物語の終わり、創造の始まり

第117話 最終決戦の準備

あれから3人で【解体新書】を、そして私は『レヴィアナ』が残してくれた記録を読み込んだ。


「さすがに俺、自分の親友のイベント……ってかアリシアに笑いかけてるイグニスとかマリウスとか見たくねーんだけど」

「そんな事言わないの。私とナタリーだけじゃ見逃しちゃうかもしれないでしょ?」

「って言ってもよ。ナタリーは書いてないから平気かもしれないし、レヴィアナもレヴィアナじゃないからいいとしても、俺は俺自身が書いてあるだろ?そんな事した記憶ないのに絵だけ残ってるのがなんかすげー違和感あるだって」

「まぁ、確かにそれも……そうかも?」

「だろ?」

「……でもやっぱりダメ!ただでさえこの【解体新書】はこんなに分厚いのよ?もしそれで情報を見落としたとしたら目も当てられないわよ。相手はこの世界のヒロインなのよ?」

「まぁ、そうだけどよ」

「3人で協力しないと。それに、私たちはこの本よりずっとずっとずーっと先に行くんだから」

「……そうだな」


しぶしぶながらガレンも納得したようだった。


「あ、レヴィアナさん、これ見てください!」

ナタリーは【解体新書】のTipsと書かれた箇所を私に見せてくれた。

「何?えと……?」


ナタリーが指さす所を読む。


「あ!これ使えそうね!さっすがナタリー」


ガレンのほうをちらりと向くと目があった。


「わかった、わかったってば」


ガレンも重い腰を上げて、ごそごそとこっちに寄ってくる。


「その調子でいろいろ使えそうな情報をガレンと探して。私はまた『レヴィアナ』の作業部屋に行ってくるから」

「はい!」


2人が元気よく返事をしてくれた。


***


「じゃ、始めるわよ」

「1000体……マジで気が遠くなるわ。誰だよ、こんなこと考えたの」

「ほんとですね」


3人でモンスターの森に来て、まずはレベル上げ兼連携確認、そしてアイテム稼ぎ。

何かの拍子に起動するのは怖いのでディスペリアム・オベリスクの近くは避け、学園からさらに離れた所でキャンプを作ることにした。


「それにしてもガレンさんの土魔法って便利ですよね。私も使えたらいいのに」


てきぱきとガレンが要塞のような建築物を作り、私たちはその中に持ってきた食料などをいれていく。

これなら多少普通に生活ができるような空間が整った。


「この訓練中に教えてもらえばいいじゃない」

「え?ほんとですか?」

「たぶん1000体なんて一週間はかかるわよ?その間この森から離れられないんだしちょうどいいんじゃない?」

「おう、俺教えるのはいいぜ。もしナタリーも使えるようになったらもっと豪華な建物になるしな!」

「わ!ありがとうございます!一生懸命頑張ります!」

「でも、まずはこっちから頑張ってね」


早速モンスターが3体現れた。


「まずは俺がある程度進めるわ。ナタリーはモンスターの数のカウントお願いな」

「はい!」


ガレンが先頭に躍り出ると、モンスターは一直線にガレンに向かっていった。

ガレンは地面から石をつかむと魔力を込め、そのままモンスターに投擲した。モンスターが鈍い叫び声を上げたかと思うと、そのまま消滅する。


「次!」


ガレンが叫ぶと今度は2体が同時に襲い掛かってくる。今度は地面から拾い上げることはせず、魔力でコントロールして2体のモンスターを迎撃した。

ロックスライダーとも呼べない、魔力の消耗を極力防いだ戦い方だった。もしかしたら自分一人で1000体倒すことを想定しているのかもしれない。


「あくまで安全第一で戦ってよ。アリシアと相対する前にけがしたとかシャレにならないからね」

「はは、わかってるよ!」


モンスターが消滅したのを確認して、さっきまでモンスターがいた場所に落ちているアイテムを回収する。

どれもただの装飾品。有利になるアイテムが落ちてくれるといいんだけど。

食料たちと同じように、建物の中にアイテムを収集しては放り込んでいく。


それから3人で役割を交代しながら戦闘し続けた。

時折出てくる強力なモンスターに対しては、ガレンのアースシェイカーでバランスを崩させ、私とナタリーで一気に制圧した。

水を汲みに行って、戻ってくるとガレンとナタリーが息をぴったり合わせてモンスターを圧倒している。

落ち着いたタイミングをはかって建物の中で食事をしていたら突然モンスターが登場し、慌てて文句を言いながらも戦いを再開する。

一番大変だと思っていた睡眠も特に苦にならなかった。

交代で休息をとっている間も、全幅の信頼を寄せた仲間が見張っているのだし、と、安心して眠ることができた。


ずっと楽しかった。

精神的にも、肉体的にも、魔力的にもつらい環境だったはずなのに、不思議と疲労感はなかった。


たぶん、そう思っていたのは私だけじゃない。

