1章 

第1話 はじめての転生


 この国はセルディナ王国。

 現在はセルディナ4世が治める平和な大国でこの辺では一番大きな軍事力を持っている。

 軍事力と言っても現代の日本にあるような拳銃やらミサイルやらを使ったものではなくこの国……この世界では「魔法」が主に使われている。


「このように、利き手で武器を持ち反対側の手に魔力を操る」


 レオはセルディナ中央学園の練習場で騎士見習いの後輩たちに魔法指導の真っ最中だ。転生して数時間、レオ・キルマージュの脳内にある記憶は非常に優秀であった。


(俺の復習にもなるな)


「すごい、やっぱりレオ様は天才です」

「俺、もう一度剣技を見せて欲しいです!」


 まだ15歳にもみたない騎士見習いの男の子たちに煽てられ、上機嫌になって再度剣を構えた。剣を顔の前にまっすぐ構えると刀身にレオの美しい顔が映る。

 レオ・キルマージュはおとぎ話の中の王子様を具現化したような容姿をしていた。クリーム色に近い金髪にビー玉のような青い瞳。

(こんなイケメンに転生できるなんて、人生捨てたもんじゃないな。いや、死んだのか?)

 本人は非常に楽観的であった。

 というのも、一度「死」を経験した人間は強い。一度死んだのだから次はできるだけ楽しもうとネガティブな思いを彼は脳内からできるだけ取り払っているのだ。


「火、水、土、風。この4大魔法のいずれかを剣に付与するんだ。やってみてくれ」


 レオはお手本を見せるために持っていた剣に火の魔法を付与した。剣に轟々と炎が燃えたぎり、わっと歓声が上がる。

 校舎の方からは黄色い声援が上がり、レオは得意げな気分になった。脚光を浴びる気持ちよさに陶酔する。


「すげぇ、炎が青色に」


 魔法が本人の気持ちに影響することがわかるとレオは最高の気分を惜しみなく魔力に注いだ。すると、剣に注いだ火の魔法は青色から黄金色に変わる。


「さて、みんな。コツが掴めるまで得意な魔法で練習をするんだ。武器に魔力を付与するのは騎士にとって必要不可欠。さぁ、広がって練習を」


 レオが手を叩くと後輩たちは散らばってそれぞれ練習をはじめた。


(俺、もしかして主人公属性に転生しちゃったのかも)


 レオ・キルマージュはキルマージュ侯爵家の一人息子である。侯爵というと王族の血縁が親戚にいるくらいには上級の貴族であり、その中でもキルマージュ家は代々軍師や魔術師長を務めている家系だ。

 つまり、一人息子であるレオが優秀なのは必然であり、彼の将来が約束されたものである、というのは生まれる前から決まっているようなものなのだ。


「レオ、お待たせ」


 練習場の入り口で手を振っているのはレオの親友で幼馴染、同学年のアルジャン・フレイベであった。

 アルジャンは中等部から共に切磋琢磨する学友で剣・魔法共にレオと同じくらい実力のある生徒だ。


「おいおい、また昼飯抜いたのか?」


 アルジャンが「にへへ」と申し訳なさそうに笑うと同時に腹を鳴らした。焦茶色の髪は手入れがされていないせいでツンツンと立ち上がっているし、服もしばらく買い替えていないボロボロのチュニックだった。


「母さんが病気になってから厳しくってさ」

「ミヒルさんが?」

「あぁ、早く俺が一人前にならないと」

「飯、食ってからにするか。ツケにしておいてやるからさ」


 アルジャンは黒くて綺麗な瞳を輝かせた。彼は貴族であるレオとは対照的で庶民の出身だ。中等部試験で類まれなる魔法の才能を当時の上官に見出されたことをきっかけに「特待生」として在学をしていた。


「さて、お腹をすかせたアルジャンくんは何が食べたいのかな」

「いつものリストランテがいいなぁ、ほらガッツリ! 肉食ってさ午後の実習で魔物を倒そうぜ」

「本当にお前は昔から遠慮がないよなぁ?」

「ニヘヘ、借りは必ず返すよ」

「どうだが」


 2人は冗談を言い合いながら練習場をあとにした。

 校舎を抜けてから中庭にある大きなリストランテはこの学園に寄付をする貴族たちがこだわって作った食堂だ。

 外装はまるで高級リストランテ、中にいるシェフも一流。リストランテに近づくとすぐに肉やらスープやら、バターたっぷりのパンが焼ける良い香りが漂ってくる。

「腹減ったよ〜」

「俺も、ちょっとつまもうかな」

 セルディナ王国では「子供は宝」というスローガンが掲げられており、この学園だけでなくさまざまな教育機関へ貴族たちがこぞって寄付をしているのだ。

 学園の中にある食堂とは思えない豪華なビュッフェ、入り口でレオは2人分を支払ってトレイと受け取る。


「ごちそうさんです」

「ミヒルさん、平気なのかよ。また強がって病院行ってないんだろ」


 アルジャンの母親であるミヒルは気の強い女性だ。アルジャンに瓜二つの彼女は、一人息子であるアルジャンに食わせるために平気で自分の飯を抜くタイプの母親なのである。


「母さん、頑固でさぁ」

「俺の家が援助するって言っても頑なに断るもんな……」

「ホント、ありがとうなレオ」

「いいさ、俺たちは魔物を倒して平和な世界を作る騎士になるんだ。騎士っていうのは仲間を助けて当然だろ?」

「レオってほんと、勇者にふさわしいよ」


 「勇者」というのはである。と勇者の書に書き記されているがそれが本当のことであるかは誰にもわからない。

 この世界には多くの魔物が存在し多くの種族の脅威となっている。魔物というのは「魔物の核」というナニカから生まれ落ちる存在で世界中に沸いて出ては人々を苦しめている。

 その魔物の核はどこにあるかもどうやって見つけるのかもいまだにわかっていない

 ただ、太古の昔に邪神と呼ばれる存在が魔物の核をこの世界に隠したという言い伝えがあるくらいだ。

 つまるところ、その魔物の核を壊すことができれば世界を脅威に陥れる魔物たちを永遠に消し去ることができ、世界に平和が訪れる……。



「前の勇者が死んで1年か……確かにそろそろ新しい勇者の名前が刻まれる頃かもな」

 焼きたてのパンをトマトスープにつけて頬張るとレオはガツガツ肉を食うアルジャンを見て笑った。

「どんだけ飯抜いてたんだよ」

「昨日の夜から」

「言ってくれよ、うちのメイドに届けさせたのに」

「母さんが怒るからさ……でもありがとう」


(勇者……か。けど、転生をしたって考えると俺がワンチャン勇者になっちゃうのかも)




 

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