第6話 痴漢現場

 最悪だ。昨日はよく眠れなかった。ジュディーさんが出した紅茶とあの甘い囁きのせいだ。日をまたいでも眠くならず、寝つきが悪くなってしまった。

 今の時間は8:30。まずい。9:00始業だからほぼ遅刻確定だ。こうして落ち着いて説明していながらいつもの自炊を諦め食パン一斤を手に取って、目玉焼きを作っている。どんなに忙しい朝でも俺は目玉焼きを忘れない。中国のアパートの大家が鶏を飼っていて毎日住民に卵を配っていたからその卵を使った目玉焼きが朝ごはんの日課になっていた。これを食べないと俺の一日は始まらない。横浜に来てからも続けるつもりだ。

 わかっているが朝ごはんがさびしい。昨日の餃子、あげないでとっておくべきだったな。いや、お陰でジュディーさんに会えたんだぞ!そういえばジュディーさんどうしてるかな?…!いやいやそんな考える時間ないぞ。

 最寄りの高島町駅まで徒歩5分。でもワンチャンはある。俺の陸上で鍛えた足がまだ使えるなら…こんなの一分あれば間に合う!


 俺は全速力で家を飛び出した。横浜全貌を前にして下り坂を一気に駆け下りていく。残暑厳しい中、横切る風が心地よい。びっくりするほど冷静だ。いける!間に合う!


 駅に着いたが市営の地下鉄なんでホームが深い。こっからラストスパートだ!ホーム階が見えた。駅メロが鳴り始める。このホームは階段が端にある。つまり階段を下りると一号車(女性専用車両)が現れる。こんなシチュなら男は困る、だから女性専用車両はゴミなんだよ、と思いつつなんとか二号車に乗り込めた。まあ会社の最寄り駅横浜は三号車辺りに階段があるのでいいのだか。


 電車が動きだした。市営の地下鉄はうるさいのでリスニングも出来ない、だから俺はたった2分だけど日経新聞を読む。流石にビジネスマンとして。

 急に電車が止まった。前の車両に接近したらしい。まあ読める時間が増えるからいいか。動いてない電車ほど重い沈黙はないな、と感じていると隣のドア前にきれいなパツ金美女を見つけた。

 "あ、、ジュディーさんだ!”

 もう日経新聞なんてもう見ないことにした。外で見る彼女はきれいだ、ずっと見ていたいと思った。そういえば彼女の会社は外資系だからフレックスタイム制を導入してて時間にはゆとりがあるのか、と妙に納得し再び彼女に視線を戻す。


 それにしてもスーツパンツがよくお似合いですね~♪と不意に俺の口角が上がった時、彼女の高潔なお尻にごつい男の手がかかっているのが見えた。

 これは…!もんでる!ジュディーさんが痴漢にあってる!助けなきゃ!

 ジュディーさんは目を細めて悶えている。静まり切った電車中に彼女の荒い吐息が響く。俺も聞こえた。正直俺が赤の他人なら今晩のおかずにしているが、今は本当に助けなきゃ!という気持ちが勝っている。

 俺は彼女のいるドア前の方に向かったが、電車が発進し始めた。

 "くそ、人混みと電車の揺れで進めねぇ...ジュディーさん頑張れ!”

 するといきなり彼女の雰囲気が変わり後ろにいたごつい男の急所をズボンの上から素手で握り潰した。男は悶絶している、そりゃそうよ...

 さらにジュディーさんはハイヒールで男の片足を踏んづけたまま素早く反転しもう片方の脚で男のビール腹に膝蹴りをかました。そして男の手首は普通回らない方向に曲げられてゲームセット。昨日の俺への手首のつかみ方とは全く違っていた。熊のような男は一連の攻撃で蛇に睨まれた蛙になった。


 横浜駅に着いたら真っ先にジュディーさんは男を連れて「駅員さ~~~~ン!!」と大声で呼び叫んで行ってしまった。俺は唖然としていた...


 結局、会社は普通に遅刻し周りから"朝弱い人”とレッテル貼られた。最悪だ、入社したてほやほやなのに...

 仕事中もずっと彼女のことを考えて全然集中出来なかった。


 今日は異様に疲れたぞ、と重い気分でグランドビューヒルズがある丘を登っていると後ろから声をかけられた。ジュディーさんだ…



(この物語では、虚実な団体、特定の国の名前をお借し一部、信憑性が極めて低い内容を書いていますが、全て物語を楽しむ上でのフィクションですので安心してお楽しみ下さい)


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