明るくふるまっていたけど、ナタリーが【解体新書】を見てから明らかに様子がおかしかった。

きっとガレンもだ。でも、そんなことを微塵も感じさせないようにふるまっていた。

2人ともきっと不安で、怖くて、どうしようもない気持ちだったはずなのに。


だって、私もそうだったから。


私もガレンやナタリーと同じこのゲームのキャラクターでしかなかった。

皆と同じだとわかったのは嬉しかった。でも、やっぱり少し怖かった。

現実世界の私はもういない。藤田 柚季はもう居なくなった。

ただの少しだけ知識が多い、それでもただのキャラクターでしかない。

自分の存在が本当に小さく感じられた。ちっぽけですらない、存在自体に価値が見いだせないような、ソニック・オプティカ、ソフィアをつかって、現実世界に戻った時の喪失感に似ていた。


もし一人でこんなことを抱え込んでいたら、間違いなく私はつぶれてしまっていただろう。

でも、今ここにはガレンとナタリーがいる。


別に話したからといって何かが改善できたわけじゃない。

でも、やっぱり何かを共有することで、私と2人との間に何か絆のようなものが生まれた、と思う。

それがとても心強かったし、何より楽しかった。


そして、実際に1週間の日々はあっという間に過ぎ去っていった。


「……あと、3体か?」

「数え漏れがあるかもしれないから、あと20体くらいって思ってた方がいいかもね」

「うげ、まぁ確かに。んじゃあと50体って思っておくことにするわ」


ガレンは魔力が枯渇しかけで、ナタリーも似たような状態だった。


「レヴィアナさん……すごいですねー。まだ魔力そんなに残ってるんですか?」

「2人の陰で隠れてサボってたからかもね」

「んなわきゃねーだろ。俺より絶対多くたおしてるじゃねーか」

「だとしたら、『レヴィアナ』と『お父様』に感謝しないとね」


そんな軽口をたたきながら、私も額に玉のような汗を浮かべている。


「お……!?いや、数え漏れもなかったんじゃねーか?」


現れたモンスターはいかにも強そうな見た目のドラゴンだった。全身に炎のようなオーラをまとい、鋭い牙が口からのぞく。


ほかに、2体の強力そうな羽を羽ばたかせるモンスターも現れた。


「そうですね。あのモンスターは【解体新書】でも見ました。弱点は風魔法と水魔法ですね」

「じゃ、最後は力押ししかないか」


ドラゴンが遠吠えを上げると、2体のモンスターが一斉にこちらに向かって襲い掛かってくる。


「大地の力で舞い上がれ、石の駆け足よ!岩石の滑走、ロックスライダー!」


ガレンがアイコンタクトを私とナタリーに送り、アースシェイカーで2体のモンスターの体勢を崩す。

その隙にナタリーが氷魔法の詠唱をはじめ、私は距離を置きあらかじめ作っておいた石の壁の陰に隠れた。


「アイシクルランス!!」


ナタリーが2体のモンスターを大量の氷魔法で貫き、機動力を奪う


「ぐぉぉおぉっおぉぉぉっ!!」


ドラゴンが叫び声をあげて炎を吐き出し、ナタリーを焼き尽くそうとする。

しかしナタリーはドラゴンを見据えたまま詠唱を一切止めず、回避行動すらとらなかった。


「ストーンバリア!!!」


ドラゴンとナタリーの間に岩の防壁がせり上がると、ドラゴンの炎を防ぎきった。

アイコンタクトすらない、完璧な連携だ。


「氷河の奔流、我が意志に従い押し寄せよ!冷たき波動、グレイシャルウェーブ!」


ナタリーが詠唱を終えると、2体のモンスターの足元から氷の柱が現れ、そのままモンスターを凍り付かせた。

その様子を確認すると、私とドラゴンの射線上から2人が回避する。


「星々の嵐よ、我が力と共鳴し、雷鳴を轟かせろ!稲妻と嵐の融合、ヴォルテックテンペスト!!」


詠唱を済ませ、ドラゴンに向けた右手から雷がほとばしる。

そのままドラゴンの翼を貫き、激しい電撃が体中を駆け巡った。

空から大きな地響きが鳴り、土煙が上がる。

それと同時に氷の柱が消え、2体のモンスターも地面に倒れたまま動かなくなった。


「はぁ、はぁ……。ガレンさん!アリシアさん!大丈夫ですか!?」

「あぁ、大丈夫だ!」

「えぇ、問題ないわ」


3人とも警戒は緩めない。テンペトゥス・ノクテムのようなことがあるかもしれない。

2体のモンスターも、ドラゴンも光を放ちながら消えていくのを確認してから、3人とも大きく息を吐いた。

ガレンがガッツポーズをする。ナタリーもほっと胸をなでおろしたようだ。

私は肩の力が一気に抜けたような感覚に襲われ、地面に座り込んでしまった。


ドラゴンが消えた場所には禍々しいアイテムが落ちていた。


「……これが?」

「ええ、ディヴァイン・ディザイアね」


よかった。これで、無事卒業式までに全て準備を整えることができた。

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