第69話 頼れる仲間と素敵な時間


「じゃあここから今日最後の連携確認だ!」


モンスターの森にセオドア先生の声が響いた。あの日から生徒会メンバーだけでなく生徒の中からの立候補者も合流し、特別訓練と称して午後の多くの時間をこうして過ごすことが日課になっていた。


「レヴィアナさん!こうして一緒に戦うことが出来て嬉しいです!」


ゲームの世界では『レヴィアナ』の取り巻きだったミネットとジェイミーも参加してくれている。元々のゲームの関係性を知っているだけに、こうしてこの3人とアリシアが一緒になっているのは不思議な気がするが、危険性については説明した上でこうして一緒に協力してくれるのはありがたい。


「それでは今日はよろしくお願いしますわ」


生徒会メンバー以外のメンバーともチームワークを確認するため、今日はこの2人とチームを組むことになった。

ゲームでは全編を通してプレーヤーにとって愉快な存在では無かったこの3人組だけど、こうして懐かれるのは悪い気はしなかった。


「それにしても……っ!」


この2人の魔法力も普通の生徒よりも格段に強い。私もあれから訓練を積んで魔法についての理解も深めたつもりだ。しかし、それ以上に元星辰警団の団長のセオドア先生がすごかった。


今も3チーム、計9人で仮想テンペストゥス・ノクテム役としてのセオドア先生と戦っているのに、少しも突破口が見えてこない。


「―――っ!!っくそぉ!!」

「甘い!」


焦れて一歩前に出たイグニスに向かってセオドア先生の鋭い魔法が飛んでいく。バランスを崩されたイグニスの詠唱が中断させられてしまう。

一撃の最大出力だけで見れば私やイグニスも引けを取らない威力の魔法を持っているが、その魔法を発動させる隙が無い。


私のチームメイトのミネット、ジェイミーも頑張って私の詠唱時間を稼ごうとしてくれているが、セオドア先生の魔法発動があまりにも早くて私自身も対応に追われている。


「みんな離れてくださいまし!!」

「遅い!!」


合間を縫ってようやく完了したサンダーストームを放とうとした瞬間、セオドア先生のヒートスパイクに足場を壊され、バランスを崩してしまう。


(――――しまった……!)


体制を立て直そうと受け身を取り、視線をあげると辺り一帯ヒートスパイクに包囲されていた。


(こんな大量のヒートスパイクを正確に制御するなんて……)


ノーランも1対1でならこんな芸当出来るかもしれないが、9人を、それも生徒の中でも真能の成績が優秀な9人を相手取っていてのこの対応だ。


今も私に注意が向いた隙を見つけてセシルが勢いよくシルフィードダンスで突っ込んでいっている。


「エアースラッシュ!!」


防御魔法やヒートスパイクで迎撃されているが、それでも諦めず速度を上げ、得意の手に魔法を纏っての高速機動ヒートスパイクの間をすり抜ける。


この訓練ではセシルの新しい一面を見た思いだった。

いつもは飄々としているセシルが歯を食いしばって先生に突っ込んでいた。

セシルの速度はどんどん早くなり目で追うのがやっとな程、そして今まで見せたことがない鬼気迫る表情に思わず言葉を失ってしまう。


(私も…負けてられないわよね!!!)


周りを包むヒートスパイクをエレクトロフィールドですべて暴発させ、また戦場へと戻った。


***


「よし!そこまで!!」


あれだけの私たちの猛攻にも関わらず先生はピンピンとしていた。この人も三賢者と呼ばれていないだけで十分化け物だった。

星辰警団の団長というのはこんなに強いのだろうか。つくづく先日シルフィード広場で戦闘にならなくてよかった。


「うん、みんないい感じだ!テンペストゥス・ノクテムが現れるとされた日までまだあと3日ある。明日はまたチームを変えて試して見よう」


私たちは疲弊した体を引きずりながらセオドア先生の周りに集まる。


「レヴィアナは大技に頼らなくても十分威力がある。イグニスみたいに高威力の魔法を持っている奴が知覚に居たら中威力の魔法で牽制する役に回ったほうがいいかもな。お前の威力なら牽制でも十分ダメージが狙える」


セオドア先生からアドバイスをもらう。


「ナタリーはもっと思い切って魔法を使っていいぞ。もし周りを巻き込むような攻撃でも今回のチームのみんなは自分で避けて対処してくれる。それにもっと周りに自分の氷魔法を展開して機動力も生かしていけ」


ナタリーも先生からのアドバイスを真剣に聞いていた。


「最後に……セシル」


呼ばれたセシルはピクリと反応する。


「お前はもっとみんなと協調することを覚えたほうがいいな」


2人の視線が交差する。


「今回お前はアリシアとマリウスと組んでいた。アリシアのブレイズワークスはその高威力を引き換えに詠唱に時間がかかる典型の様な魔法だ。お前にはそのサポートをしてもらいたかったんだが……」

「それは僕の魔法の威力が非力だからですか?」


セオドア先生の目をセシルがまっすぐ見つめる。今まで聞いたことが無い、セシルのピリついた声だった。


「僕の魔法の威力がないから、サポートに回れ……と?」

「威力がないからじゃない。セシルの機動力が素晴らしいからだ。お前の速度があれば敵を引き付けることも牽制することも自由自在だ。アリシアのオリジナル魔法には時間がかかるからフォローしてあげて欲しいんだ。イグニスやレヴィアナと組むことになった時も同様だな」


セオドア先生は優しくセシルに語りかける。それでもセシルは首を縦に振ることはなく、少しの間沈黙が場を支配した。


「先生、私がもっと早く詠唱できるようになります。そうすればセシルさんに守ってもらわなくても……」


おずおずとアリシアが手を挙げる。


「アリシア、ありがとう。でも、はい、わかりました」


そう言ってセシルはアリシアに笑いかけた。それでもそのセシルの声はいつもより暗く響いた気がした。


***


「なぁ、この後訓練場にいかねーか?」


解散してからこれからの動き方について考えているとイグニスが声をかけてきた。


「もちろんいいですけど、先程の怪我は大丈夫ですの?見事にセオドア先生の魔法直撃していませんでした?」

「これくらい大したことねーよ。それよりやられっぱなしの方が悔しくて仕方ねぇ」


イグニスはそう鼻息を荒くする。


「こないだ先生と威力勝負した時も手加減してやがったな、あれは」


あまり突っ込んだことは聞いていないが、みんなの会話を合わせると、先日のアルドリック家襲撃事件の容疑者から私たちは外れ、セオドア先生と合流したのも「魔法技能チェックの課外授業」という事になっているようだった。


「そうなんですの?」

「あぁ、間違いねぇ」

「嬉しそうですわね?」


こういったことで手加減されるのを何より嫌いそうなのに、今日はやけに上機嫌な気がする。


「そりゃまだまだ威力を上げられるってことだからな。嬉しいに決まってるだろ、そりゃ」

「手加減されていましたのに?」

「先生が手を抜いたのは俺様の実力が足りなかったからだ。むしろ手加減させちまって申し訳ねぇ。もっと強くならねぇとな」


イグニスは楽しそうにそう語る。なるほど、そう言った考え方もあるのか。


「あ、そしたら私も参加していいですか?」


アリシアが近寄ってきてちょこんと手を挙げる。


「もちろんですわよ。さっきの詠唱高速化ですか?」

「はい。セシルさんに守ってもらえない時もあるかもしれないですしね。そのテンペストゥス・ノクテムと言うのはセオドア先生よりも強いんですよね?」

「わたくしもナディア先生から聞いただけですが、そう聞いていますわ」


自分でそう言いつつも正直自信はない。それくらいセオドア先生が強すぎた。


「あ……あの、私たちもご一緒させてもらえないでしょうか?」

「ん?誰だ?そいつら」


イグニスがそう言うと「ひっ」と私の背中に隠れてしまう。


「相変わらず口が悪いですわね。ミネットとジェイミーですわよ。さっき一緒に戦っていましたでしょう?」

「お、そういやさっきいい感じの魔法使ってたな。よろしく」


そう言ってイグニスは手を差し出した。その手を眺めてミネットとジェイミーは首をかしげるようにする。


「大丈夫ですわよ。態度は悪いですが、良い人ですから。ほら、握手、握手」


そういい、ミネットとジェイミーの手を取り、半ば無理やりイグニスの手に2人の手を添えた。


「ミネットとジェイミー、これからよろしくな!」


そう言ってイグニスは2人の手をぶんぶんと上下に振り回す。


「よ、よろしくお願いします……」

「よろしくお願いします……」


2人はまだ若干怖がっているようだったけど、それでも少しは距離が縮まったような気がする。多分。


「んー……あれ?」


アリシアが首をかしげる。


「どうされました?」

「いえ、マリウスさんの姿が見えないなーと思いまして」

「あぁ、マリウスならさっきナタリーと一緒に戻りましたわよ?」

「ナタリーさんと?」

「最近マリウスもナタリーから氷魔法習っているようですから訓練でもされるのかと思いますわ」


先日も旧訓練場にナタリーが連れてきたのはマリウスだった。もしかしたら私が思っている以上に2人の仲は進んでいるのかもしれない。


「マリウスのやつも頑張ってるんだなー。俺様も負けてられねー」


そう言ってイグニスは拳をギュッと握りしめる。


「では、わたくしたちも頑張りましょう!」


そう言って私たちは訓練場へと向かった。



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