第105話 秘密の議定書(プロトコール)(その4)
昭和14年9月某日 長岡市 長岡中学校(旧制)応接室
「しかしまた、山本五十六君、君はちょっと前にこの学校に来たとき、校門近くの東郷平八郎元帥手植えの樫の木の前で校長と記念写真を撮っていてだろう。今日はお忍びで、よく校長は沈黙を守ったなぁ」
と
「私より小野塚喜平次先輩や、あなた、橋本社長が雁首そろえてここに来ているから、本当は大騒ぎだったでしょう。それに大橋熊男大佐だってそれなりに名前も知られているわけだから。そうだ、大橋君」
橋本日本石油社長は駐蒙軍政治参謀の大橋大佐に尋ねた。
「君は満州の大倉組(当時の大倉財閥の商社)に、相当、金をゆすりたかりしているようだな、はっはっは」
「橋本社長、さすが地獄耳ですね」
「アヘンの栽培農場の資金だというじゃないか」
※当時の満州国、中国大陸全土に渡って違法薬物としてマフィアの資金源としてアヘンが流通していたが、公営化によって撲滅を図っていた。その栽培地が主に内蒙古であった。
「必要悪ですね……これは。やむを得ない。いつかはアヘンを無くす日がくるでしょうけれど」
「一度始めた商売を辞めるのはなかなか難しいぞ」
「承知しております」
堀口九萬一氏は橋本圭三郎社長に尋ねた
「橋本君、アメリカからの石油はあと1年たらずで絶える。日米開戦となったら日本石油はおしまいだ……」
「政府主導で石油会社の統合を図り石油の一元管理をする路線は出来ております。ただ新津石油と早山石油は合併の合意ができておりますが、鈴木商店系の旭石油がウンといわない。まあ、みないずれ一つになるでしょうが」
「日本の敗戦となったらどうする?我が国経済は君の会社にかかっているんだぞ」
「私の日本石油はスタンダードオイル、つまりはロックフェラー財閥との関係があります。まずはアメリカでしょう。ここでソビエトに荒らされるわけには参りません。猪俣津南雄博士の前で申し訳ないが……我が国はどこで敗戦を決断するかわかりませんが、日本石油は速やかにアメリカ・ロックフェラー財閥と提携を開始します。新津石油の
※新津恒吉 新潟県三島郡出雲崎町出身の石油王・新津石油、早山石油、旭石油との合併で昭和石油が設立された。戦後の昭和23年はロイヤルダッチ・シェル(ロスチャイルド財財閥系)と提携し、昭和シェル石油となる。近年に昭和シェル石油と出光興産との合併によりシェルとの関係の多くが解消された。
日本石油はほぼ同時の昭和23年にカルテックス(カリフォルニア石油とテキサコ・ロックフェラー財閥系)と提携する。長らく日本石油の蝙蝠マークとカルテックスの星のマークが、タンク貨車やガソリンスタンドに着けられていた。
堀口九萬一氏笑ってこたえた
「橋本圭三郎君、ロックフェラー財閥とロスチャイルド財閥、そして新潟の山口(誠太郎)家と新津家、そこが戦後再び手を結ぶのか・はは。帝国主義国家は変わらぬな、なあ猪俣博士」
「苦々しいところでございますね。そこは小野塚先生や小原先生から労農運動の自由を確立してほしいところです」
右翼の黒幕、小林順一郎はつぶやいた
「ロックフェラーとロスチャイルド、そして日本石油と新津石油でスターリン・コミンテルンを包囲か」
「あとはアジア諸国の独立だな……」
田中菊松大佐が口を開いた
「それはなんともいえませんね」
※この時に田中大佐はインドネシア独立運動に関与するとは夢にも思っていなかったであろう
私(
この同窓の連中は、秘密結社なんてものよりタチの悪いジジイどもだと。
しかし、歴史の教科書に書いてあるとおりの話をしているのはわかった
この人達がどれだけ実行したかはわからないが、山本五十六長官の書記官が速記でとりまとめていた。
これを浄書して、連判状でも作成するのであろうか
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