第59話 反乱の終わり
「本当に良かったのかしら」
学校への帰りの馬車で揺られながら2人に問いかける。
結局奇妙な夕食会は、カムラン達が魔法の使い過ぎで体調不良を訴え終了となった。
カムランは最後まで礼儀を尽くそうと頑張っていたが、顔色が真っ青になったところでフローラからストップがかかった。
結局私たちも前日明け方まで作戦会議をしていたことや、私自身も限界以上の魔法を使ってからあまり体調がすぐれなかったこともあり、すぐに眠ってしまった。
お父様と言えば、あれだけの魔法を使い続けていたにもかかわらず、涼しい顔で食事を楽しんでいたのだから驚き以外の何物でもなかった。さすがは三賢者と言ったところなのだろうか。
今日もたいしたこともしていない。
フローラの指揮のもと玄関の瓦礫掃除をした程度で、あまりこういったことに慣れていない私たちは、結局ほとんど右往左往しただけで昼食をとることになった。
「あとはそうだな、君たちに対しての罰として学園でのレヴィについて教えてもらおうかな」
「ちょっと……お父様!?」
「まぁいいじゃないか。こんな機会でもないと聞くことができないしね」
そこからは反乱軍、もといセレスティアル・アカデミーの生徒による私に対してのコメント大会が始まった。
恥ずかしくて、こそばゆくて、またそれにいちいち嬉しそうに反応するアルドリックを見ていると拒否もできなくて、私の方が罰を受けている気分だった。
そして昼食が終わると「あまり遅くなっては帰るのも大変だろう」と、既に全員分の馬車までも用意されていた。
「学校に返ったらしっかり休むんだよ。今回はこんな形だったけど何かの縁だ。今度来る時はあらかじめ教えておいてくれ。ちゃんとした食事でもてなすよ」
アルドリックはそう言って私たちを見送ってくれた。
「―――本当によかったのかしら……?」
無言の二人に対してもう一度呼びかける。二人も明確な回答を持っていないのか、沈黙を保ったままだった。
「……よかったか、つっても言ってもアルドリックおじさんが許してるならいいんじゃねーの?まぁ実際俺様達に何か被害が出てるわけでもねーし」
「お屋敷は壊されていますし、フローラもケガをさせられていますわ!」
「屋敷の主のアルドリックおじさんが良いって言ってるんだし、フローラさんも許してるんだからこれ以上何もしようがなくねーか?」
「それは、そうですけど」
その通りではあるのだけれど、納得はしていなかった。
もしあの時連鎖魔法陣が発動していたらお父様はこの世界からいなくなっていたかもしれない。お父様だけではない。あの場所にいたフローラも同様だ。
それに、あの時お父様は彼らの攻撃に恣意的に巻き込まれようとしていた様にも見える。
強固なエレクトロフィールドを自分を守るためではなく、内側の私たちを守るために発動したことからもほぼこの予想は当たっている……と思う。
「多分下手に大事になったりするのを避けたんじゃないか?」
ガレンは頭をぼりぼりと掻きながら答える。
「わたくしのお父様が殺されかけたんですのよ?十分大事ですわ!」
「そうなんだけどさ。あれで【罪を償え】とかしちゃったらあいつらの家にも影響がいっちまうだろ?」
「それはそうですけど」
「アルドリックさんは貴族の中でも人気者だ。そんなアルドリックさんに弓を引いたやつなんて絶対に許されないだろ。貴族に領土を追われてしまうだろうし、下手したら星辰警団の登場なんてことにもなりかねない」
「星辰警団って……」
「そう。王国直属の精鋭部隊。なんせ、正真正銘、三賢者に対しての襲撃事件だからな」
星辰警団…ステラセンチネル。
このゲームをやった人間なら一度はぶつかったことがある……かもしれない隠しイベントの様な物だ。星辰警団につかまるとそのループでそのキャラクターの出番はなくなってしまう。
結構出現条件が難しくて初めのうちは都市伝説のように言われていたようだが、やり込み要素の一つではある。
確かにガレンがいう事も分からないでもない。3回目の「それはそうですけど」に続け、同じように反論する。
「とは言ってもですよ!?もしわたくしたちが居なかったら万が一という事もあったでしょうに!」
「だから……アルドリックおじさんはすげーんじゃねーか」
イグニスは本当にうれしそうにそう言った。
「もしあそこで後ろの馬車に乗っている奴らを八つ裂きにしたとする。でも別に反乱した罪は消えない。そうしたらあいつらの家族は領土を追放されちまう。自分の息子もいなくなって、住む家もなくなって、そしたらまたアルドリックさんの所に復讐に……みたいなことも考えられるだろ?」
「誰かが我慢しないといけない……ってことですの?」
「単純に我慢って訳でもないと思うぜ。仮にあいつらが言う通り反乱自体の記憶はないとしても、それでもああして一方的に許されちまったらもう恩を感じるしかなくなっちまう。その上ああも優しくされたら、将来にわたって絶対アルドリックさんに変な事はできねぇだろ」
