第62話 ざわつく学校
「ねぇ聞いた?」
「何のこと?」
「とぼけちゃって、ミネットも気になってるんじゃないの?」
ミネットはため息をつきながらジェイミーに向き合った。
「ジェイミーこそあんな事信じてるの?」
「信じてるわけないじゃん。レヴィアナさんがそんな事するわけないもの」
「でしょ?だったらそれでいいじゃん」
パンをスープに浸して口に運ぶ。ジェイミーには興味がない風を装ってはいるけど、いつもは美味しい食堂の料理が今日はなんだか味気なかった。
「でも……ほら……」
ミネットに促され視線を上げると、どこもかしこも同じようにこそこそとうわさ話をしているようだった。
『噂は本当らしいぜ』
『あぁ、3人とも教室に来てないらしいじゃんか』
『アルドリック公を襲ったって本当かよ』
『どうやら星辰警団も動いたらしいな』
『ねぇ、なんでそんなことしたのかな』
『しらなーい。あ、もしかして交際を反対されたからとか?』
『じゃあなんでイグニス様とガレン様が一緒なのよ』
『さぁ?それは知らないけど……』
『ショック―。私結構ガレン様の事好きだったのに』
『それを言ったら私だってイグニス様の事……』
聞きたくもない噂話がそこら中から聞こえてくる。
生徒会の筆頭であるレヴィアナ、そしてイグニス、ガレンの3人を知らない人はこの学園には居ないし、それがまさか自分の家に対しての反乱。まぁ噂のネタとしてはこれ以上ないほどのネタなのはミネットにもわかっていた。
しかし、それでも許容できるかどうかは全くの別問題だった。
「はぁ……レヴィアナさんに会えたらなぁ」
昼前に噂が舞い込んできてから会えないかと学校中を探していたけど結局見つからなかった。
「でもさ、会ってなんて聞くのよ。いきなり噂は本当ですか?とか聞くわけ?」
「はぁ……。付き合い長いのになーんもわかってないのねー」
ミネットはため息をつきながらカバンの中から1冊のノートを机の上に出した。
ジェイミーは首をかしげる。
「ほら、私たち目標書いてきたじゃない?それで私の目標、これだけになったの!」
ノートに書き記した『レヴィアナさんと一緒に戦う』という文字を指さしてミネットは嬉しそうに笑った。
「あんたも飽きないわねぇ」
「あたりまえでしょ?って言うかジェイミーだってそうじゃん!」
「まぁね。でも私の目標はこうよ」
ジェイミーも負けじとノートを取り出して、同じようにミネットに指し示す。そこには『レヴィアナさんと一緒に戦ってレヴィアナ様の役に立てるようになる』という文字だった。
その文字を二人で見つめあい、そして笑った。
「当たり前よね!レヴィアナさんがそんな事するわけないんだから」
「そうそう。それにもし何かしたとしても、絶対に何か理由があるもの」
ミネットは残ったパンをスープで流し込み、ノートを仕舞い席を立った。
「いこ!」
「ん?」
「決まってるでしょ!レヴィアナさんを探しに!」
「午後の授業どうするのよ?」
ジェイミーもやれやれと言う顔をしながらも嬉しそうに立ち上がる。
「教室にレヴィアナさんがいればちゃんとクラスに戻るって。それにここに居てもさ」
食堂には先ほどよりも多くの人で溢れ、先ほどまでの噂話もどんどん尾ひれがついて大きくなっていっていた。
『3人の凶行は計画的なものだった?』
『お金目当てだったんじゃ?』
『実は他の生徒会メンバーも陰で協力していたりして』などの根も葉もないうわさ話まで出てくる始末だ。
やっぱり大好きな人のこうしたうわさ話程、聞いていてつまらないものも無い。
それに、ミネット自身もただレヴィアナの声が聴きたくて、あの優しい微笑を見たくて居ても立っても居られなかった。
食堂を飛び出した二人は、レヴィアナの居そうなところ、行きそうなところをしらみつぶしに探した。
寮の部屋もノックしたが居ない。教室にも当然いない。
「これって……なにがあったのかな……?」
生徒会室に向かうと、扉が壊されていた。
「もしかして……もう……」
ジェイミーが手を口に当てる。ミネットも心臓が締め付けられるような思いだった。
「ば、馬鹿な事言わないでよ!ほら見てよ!」
ミネットは廊下に散らばった扉の残骸を指さしながらジェイミーに言う。
「扉は内側から壊されてる。それに……」
生徒会室の中をのぞくと誰もいなかったが、荒らされた形跡も残っていなかった。
「ほら!もし誰かが来たなら部屋の中はもっとぐちゃぐちゃなはずでしょ?」
「あ……そっか!そうだよね……」
でもやっぱりここにもレヴィアナはいない。本当にどこに行ってしまったのだろう。
「お、君たち。もう授業は始まっているんじゃないのかい?」
「あ……セオドア先生……」
廊下の角を曲がってこちらに歩いてきたセオドア先生に呼び止められた。
「おや?それにその扉はどうしたんだい?」
「ち、違います!私たちが来た時からこうなってて!」
ミネットは説明をするが、どうにも言い訳の様になってしまう。
「そうかい?ケガもしてないみたいだしそれならいいのだけれど……。さて、君たちに話があるんだ」
セオドア先生が二人に目線を合わせて少しだけかがみ込む。二人は目線を合わせたままゴクリとつばを飲み込んだ。
「君たちはレヴィアナと仲が良かったよね?レヴィアナはどこにいるか知らないかい?」
その言葉に、ミネットとジェイミーは同時に息をのんだ。
セオドア先生がレヴィアナを探しているという事は、もしかして……本当に……?
二人は顔を一度見合わせると、静かに首を横に振った。
「いえ、私たちもレヴィアナ様に用があって探していたのですが見つからず」
「はい、ちょっと魔法の事で聞きたいことがありまして」
セオドア先生は少し考えるそぶりを見せると、顎に手を当てた。
そしてニコリと笑うと二人に言った。
「そうかい、じゃあもし見かけたら私のところに来るように言ってくれるかい?」
「はい」
そう言い残しセオドア先生は背中を向けて歩いていった。
「せ、先生!」
ミネットがその背中に声をかける。
「なんだい?」
「あの、その……先生はレヴィアナ様に会って……どうするんですか……?」
「どうって?」
「いえ……えっと……だから……その……」
うまく言葉が出てこない。もし先生がレヴィアナに暴力を振るうようなことをしたら?そんな事は想像したくなかった。
「ははっ。君たちが心配するようなことは何もないさ。ただ、少し話がしたいだけだよ」
じゃあね、と一言だけ残してセオドア先生はその場を立ち去った。
先生が見えなくなったのを確認すると、ミネットとジェイミーは詰めていた息を一気に吐き出した。
「ねぇ……今のどう思う?」
「わかんない……。でも、きっとあんまりよくないよね……」
「だよね……。先生まで動いてるなんて……」
ミネットは頭を抱えた。もうどうしたらいいかわからなかった。救いを求めて外を見ると、学校の中に見慣れないきらびやかな馬車が入ってきているのが見えた。
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