋に戻るのです。放してください」


「いいからついておいで」


本当にこの男は、私の言う事など全く聞かないのだから!本当に腹が立つわ。


殿下に無理やり連れられ、門のところまでやって来た。あら?もしかして王宮の外に出るのかしら?


思った通り馬車に乗せられた。一体どこに連れて行かれるのかしら?もしかして街に買い物とか?令嬢は買い物が好きみたいだけれど、私は買い物なんて好きじゃないのよね。


「殿下、私は街になんて…」


「ほら、見えて来たよ。ヴィクトリアは自然が好きだからね」


窓の外を覗くと、立派な森が目に入った。王都にこんな立派な森があったのね。知らなかったわ。


「着いたよ。いつまでも窓にへばりついていないで、早く降りよう」


「別に窓にへばりついてなんておりませんわ。さあ、参りましょう」


すっと手を出している殿下をスルーして、そのまま馬車から降りた。そうそう、この空気、まるで領地にいるみたい。それにしても大きな森。今すぐにでも探検に行きたいわ。


あら?


「クリー、あなたも来ていたの?今日も私を乗せてくれる?」


近くにはクリーの姿も。どうやら私たちと一緒に来てくれた様だ。嬉しくてクリーの傍に駆け寄る。


「ヴィクトリア、どうだい?気に入ってくれたかい?早速クリーたちに乗って、森を散策しよう」


笑顔の殿下が自分の愛馬にまたがっている。早速私もクリーにまたがり、森の中を散策した。


「ヴィクトリア、見てごらん。あそこにリスがいるよ。可愛いね」


「本当ですわ。殿下、あそこにはウサギがいますわ。あら?あれは猫かしら?」


「あれはキツネだよ。ヴィクトリアの住んでいた領地には、キツネは生息していないそうだね」


確かに我が領地にはキツネはいない。初めて見たけれど、可愛いわ。


しばらく進むと、開けた場所に出た。


「殿下、見て下さい。美味しそうな木の実がありますわ。この木の実、甘くて美味しいのよね。この木の実で作ったケーキが絶品なの。せっかくだからたくさん摘むで、料理長にケーキを作ってもらいましょう」


クリーから降りて、木の実を口に含む。甘酸っぱくて美味しいわ。早速木の実を摘んでいく。まさか王都で木の実を摘めるだなんて。


「ヴィクトリア、木の実はそれくらいにして、あっちに綺麗な湖があるんだ。行こう」


私の手を引き歩き出した殿下。少し進むと、立派な湖が。


「なんて綺麗な湖なのかしら?殿下、見て下さい、底が見えますわ。せっかくなので、足を付けてみますわ」


靴を脱いでいると


「お嬢様、その様なはしたない事はおやめください」


クロハが私を止めに入るが、無視してゆっくり湖に足を付けた。なんて冷たくて気持ちがいいのかしら。


「ヴィクトリア、奥に行くと危ないよ」


殿下も靴を脱ぎ、こちらにやって来る。別に来なくてもいいのに。私は1人でも平気よ!そう思いもっと奥に行こうとした時だった。


「ヴィクトリア、危ない!」


「きゃぁ」


急に深くなっていた様で、深みにはまってしまったのだ。何でもそつなくこなす私だが、泳ぎだけは苦手なのだ。それも服を着ているから、余計にうまく泳げない。


どうしよう!このまま溺れてしまう。その時だった。殿下が私の手を掴んだと思ったら、ぎゅっと引き寄せてくれた。



「君って子は本当に、僕の言う事を聞かないのだから。でも、無事でよかった。大丈夫かい?震えているじゃないか」


殿下がギュッと抱きしめてくる。


「わ…私は別に自分で何とか出来た…うわぁぁん、怖かった!!」


本当に死ぬかと思った。怖くて震えが止まらず、声を上げて泣いた。そんな私の頭を撫で、ギュッと抱きしめてくる。私はもう13歳なのだ。子供扱いはしないで欲しい。そう言いたいが、殿下の温くもりがなんだかホッとして言葉が出ないのだ。


「殿下、ヴィクトリア嬢、大丈夫ですか。風邪をひいては大変です。今すぐ馬車にお戻りください」


私と殿下にタオルをかける護衛たち。


「そうだね、ヴィクトリアが風邪をひいては大変だ。王宮に戻ろうか」


震える私を抱きかかえると、そのまま殿下が馬車へと向かう。自分の足で歩けると言いたいが、まだ震えが止まらないのだ。仕方がない、このまま抱かれてやるか。それになんだか居心地がいいし…

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