隣の席のギャルっぽい子が私のことしゅきらしいので付き合ってみることにした
にゃー
5月
第1話 しゅきです
「──しゅ、しゅきですっ!」
こーいつぁ驚いた。告白されてら。
誰が誰にって?私、
放課後、差出人不明のお手紙で呼び出された校舎裏。待ち構えていた羽須美さんが「す、すぅ、ふす、しゅー、すっ、ふしゅー……っ!」と調子悪いときのスチームアイロンみたいな音を出すこと数分、ようやくその口から出た意味のある言葉がこれだった。
いやまあ、結局噛んじゃってますけども。
「……ほぁー」
クラスのギャルーいグループに属してるっぽい、でもそんなにはしゃぐ方でもないギャルな羽須美さん。ぼちぼち西日かなぁという陽の光を浴びて、明るいブラウンの髪がきらめいている。信じらんないくらい赤くなった顔はそわそわそわそわ揺れ動いてて、それに合わせて肩の下まで伸びた毛先もふりふり。
今日も教室で普通に話していた相手からの告白ってことで、私の方も変な音が口から漏れる。……いや思い返してみれば普通じゃなかったな?なんかそわそわしてたな?今日だけじゃなくて、ゴールデンウィークが明けてからのここ数日、ずっと。
妙に会話がぎこちない時があったのは、なるほど私のことが好きだからだったらしい。
「……あの、ええと、それでその……」
とか何とかいろいろ考えてたら、お伺いを立てるようにして羽須美さんが言葉を続けた。
「もしよければ、その……お付き合いなどを致したいと、思っておりまして……はいぃ……」
とりあえず、テンパり過ぎて口調が変になってるっていうのは伝わってくる。しかしお付き合いかぁ、ふむぅん……
……羽須美さんは、たぶん良い人だと思う。高校入学してからまだ1ヶ月半くらいでクラスメイト歴も短いけど、隣の席同士ほどよーくお喋りしてる限りでは、そう感じる。好き、もといしゅきって言われて、まあ、悪い気はしない。というか普通に嬉しい。でもその“嬉しい”が、羽須美さんの“しゅき”に応えられる類の嬉しさなのかというと……うーん──
「──分からぬー」
「そ、そう……」
というようなことをつらつら述べてみたら、羽須美さんの方もなんとも言い難いような表情になった。と、いうかですよ?そもそもの話。
「羽須美さんは私のどこが好きなの?どの辺?どの辺り?」
「どこって、それは……」
つむじからつま先までじっくり見られた。
ははーん、さてはこの超絶美少女ボディ&フェイスに惚れたな?面食いだな羽須美さん?まあ気持ちは分かる。私、顔は良いからねー。見たまえこのすらりと整った目鼻立ち。肌白いぜーまつげ長いぜー唇ぷるっぷるだぜー?ミディアムな黒髪の癖っ毛具合が絶妙だろー?
毎朝鏡見るだけで自己肯定感爆上がりなこの顔面に惚れてしまうのも無理からぬことだろうがはは。
「や、あの、顔だけってわけじゃなくてっ、いや勿論めちゃ美人だと思うんだけど」
私のどや顔から言わんとすることを読み取ったのか、羽須美さんは両手を振って弁明してくる。
「性格?もっ、好きでっ、いやまだ知り合って間もないから知らない部分もいっぱいあるんだけど、でもなんていうかっ、波長?が、合う?みたいな?あーごめんこれもわたしが勝手に思ってるだけで黒居さんからしたらどうかは分かんないんだけどっ。ほらそのつまりその、諸々含めてこう、ふ、雰囲気?とか、が……好き、ですぅ……」
なげぇ。なんか本人も良く分かってないっぽい。
言いながらもまた顔がどんどん赤らんで、わたわた暴れてた両手は言葉尻と一緒に胸の前できゅっと萎んでいった。
「……ゴールデンウィーク中、なんか妙に寂しくて。なんでだろうなって思いながら毎日過ごして、それで休み明けて黒居さんの顔見たら、こう、一気にブワっときちゃって」
両手を組んで伏し目がちに、まるで祈りでも捧げてるみたいなポーズの羽須美さん。不安と期待と熱っぽさの入り混じった、なるほどこれが恋する乙女ってやつかって、一発で分かっちゃう顔。くぅ、かわいいじゃないかちくしょーめー。
こう捲し立てられて分かったのは、やっぱり好意を向けられるのは嬉しいってこと。本人もわけ分かんないうちに、それでもぶつけてしまいたくなるほど大きいっていうんなら、なおのこと。私はもう、彼女のそのおっきな気持ちを断ち切ってしまうのは惜しいと思わされている。
だから、どうだろうか。ここはひとまず。
「あーっと」
「はいっ」
「私は羽須美さんのこと、良い人だと思ってる」
「っ!じゃあ……!」
「でも羽須美さんと同じ気持ちの“しゅき”は、たぶん持ってない」
「そう、ですか……」
「でも、それでも良いんなら。ひとまずお試しで。お付き合い、してみる?」
「っっ!!!」
パァっ!しゅーん……パァァっ!みたいな感じでころころ変わる表情が可愛らしい。メイクの乗ったパッチリお目々の、だけども目尻のたれた柔らかい顔に、満面の笑みが乗った。うーむ、美少女。結構軽いノリの私の言葉にここまで喜んでくれるとは、ちょっと温度差感じちゃうね。でもこの温度差、不思議といやな感じはしない。
「はいっ、はいっ……!よろしくお願いします、黒居さんっ!!」
「うん、よろしくねぇ、羽須美さん」
つられて私もへんにゃりと笑ってしまう。よく気だるそうとか眠そうとか言われるんだけど、羽須美さんはそんなぐーたらスマイルにますますもって顔を赤らめていて。やっぱこの人、普通に私の顔も好きだよなぁって思った。
「えへ、えへへへへ……!」
「不審者みたいな笑い方だねー」
「す、すみませんっ……!あっ、そうだ、とりあえずLINEっ、LINE交換しよう!」
「はーい」
最後にどうなるかは分からないけど、とりあえず明日からちょっと楽しさが増しそうな、そんな予感がして。その日は寝るまで、中々に良い気分だった。
「──あ、あとできれば“しゅき”は勘弁して頂けると嬉しい、です……」
「善処しまーす」
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本文中に失礼します。
10話目までは昼12時と夕方18時の2話ずつ、それ以降はストックが続く限りは毎日昼12時に1話ずつ更新していきます。よろしくどうぞー
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