第18話 あり得ない事が起こった【後編】~シーディス侯爵視点~

今はヴィクトリアに怒っている場合ではない。


「王妃殿下、ご覧いただいた通り、ヴィクトリアは父親でもある私までも欺き、好き放題生きて来たような娘でございます。この様な娘を、あろう事か聡明な王太子殿下のお妃候補だなんて、おこがましいことこの上ありません。どうかご辞退をお願いしたいのですが」


「シーディス侯爵、申し訳ないけれど、辞退は認められません。ヴィクトリア嬢、とても素敵な令嬢ですわ。彼女ならもしかしたら、ディーノを変えられるかもしれないと、私は考えております」


「非常に優秀な殿下を変えるとは…」


王妃殿下は一体何を言っているのだろう。殿下は誰が見ても非常に優秀で、立派な国王陛下になられる事間違いないと言われているお方だ。そんなお方の、何を変える必要があるのか、さっぱりわからない。


「ディーノは生まれながらの王太子として、今まで厳しく教育してきました。周りからの期待も大きく、本人にとってはかなりのプレッシャーだったでしょう。立派な王太子として、次期国王として生きなければいけない、そんな気持ちからか、いつしかディーノは心を閉ざすようになってしまったのです。いつも作り笑いを浮かべ、何を言われても興味がなさそうで。まるで人形の様に言われるがまま動く。私は母として、そんなディーノを見ているのが辛いのです」


王妃殿下がポロポロと涙を流し始めた。


「せめてお妃選びだけは、ディーノに選ばせてあげたいのだけれど、本人は相変わらず興味がない様で。もしかすると、ヴィクトリア嬢が、ディーノの心を動かしてくれるのではないかと私は考えているのです」


「ヴィクトリアがですか?ですがヴィクトリアはなんと申しますか、その…」


「大丈夫よ、一応ディーノのお妃候補は、フィドーズ公爵家のマーリン嬢にほぼ内定しているから。気楽に考えてもらえればいいの。それにあなただって、今の段階ではお妃候補を辞退できない事は分かっているでしょう?だからどうかお願いします。ヴィクトリア嬢には、好きに過ごしてもらって大丈夫だから」


必死に王妃殿下が頭を下げる。確かにお妃候補に選ばれた時点で、断る事は厳しい。まあ、マーリン嬢が既にほぼ内定している様だし。仕方ない、何とかヴィクトリアを説得するか。


「王妃殿下、承知いたしました。ふつつかな娘ですが、どうかよろしくお願いいたします」



こうしてヴィクトリアは王妃殿下たっての希望で、お妃候補になったのだが…


まさか本当にヴィクトリアが、殿下の心を開くだなんて。それもたった1日で。我が娘ながら、恐ろしい能力だ。一体誰に似たのだろう…


「とにかく、王族の方たちがそうおっしゃって下さっているのなら、俺たちはヴィクトリアの行く末を見守る事しかできないでしょう。それにしてもヴィクトリアが、まさかあの王太子殿下に見初められるだなんてな。いやぁ、めでたい」


「本当ね。ヴィクトリアが領地で好き勝手していると聞いた時は、本当に驚いたけれど、まさかこんな事になるだなんて。これで我が家の地位も、グンと上がるわ」


「喜んでばかりもいられないぞ。ヴィクトリアは領地の使用人たちを上手く丸め込んで、私たちにヴィクトリアの本当の情報が行かない様にしていたくらい悪知恵が働く。たとえ殿下や王妃殿下たたちが、ヴィクトリアをお妃として迎え入れると言ったとして、ヴィクトリアが納得するかどうかだ。ヴィクトリアの事だ、上手く逃げ出したりしないか私は心配で…」


我が娘ながら、何をしでかすか分からない。一応使用人、特にヴィクトリアの専属メイドのクロハには、小さなことでも細かく報告する様にきつく言ってはあるが、正直不安でしかない。


「父上、考えすぎですよ。確かにヴィクトリアは悪知恵が働くかもしれないが、根は真面目で聡明なのです。要領もいいし、きっとうまくやりますよ。それに王族の方たちも、ヴィクトリアをまんまと逃がすほど愚かではありません。現に父上が知らなかったヴィクトリアの裏の顔も、しっかり知っていたではありませんか」


「確かにそうだが…でも万が一、ヴィクトリアがやりたい放題やって、王族の方たちにあきれられたらどうするつもりだ。ヴィクトリアだけでなく、我が家の評判にも関わるのだぞ。ヴィクトリアが王妃になってくれたら私も嬉しいが、やはりリスクしかない。何とか殿下を説得して、お妃候補辞退を承認してもらわないと!」


「あなた、もう諦めた方がいいわ。あの自分の意見を全く言わない殿下が、ヴィクトリアのお妃候補辞退を認めないと言ったのでしょう?それならあなたがいくら騒いでも無理よ。いいじゃない、好きな様にやらせておけば。それにこのままいけば、ヴィクトリアは王妃になれるのですもの。大丈夫よ、あの子は私達の娘ですもの。娘を信じましょう」


またこいつは、呑気な事を…


でも、いくら私が騒いでも無駄か…


こうなったらヴィクトリアを信じるしかないか。


どうか無事半年が過ぎてくれるといいのだが…



※次回、ヴィクトリア視点に戻ります。

よろしくお願いしますm(__)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る