第3話 B型作業所
B型作業所といえば、お金がもらえる制度の中でも、下の方というのは御理解いただけるかと思う。
A型作業所というのもあって、こちらは八時間労働、最低賃金保障の障害者の雇用施設のことだ。
B型作業所は工賃は貰えるものの、時給は最初「90円」だったのだ。
ただし自分が通っている場所は、送迎無料、昼食無料。
本質的には社会の労働体験をする障害者福祉施設らしい。
他にも障害者雇用というものがある。これは一般企業には障害者枠があって一定率で雇わなければならないようだ。
ただし賃金は障害による程度などで減らすことができるらしい。
そのため、障害者雇用による平均賃金はかなり低い。
雇用は雇用なので、自分で通う手段も必要だし、ちゃんとスケジュールに合わせて出社できる能力を問われる。
長い間ニート枠で過ごし、朝も起きられないのに、障害者雇用や一般雇用で仕事ができるとは到底思わなかった。
しかし父親が他界し危機感を覚えたころ、一枚のチラシがポストに入っていたのだ。
それがいま通っているB型作業所だった。
以前はB型作業所は賃金が安すぎて、通うだけ無駄だと思っていた。これについていえば今も思っている。
決め手の一つは送迎無料。送り迎えしてくれる。もちろん時間は決まっているけれど、それさえ守れば連れていってくれる。無料で。
さらにお昼ご飯が無料で出る。作業所の中には昼食は出るものの賃金から引くという場所もある。やはり無料だとうれしい。
そして自分の場合には、午後のみにしてもらった。
これでお昼を無料で食べて二時間半作業するだけで帰ってくる。
作業は比較的簡単だ。
しかしそれはあくまで比較的だった。
現代では本当に簡単な作業はすでにロボットに取られてしまっている。
部品の組み立てや商品の袋詰めのように、微妙にロボットで難しい仕事が多いのだ。
そこにはちょっとだけ難しさがあり、人に優位があった。
企業は大量生産していて、たくさんある製品をさばくのにB型作業所にも仕事をまわしてくれているのだ。
受ける値段もおそらく安いと思われる。
内職の単価を知っていれば、どれくらいかは想像がつくかもしれない。
そして職員さんが手助けやチェックなど多くの周りの作業をこなして、僕たち作業者に仕事を割り振っていく。
助かるのは早さ優先ではないことだろうか。
別に速度は求められていない。
ただ自分は作業速度がある程度早いことにも自信があり、作業の最適化とかにも興味があった。
なるべく効率的に仕事をこなしたい。
個人でそういうのに取り組んでもたいしたことはできないが、自己満足だ。
それはそれでけっこう面白い。
例えば部品の向き。作業するときと同じ向きに揃えて置いておくといい。
右向き左向きなどが混ざっているととてもやりにくい。
先に揃えてしまうと後が楽だと思う。
それから作業者によって右利き左利きがあり多くの場合、部品の置く位置が左右反転していたりする。
テープ巻きなどでぐるぐるにするときに、逆向きになることがある。
それから他の作業者さん。
車椅子や杖など体が不自由な人も多い。
それでも手を動かして、頑張って作業をしていた。
自分も頑張らなければ、という気分にさせてくれる。
作業が得意な人、雑な人、早い人、遅い人、丁寧な人。
いろいろなタイプの人がいて、興味深い。
そうそう、基本といえば人海戦術だ。
早い人が一人いるより、三人でぱっぱとやったほうがいい。
作業が早いに越したことはないが、それだけではないのだ。
それから一つ。
作業中に十五分休憩がある。
いつも缶コーヒーを持っていっている。
実は自動販売機があるのだけれど、そこで買うより持ち込んだ方がかなり安い。
コーヒーは僕の休憩時間の癒し要素だ。
気分をリフレッシュしてくれる。
カフェイン中毒ではないと思う。
最初の頃は手に汗握る状態だった。
手も微妙に小さく震える。これはニートであまりにも手も指もほとんど使ってこなかったからだろう。
名前を書くとき文字が震えていた。
しかし三か月、六か月、一年と経つうちに筋肉でもついたのか、神経が太くでもなったのか分からないが、だいぶ手の動きもしっかりしてきた。
最初の頃から、手先の器用さはさほど違いがないと思う。
けれど、この小さな震えはやっぱり、なまっていたのだ。
本当なら、一般就労したい。
誰もが考えることだ。でもそれは難しい。
ならせめてと、B型作業所だけでも続けられるようになりたい。
やりがい搾取ともいわれる。
時給90円。今は上がって110円。
最低賃金が時給1,000円くらいであることを考えれば、その1/10の能力しかないと思われているようなものだ。
実際には送迎費、昼食費を引いたらそれくらいなのかもしれないが、定かではない。
それでも、なにもしていないよりはいいかなとは思っている。
これも自己満足かもしれない。
でもこれから先は何も分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます