第112話 天才悪役令嬢『レヴィアナ』_2
それ以外にも『レヴィアナ』が書き記した、この世界に対しての考察は尽きることを知らなかった。
何冊も、何十冊もあるノートのすべてにびっしりと書かれていた。
『この世界はアリシアが誕生した瞬間に誕生した……としか思えない。だとしたら……』
『なぜナディアさんは回復魔法なんていうものが使えるの?日付が変わったらすべて治るのに?それに回復魔法って何?』
『三賢者の魔力量はおかしい。人間が扱える総量を超えている』
『私はなぜ存在しているの?生まれた?どうやって?』
『この【本】の続きは無いの?卒業式の続き』
時々震える文字で、そして時々冷静さを強いたような文字で、この世界を忘れないように、忘れても忘れた事がわかるように全部書き記そうとしていた。
きっとガレンはこの『レヴィアナ』を見て、見ていられなかったと言ったのだろう。
「――――っ……!」
新しいページを開き、そこに書かれていた文字を目にして、『レヴィアナ』が書き記した決意を目にして息をのんだ。
『私もアリシアが通うセレスティアル・アカデミーに行くことになった。
きっと4人と仲がいいから、だと思う。
よかった。これで自然に接触できる。
それで、アリシアの「嫌い」は私が全部集めよう。
私以外の誰かをアリシアが「嫌い」にならないように、私が、私だけがアリシアに嫌われるようになろう。
そして、私はすべての障害を排除して生き続けよう。環境も、モンスターも、この世界に対抗して、生き続けよう。
……せめて、全員が卒業式を迎えられますように』
書きなぐられている文字は所々インクが滲んでいる。その文字を私はそっとなぞった。
涙を止めるのが大変だった。私なんかの涙でこのノートを汚さないようにするのが大変だった。
「『レヴィアナ』……」
ページのふちはインクが滲んで、何度も書き直した跡がある。
でも、これまでに書かれたどのノートの文字よりも力強い文字だった。
「あなたは……本当に……」
そのあともレヴィアナの計画が書かれていた。
――――そうか、だから、なのね。
イグニスたちに真実を伝えずにどう協力してもらうか、すべて書かれていた。
入学式でイグニスたちが抱きしめてくれたのも、あんなの貴族の挨拶でもなんでもない、『レヴィアナ』が頼み込んで演出したアリシアへの当てつけだったんだ。
「『レヴィアナ』……だから、あなたは悪役になったのね……」
ノートにとうとう私の雫が落ちる。
とんだ勘違いだ。アリシアとしてゲームをプレイしているときに「嫌な奴」だと感じて当然だ。
『レヴィアナ』は「嫌われる」ことで、みんなを守っていた。
そして自分だけがずっとみんなから憎まれ役になって、一人切りでみんなを守ろうとしてくれていた……。
レヴィアナが命を失うきっかけになったあの魔法ももしかしたら強大な敵に対抗するために必死に研究していたものなのかもしれない。
「……そりゃ……ガレンが壊れたって言ってもおかしくないわよね」
アリシアに嫌われたらこの世界に排除されることがわかっていて、
そして排除されたら存在がなくなって、
みんなの記憶からも無くなってしまうとことがわかっているのに、
その上でこの世界そのものともいえるアリシアに自分から嫌われようというんだ。
こんなの常人ではできないだろう。
もう一度目の前に積まれた分析と仮説と対策が書かれたノートを見る。
「『レヴィアナ』ごめんね。私、勘違いしていたみたい」
初めてこの世界に来た時に『なんでアリシアじゃないんだろう』と思ったけど、心の底から謝罪する。
「私、あなたのことが好きよ」
椅子に座り、机の上のノートと向き合う。
少しでも、ほんの少しでも『レヴィアナ』の決意を自分のものにできるように目をつむってこの部屋に広がる空気を胸いっぱいに吸い込む。
「だから、きっとあなたの願いは私が叶えるわ」
ノートの1ページ目に書かれている『せめて、全員が卒業式を迎えられますように』メッセージをなぞり、私もペンを手に取る。
何か私の決意を残しておこうと思ったが、この神聖なノートになんて書こうか迷った。
ーーーーこのノートに残す文字はこれだけにしよう。
机の上のペン立てから1本の羽ペンを取ると、さらさらとペンを走らせた。
結びの文字として、私の名前、藤田 柚季とノートに記した。
この世界に来て、初めて私の何かをきちんと残したような気がした。
もう一度ノートを抱きしめ、そっと机に戻す。
そしてそのまま小屋を後にした。
***
「レヴィアナさん!遅いです!」
大広間に戻るとナタリーが頬を膨らませてこちらを見ていた。
「ごめんなさい、遅くなってしまって……」
「ほら、みんな待ってたんですよ!早く席についてください!」
ナタリーに背中を押されるようにしてテーブルの前まで誘導される。
テーブルには所狭しと料理が並んでいて、すでに家の使用人たちも皆席についていた。
初めてここに来た時もこんな風に大量の料理と大量の顔に囲まれてどきまぎしたものだったが、もう心休まる場所になりつつある。
「お嬢様。今日は旦那様もいらっしゃらないので、お嬢様の挨拶を待っているんですよ」
「え……でも、私……」
「大丈夫ですよ、お嬢様」
そう言ってフローラは優しく微笑んでくれた。
「――――では、皆さん、今日は突然の訪問でしたのにこんなにおもてなししていただいてありがとうございます。今日はみんなで楽しみましょう!」
私がそういうと一斉にみんながグラスを上げ、食事が始まった。
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