高校生男子なんておしゃれなお店なんて知らないから勘弁してください
放課後の図書室は人気がなく、俺と美月以外に人はいない状態。
現在、俺と美月は受付に座っている。
彼女は持参しているノートパソコンを受付のデスクに置いてカタカタと執筆中。その隣で美月から拝借したスマホから彼女の書いた小説を読む。
美月はパソコンで書いてスマホに保存するタイプ。ネットに上げる前に俺が読むってのが毎度のやり取りだ。
データを送ってくれても良いと思うんだけど、「誤送信したら嫌だから」だってさ。
読書中にポケットに入れた俺のスマホが震えた。
どうやら夏枝からメッセージが届いたみたい。
『学校にいる? 正門で待ってるから』
メッセージに目を通して、そのままスマホの時計を見た。
完全下校時間よりは早い時間だが、女バスの練習は終了したみたいだな。
美月へ帰ることを伝えると、「私はもうちょっと残るね」とのことなので、お互いに手を振って別れた。
さっさと正門の前に行くと、遠目でもわかるくらいの美女が、これでもかと言わんばかりにお似合いの水色の傘を差して待っている。
「こんな美女を雨の中待たすなんて、四ツ木は相当良い男なんだね」
くるりと傘を一回転させると、水しぶきと共に嫌味なセリフが飛んで来た。
「飛んで来たんだがな」
「冗談。私も今きたとこ」
まじのデートっぽいやり取りが、少々こそばゆく感じてしまう。
「さぁ行きましょうか」
「あいあい」
俺と夏枝と肩を並べて正門を出て行った。
平気なフリをしてるけど、夏枝程の美人と肩を並べるのは緊張する。
♢
鷹ノ槻高等学校は駅近にあるため、正門から歩いて約一〇分程度で駅前に到着する。
中核都市と呼ばれる我が地元は大阪北部に位置し、京都と大阪を繋ぐベッドタウンとして発展している。
電車ですぐ京都や大阪に出ることが可能。加えて、電車一本で神戸までも行けちゃう抜群のアクセス力。
駅前なんかは都会ほどではないけど、結構繁盛していたりする。今もスーツ姿の人や、俺達と同じような学生が見られる。
俺は基本的に自転車通学。雨の日はバスで通学を選択している。びしょびしょになるのが嫌だからね。
夏枝もバス通学なのだが、俺とは家の方角が真逆。
学校から一緒に帰るならば、バスロータリーでバイバイすることになっちゃう。だが、今回は放課後デートということでバスロータリーをそのままスルー。駅の南にあるアーケード商店街へと入って行く。
屋根のある長い商店街に入ると、互いに傘を軽く振って水気を飛ばす。
「どこ行く?」
「座ってゆっくりと話しができるところが良いかな」
水色の傘を手で、スルスルと滑らせて綺麗に畳みながら彼女が要望してくる。
「ぴったりな場所がある」
こちらも傘を畳みながら自信満々に答えた。
「へぇ。楽しみ」
夏枝の期待に応えるためにやって来たのは、ちょっぴりレトロな雰囲気を醸し出すカフェ、《シーズン》。
春夏秋冬いつでもお店に来てくださいとの意味が込められた店名。
あのー夏枝さんやい。その、「自分のバイト先に女の子を連れて行くとか……やれやれ」みたいなジト目はやめてください。すみません、無知なんです。女の子とデートなんてどこに行けばいいかわからないんです。
歴史を感じるドアを開けると、カランカランと鈴の音が店内に響き渡る。
店内は、少々のテーブル席と、L字のカウンター席がある至ってシンプルな造り。カウンターの奥ではコップを拭いている白髪をオールバックにしたマスター。どこにでもありそうな王道的なカフェ。
「いらっしゃい」
カウンターにいるマスターで、俺の母方の祖父の
「おや。世津じゃないか。今日はシフトじゃないだろうに、どうかしたのかい?」
「ちょっとね」
チラッと夏枝の方へと視線をやると、「ははーん、こんな美女とデートとは我が孫、天晴れなり」みたいな察した顔をされる。表情という漢字はよく出来たものだ。
「ごゆっくり」
適当なテーブル席に腰かけると、正面に座った夏枝が先に口を開く。
「素敵な店」
「どうせ女の子を自分のバイト先に連れてくる、知識の浅くてださい男ですよ。ぼかぁ」
「言えてる」
「おおい。そこは否定してくれや」
そのままの肯定は予想していなかった。
ちょっぴり涙目になっちゃうと、彼女はそんな俺の姿を見て笑っていた。
「そりゃなんかさ、『ぴったりな場所がある(ドヤぁ)』みたいな感じで、どんなところに連れて行ってくれるのかと期待したら、『自分のバイト先かいっ』って思うでしょ」
「反論の余地なし」
「でも、うん。こういう個人経営のカフェって入らないから、素敵な店って感想は本当」
「気に入ってくれたなら良かったよ」
「また今度、四ツ木が働いてる時に来ようかな」
「働いてる姿を見られるのは恥ずかしいな」
「よし、わかった。働いてる時に来るとしよう」
「話し聞いてました? キミ、Sなの?」
店内に流れる昭和レトロな曲を聴きながら、彼女と内容もないような話しで笑い合う。
「んで、放課後デートの真の目的は?」
わざわざ部活終わりのしんどい時間を使ってまで、俺とお茶したかったわけではないだろう。
「四ツ木」
真っ直ぐと見つめられてしまう。
綺麗な瞳から放たれるキラキラのオーラ。星を見ているかのように、うっとりとしてしまう。
「わたしと付き合って」
「……はい?」
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