二章 山盛り嫉妬のプリンアラモード
重罪人と出会う
主神オーディンの宮殿の廊下は豪華絢爛。
立派な柱が数えきれないほど立ち並ぶ。
長さはミズガルズの街の直径くらいはあるから、ただ移動するだけでもそこそこ時間がかかる。
「––––リスか。オーディン様の宮殿ではシャキッとしろ」
「む」
しかもこうやって、だるい絡み方をする者もいるから、物想いに耽ることすらままならない。
ラティは声の主の方を向く。すると案の定、主神オーディンの僕であるワタリガラスが、置き物のように円柱形のオブジェの上に居た。
確かオーディンのワタリガラスは二匹居たような気がするが、最近は一匹しか見かけないのはなぜなのか。
もう一匹の方が態度がいいなら、そっちと交代してほしい。
「やぁ。オーディンに頼み事をしに行ったんだけど、断られちゃった」
「何を頼んだのかは知らんが、それはそうだろう。オーディン様を便利屋か何かと勘違いするな」
「でもさー、オーディンにとっての問題でもあると思うんだよね。こんな剣を私が持ってるって、危険だと考えないのかな」
「ほう? 随分いわくのついた剣を持っているな」
「そうそう。しかも現れ方が普通じゃなかったんだよ。だから相談に行ったのにさー。まったく」
「……オーディン様は猛者を手中においておきたいのだ。お前さんの実力に期待しているんじゃないのか?」
「私は喫茶店を運営しながら、適当にスローライフをおくりたいだけだよ。猛者になってほしいと期待されても困るだけ。それとさー」
「なんだ?」
「一つ依頼されちゃったから、近々ミズガルズの海に行かなきゃ」
「依頼とは?」
ワタリガラスのつぶらな目が好奇心に輝く。
様子から察するに、このワタリガラスはすっかり平坦な暮らしに飽きてしまっているようだ。
ラティはそんな彼に苦笑しつつ、オーディンから聞いた、ちょっとした迷惑事件を話す。
「人魚達が人間たちに悪さしてるみたいなんだよ」
「あいつらが悪さだと? 人間どもに生息地を荒らされて、その報復じゃないのか?」
「理由まではわからないみたいだけど、海底に籠をおいて、溺死した人の魂を閉じ込めておいているんだって」
「なるほど。オーディン様はお前さんに、その魂を解放するよう求めたわけか」
「そんな感じだよ。全く、嫌になるなー」
「オーディン様の命令を最優先にせよ!」
「君が偉そうにするなー!」
ラティは生意気なカラスの嘴を指で軽く弾き、小走りでオーディンの宮殿を後にした。
その足で世界樹まで戻り、幹と根っこの付け根あたりまで一気に駆け降りる。
ここは世界樹の上の方とは違い、生き物の気配が色濃い。
そして、香りも一変する。
土の香りと、瑞々しい植物の香り。
ミズガルズの空気に近いかもしれない。
それもそのはず。
ラティはファフニールの居るダンジョンの真上に居るからだ。その天井–––––先日ラティが破壊した箇所を、ちゃんと確認したい。
ちょうどその辺りまで来ると、大穴はすっかり岩で塞がり、土が被さり、
「外からはいい感じだなぁ。内側からも確認しに行こうかな」
独り言を口にしながら、歩みをすすめる。
ダンジョンの入り口の方に向かおうとしたが、木々の間に暗い紫色の光が明滅しているのを見つけ、立ち止まる。
「あー、悪いことをした魂がいる」
ラティから逃げるように遠ざかる魂を、ラティは大股で追いかける。
生前罪を犯した者の魂は、あのように目立たない色になるのだが、こんなところを
追いかけ、事情を聞いてみた方がいいだろう。
「おーい! そこの君、ちょっと待ってー!」
ラティが声をかけると、紫色の魂はぴたりと止まった後、ノロノロとコチラに近寄って来る。
罪人にしては素直な反応だ。
追いかけっこになるのを覚悟していたラティは肩透かしを食らった気分だが、少し興味が湧いてきた。
「もしよかったら、私の喫茶店でお茶でもどう?」
そう声をかけると、紫色の魂は不思議そうに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます