第5話 王太子殿下との面会です
「お待たせして申し訳ございませんでした。ですが、私は時間通りに王宮にはやって参りましたが、遅かったでしょうか?」
キョトンとした顔で、首をコテンと横に傾げ、意地悪そうな令嬢に呟いた。
「何なのあなた!遅れてきて文句を言うだなんて!これだから田舎者は嫌なのよ」
「本当だわ、なんて生意気な子なの」
顔を真っ赤にして地団太を踏んで怒っている。あなた達こそ令嬢として、恥ずかしくないのかしら?それにしても、この人達、あんなにも感情を露わにするだなんて。怒るとあんなにも真っ赤な顔になるのね。ダメだ、おかしすぎる。
吹き出しそうになるのを必死に堪え、口元を扇子で隠す。
「2人とも、少し落ち着いたらいかがですか?令嬢として見苦しいですわよ」
赤色の髪に緑色の瞳をした令嬢が、扇子で口を隠しながら令嬢2人に注意している。
「マーリン様、申し訳ございません」
「マーリン様がそうおっしゃるなら…」
この赤い髪の令嬢が、噂のマーリン様ね。なるほど、確かにあの2人に比べたら、まともね。
「全員揃ったな。今日から君たちはここにいるディーノのお妃候補として、半年間王宮で生活してもらう事になっている。この半年、王宮での君たちの生活ぶりを確認したのち、正式にディーノの婚約者を選ぶ予定だ。もし王宮での生活が嫌になったら、いつでも相談してくれ。ただし辞退する場合、君達の父上からディーノへの申請が必要となる。その為、まずは父上に相談してくれ。詳しい話は、今から別の者が説明する。それじゃあ、よろしく頼む」
なるほど、陛下の話では、嫌になったらすぐにでもお妃候補を辞退できるのね。それじゃあ、早速お父さまに言って…て、絶対に認めてくれないわ。やっぱりここは、好き勝手やって、王宮から追い出されるのが得策ね。あのうさん臭い笑みを浮かべている王太子に嫌われれば、追い出してもらえるかもしれないわ。
さすがのお父様も、娘が王宮内でやりたい放題をしていたら、恥ずかしくてお妃候補を辞退するだろうし。でも、あまり滅茶苦茶をすると、侯爵家の名に傷がつくわよね。絶妙な加減で行わないと。これは私の腕の見せ所ね。
「…では、この様な感じで進めていきますので、どうかよろしくお願いいたします」
ん?どの様な感じで進めていくですって?いけないわ、別の事を考えていたせいで、全くあの人の話を聞いていなかった。でも、まあ何とかなるわよね。
「それではまず、マーリン嬢からディーノ殿下と面会を行いますので、他の令嬢たちは部屋から出て下さい。面会時間になったら、またお呼びいたしますので、それまではお部屋で待機をお願いいたします」
どうやら今からあの王太子と面会がある様だ。よし、ここは嫌われるチャンスね。とりあえず私の番はまだみたいだから、一旦部屋へと戻る。
「お嬢様、陛下たちとの顔合わせ、どうでしたか?粗相をしたりしなかったですか?」
心配そうな顔で、クロハが飛んできた。
「ええ、大丈夫よ。それよりも後で、殿下と面会があるそうなの。悪いのだけれど、ワンピースに着替えさせてもらえるかしら?」
「…お嬢様は一体何をおっしゃっているのですか?殿下と面会をするのに、ワンピースに着替えるだなんて…あまりおバカな事を言うのはお止めください。それよりも、殿下と面会をするのですよね。こうしちゃいられないわ、さあ、湯あみを」
なぜかクロハと近くに控えていたメイドたちに浴槽へと連れて行かれると、体の隅々まで洗われた。そしてなぜかエメラルドグリーンのドレスに着替えさせられたのだ。エメラルドグリーンは、あのうさん臭い王太子の瞳の色だ。どうして私がこんなドレスを着ないといけないのかしら?
「ねえ、クロハ。既にお妃にはマーリン様が内定しているのよね。それなら、こんな無駄な事をしなくてもいいのではなくって。そうそう、残りのお妃候補の令嬢たち、性格が悪くてびっくりしたわ。マーリン様はまだまともな様だけれどね」
あの茹でダコみたいな顔、今思い出しても笑いが止まらないわ。
「お嬢様、なんて事を言うのですか?とにかく、その下品な笑いはお止めください」
「あら、ここは私の部屋だからいいじゃない」
本当にクロハは怒りん坊ね。
とりあえず暇なので、お茶でも飲んで過ごす。そしてお昼、豪華なお料理を頂いた。午後からも、お茶を飲んで過ごす。それにしても暇だ。
「クロハ、このドレス、苦しいから脱がせて」
「ダメです、それよりも、本当に王太子殿下と本日面会があるのですか?もう4時ですよ。いくら何でも、遅すぎやしませんか?」
「私の勘違いだったかもしれないわ。もう4時なら、きっと来ないわよ。だってあれから、随分時間が経っているのですもの。さあ、すぐにこのドレスを…」
「失礼いたします。ヴィクトリア様、大変お待たせいたしました。どうぞこちらへ」
最初に迎えに来たメイドが、再びやって来たのだ。やっぱり面会があったのね。
面倒だけれど、さっさと終わらせよう。重い足取りで殿下の待つ部屋へと向かった。
「こちらでございます、面会時間は1時間でございます。それではどうぞ」
部屋に入ると、相変わらず胡散臭い笑顔を向けた殿下が待っていた。
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