シンデレラ / 遠吠 負ヶ犬 作

名古屋市立大学文藝部

序章

 夢の中で、私は泣き叫んでいた。

力なく横たわる母が、私の頬に優しく触れる。

「エラ、強くなりなさい」

「いやだ! いやだよおかあさん! わたし、おかあさんと一緒じゃないといやだ!」

「もう……泣かないでエラ」

 違う、これは夢じゃない。私の記憶。

 子供の頃の私が今、母の横で泣いている。頭にもやがかかったみたいに、意識がはっきりしない。

「あなたには、力がある。天才的な力。今はまだ眠っているけれど、いつかその時が来たら、その力は目覚め、きっとあなたにこたえる……!」

 お母さん、何言ってるのか全然分からないよ。

「辛く、険しい道だけど、信じて前に進みなさい。大丈夫、私の友達があなたを助けてくれる」

 頭の中にかかる靄が、どんどんと濃くなっていく。

「約束、覚えてる?」

「うん……」

「夢も、ちゃんと覚えているかしら?」

「うん……!」

 子供の私が、母の輪郭が、世界が、霧散していく。

 まるで、灰のように。

「愛してるわ。エラ」

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