第30話 時空間に跨がる
おかーさんたちの言うところの“ちょっとお話”は一時間以上を指していたみたいで、付け加えるならここからさらに長引きそうなこと間違いなしな様子。うっかり卒アル見せるって話しちゃったからね……「みんなで見ましょう!」とか言い出すのも当然の流れだったね……
テーブルの上にアルバムを置いて四人で囲む。お母さんはぺらぺらめくることもなく、一発で私が写ってるページを開いてみせた。すかさずおかーさんが、私のバストアップ写真を指さす。
「ほらみてみて、中学時代の仁香ちゃんも可愛いでしょ〜?」
「かっ、きゃっ、わ、わわわわわ……!!」
ああまた羽須美さんが語彙力を失っておられる。まあ私はいつの時代も可愛いからね、さもありなん。中学生、それも卒アルのクラス一覧用なので化粧っ気は全くなくて、その辺りで幼い雰囲気になってる気はする。今よりもこう、あどけなさのパラメータが少し高い感じ。隣に座る羽須美さんもまるっきり、可愛い年下の子を見る目だ。
「気持ちは
「まあね」
写真の中の私の欠点といえば会話ができないくらい、なので今の私が代わりに同意してあげる。
「見たかった……!ちっちゃい頃の黒居さんもっ……!」
「あるわよ〜」
羽須美さんの言葉を受けて、おかーさんがすぐさま小学校の卒アルをとりだした。用意周到だ。まあおかーさんたちが絡んだ時点で、こうなる可能性も予期してはいた。
「きゃっわわわわわわわっ……ァ……!!」
このくらいまでくるともうロリ仁香ちゃんと言っても差し支えないだろう時代の私が、羽須美さんに笑顔を向ける。今よりも多少は活発そうな目付きだ。当社比で。幼い私と中学生な私、そして本物の私へと何度も交互に視線をやって、そしてそのたびに、羽須美さんの表情は恍惚としたものに変わっていく。
「わ、ぁ……黒居さんがいっぱいだぁ……」
大丈夫かなあれ。いつもは私の可愛さに頬を赤らめることが多い彼女さんだけど、どうやら過剰摂取するとこんな感じになってしまうようだ。新発見。
「時空間に跨がる仁香の摂取は、本来であればアタシたち家族にしか許されていないわ。光栄に思いなさい」
「はひぃ…………すごぉい……ものの見事に全部ドヤ顔だぁ……」
そりゃ、撮られるって分かってる瞬間のものだからね。家族写真とかには不意打ちでシャッターを切られちゃったやつとかも結構あるけど……卒アルでこれなら、そっちまで一緒に見せたら本当に卒倒してしまいそうだ。お母さんたちはたまに、一面に並べて悦に入ってるけど。私は鏡で今の自分さえ眺められたらわりと満足しちゃうからなぁ。
「わぁ……ほぁぁ……」
「……本当に大丈夫?」
「常人には刺激が強かったかもしれないわね。仁香に惚れてるなら尚更」
「まだまだ
さすがの私もちょっと心配になっちゃって、代わりにお母さんたちが腕組みドヤ顔状態。羽須美さんの反応は嬉しいけど、一応今日は一緒に課題を進めるって名目がありまして。進捗次第で今後のデートの予定が決まるっていうのは、その彼女が定めたことだったはずなんだけど……
「羽須美さん?羽須美さーん?」
「うん……そうだね……黒居さんはいつでも可愛いね……」
重症だ。呼びかけた程度じゃ戻ってこない。肩でも揺すって……いやここはちょっとばかしショック療法でいこう。羽須美さんの記憶を呼び起こす。
「えいっ」
ぎゅうっ。くらえ、おっぱい放射熱。
「どぅぉおっひゃぁぃ!?!?」
よし。
座ったままびゃーんっと背筋を伸ばした羽須美さんへ、小さく耳打ち。
「当たってはいないよ?」
「ふひゃあっ……!」
顔と耳は果てしなく真っ赤で言語能力も失われてしまったけれど、目付きは無事正常に戻った。
「ひぃぃぃ……仁香が、アタシ達の仁香が、色仕掛けを……!ォ、オゴォ……ッ」
「なんてこと……なんてこと…………しかし、それでこそ“狩る側”……!」
代わりに脳を破壊されてしまった人たちがいるみたいだけど。というかべつに、色仕掛けってほどではないと思う。とにかく、そろそろ一応の本旨に戻りましょう。見たければそっちが終わってからまた、いくらでも見せてあげるから。
「じゃあ、私たちは部屋で課題やってるから」
卒アルを順に閉じて、中学のを上にして重ねて。で、そのまま流れで、途中から普通に言うタイミング見失っちゃってたことを伝える。
「そうそう。羽須美さん、あのポーチ拾ってくれた人」
「「…………!?!?!?!?!?!?」」
「ポーチ?」
「高校受験のとき、落とし物拾って届けてくれたでしょ」
「あー……確かそんな事もあったような…………え、なに?もしかして……」
「うん、あれ私の」
「!?!?!?!?」
「あれ、中に受験票とか入っててね?お陰様で無事高校入学できました。ほんとにありがとうね」
「!?!?!?!?!?!?!?」
頭を下げて、お礼を言って。自分のしたことがどれだけ我ら黒居家の助けになったのか、羽須美さんはすぐに気付いたみたいだけど。それよりもさらに早く、おかーさんとお母さんが感謝の悲鳴を上げた。
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