第5話 夢のような時間
グラスをテーブルの上に戻した所で、私は二人のグラスの中身が減っていない事に気付いた。
いや、むしろグラスを手に取ってさえいなかった。
「どうして、飲まな…」
言いかけた所で私は自分の体の異変に気が付いた。
体が火照るような疼きを覚える。
「な、何を、…飲ませ…」
言いながらこれは媚薬を飲まされたのだと気付いた。
アドリアンもリュシアンも私にこの媚薬を飲ませる為にこの晩餐会を開いたに違いない。
まっすぐに座っている事が出来ずにテーブルに突っ伏すように寄りかかる。
アドリアンとリュシアンはそんな私の様子をじっと見つめていた。
媚薬を飲まされたのならば、誰かに抱かれて熱を冷まさない限り薬を抜くことは出来ないと聞かされている。
これから自分はどうなるのだろうかと思い巡らしていると、アドリアンが自分のグラスのお酒を一気に飲み干して立ち上がった。
「さて。それじゃ行こうか。ポーラ、案内してくれるかい」
アドリアンは立ち上がると私を抱きかかえてポーラの後を付いて歩き出した。
アドリアンに抱きかかえられたまま、私はポーラもこの件に一枚噛んでいる事に気付いた。
アドリアンに抱きかかえられながら、私は体をアドリアンに擦り付けるように身を寄せる。
アドリアンに運び込まれたのはやはり私の寝室だった。
アドリアンは私をベッドに横たえると私の口を開かせて何かを入れた。
口の中に入れられたのは小さな錠剤だった。
「さあ、それを飲むんだ」
媚薬を飲まされた上にまだ何かを私に飲ませようとしている。
吐き出そうとするよりも先にアドリアンがキスをしてきて私の口の中に水を流し込んできた。
抗おうにもアドリアンの口で塞がれている以上、それを飲み込まないわけにはいかなかった。
ゴクリと嚥下するとアドリアンは満足そうに微笑んだ。
「さあ、始めようか」
アドリアンの呼吸も媚薬を飲んだせいで荒々しいものに変わっていた。
…ああ、やっとこの火照りが収まる…
アドリアンにドレスを剥ぎ取られながら私は快楽の渦に溺れていった。
******
アドリアンはヴァネッサから体を離すとベッドから降り立った。
ヴァネッサは先程までの情事とは打って変わってすやすやと小さな寝息を立てている。
裸のヴァネッサに布団をかけてやるとアドリアンは近くに用意されていたバスローブに身を包んだ。
後の片付けはすべてポーラがやってくれる手筈になっている。
寝室を出るとそこには待ち構えたようにリュシアンが立っていた。
「なんだ、そこにいたのか。まさか見ていたとか?」
アドリアンの言葉にリュシアンは肩を竦める。
「…さあね。それより、お疲れ。お風呂に入るだろう。僕が洗ってあげるよ」
「助かるよ。それにしてもあの媚薬は効き目が凄いな。今度、一緒に飲まないか?」
アドリアンの誘いにリュシアンは顔をほころばせる。
「いいけど、すぐには無理だな。お前の結婚式が控えてるし、新婚早々、アンジェリック様を一人寝させるわけにはいかないだろう」
リュシアンの指摘にアドリアンはいたずらっぽい笑みを返す。
「そんなの、昼間の執務中でも出来るだろう。いつも二人きりなんだからさ」
「やれやれ。これが将来の国王の言う事かね。こんな国王がいる国民に同情するよ」
「何を言ってる。お前だってその国民の内の一人だろう」
二人はクスクス笑いながら唇を重ね合う。
二人がこんな関係になって既に五年が過ぎていた。
二人の関係を知っているのはリュシアンの侍女長であるポーラだけだ。
浴室に入るとアドリアンはバスローブを脱いだ。
その体を見てリュシアンがからかうような声を上げる。
「どうした? 媚薬は抜けたんじゃないのか?」
「全部抜いたつもりだったが、まだ残ってたみたいだな。君が慰めてくれるんだろう?」
アドリアンに言われてリュシアンはニコリと笑いながら湯をかけてやる。
「その前にヴァネッサの痕跡を洗い流さないとね」
湯を流す音はやがて淫らな水音へと変わっていった。
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