確かに言われてみればその通りかもしれない。
「ま、これは俺様のうがった見方で、ただ本当に優しいだけな気もするけどな」
そう続けてイグニスはまたはははと笑った。
「規則違反って点では俺たちもそうだよなぁ……俺たち結局3日間まるまる無断で学校サボってたわけだろ…?先生たち怒ってねぇかな……」
「あう……。確かにそうですわね。もうこればっかりはアリシアがうまく説明してくれていることを願いましょう……」
全生徒の規範であるべき生徒会メンバー3人が無断で外出、考えるだけでゾッとする。
でも今日の今まであまりにバタバタしすぎて、そこから三人は一言も言葉を発することなく馬車の中で船をこいでいた。
学園に戻ると関わった生徒全員セオドア先生に呼び出された。
怒られることも覚悟していたが、アリシアが先生や生徒たちに「レヴィアナの実家が襲われたからみんなでレヴィアナの実家に向かった」と説明をしていてくれた様で、私たちだけじゃなくてかかわった生徒全員が怒られるどころか、逆に褒められてしまった。
心の中でアリシアにお礼をしながら、その称賛を受けとった。
「ただ、こういった時はちゃんと先生に報告してから行くんだよ」と少しのお小言をもらいながら、先生からも解放された。
「さすがに…もう…無理…」
馬車の揺れもそうだし、学校でみんなの顔を見て本当に安心して、緊張の糸が途切れてしまった。
時間ももう22時を過ぎている。なぜカムラン達があんなことをしたのか、そしてなぜ覚えていなかったのか、そして戦えばすぐに一蹴できたはずのお父様がそうしなかったかなど、考えなければならないことは山の様に残っていたが、もう限界だった。
まるで水の中に入った時の様に体が重く、自分の意思とは関係なく瞼が落ちてくる。
日課にしていた日記を書くこともなく、制服のままベッドへとダイブした。
「あーだめー…これ…もう…しわとか全部無理…溶ける…」
そうして私の意識はあっという間に眠り落ちていった。
***
カムランは部屋についてから、一息つく間も無くノートのページを開く。
最後に記憶に残っているイグニスやレヴィアナたちと模擬戦闘を行った振り返りの途中で内容は途切れていた。
(やっぱり……あいつらの言っていた事は本当だったのか)
これで確信に変わった。俺はあの日確かにレヴィアナの家を襲ったのだ。
俺が夢で見ていたことは本当に起きたことだったんだ。
帰りにアルドリック公からもらったネックレスを一度握りしめる。
「ふーっ……」
大きく息を吐いて椅子に腰かける。
流石に疲れた。
気付いたら全身がだるかったし、ケガもしているし、イグニスやガレンやレヴィアナには睨まれるし、狐につままれたような話を聞かされるし、俺があのアルドリック公と食事ができるなんて思ってもいなかった。
本当の事を言えば今すぐ布団に入って眠りたかった。それでも今日だけは絶対に眠るわけにはいかなかった。
いつでも無詠唱魔法を展開できるようにあらかじめマナを部屋中に錬成しておく。これで何かあっても少しは抵抗できるだろう。
時計の音だけが部屋に響きわたる。
辺りは静かだった。いつも夜遅くまで灯りがともっている訓練場も今日は誰も使っていない様だった。
―――23時を過ぎた。
―――23時半を過ぎた。
誰も来ないなら、何も起きないならそれでもいい。
いずれにせよ今日はこのまま意識が飛ぶまで起きててやる、そう決意した時だった。
―――コンコン
部屋の扉がノックされた。
鍵は開けてある。どうせ鍵をかけていても先日の様に勝手に部屋に入ってくるんだろう。
「起きてたのか…」
「あぁ、なんとなくお前が来るような気がしてな」
この状況は初めてではない。
ここに来て完全に思い出した。
「お前じゃ何も抵抗できないというのに……。お前には絶対にこちらに不利になるようなことは出来ない」
「それもわかってる」
昨日の夜、イグニスたちに問い詰められた時もアルドリック公に問いただされた時も俺はこいつの顔も全部頭に浮かんでいた。あの時は夢だと思っていたが、それでもはっきりと顔も声も浮かんでいた。
でも勝手に口から出たのは「何も覚えていない」という言葉だった。
「俺がアルドリック公を襲ったのは……お前の仕業か……?」
「あぁそうだ。作戦の第一段階は失敗したようだがな。まぁさすがのアルドリックとその仲間たちという事かな。それ以外にもイレギュラーがあるみたいだし、まぁ仕方がないか」
(イレギュラー……?何を言っているんだ……?こいつは……)
改めて聞くこいつの声にはまるで質量が無いかのように宙を舞い世界から消えていくようだった。
「という訳で次の策という訳だ」
「策……?俺たちを好き勝手しておいてまだやるつもりか……?ここから出られると思ってるのか?」
「この無詠唱魔法か?」
「少しでも変な動きをしてみろ?すぐにでもすべてのエアースラッシュをてめぇに―――」
『解呪しろ』
「―――――――っ!?」
俺が部屋中に構築していた無詠唱魔法が四散する。
こいつに強制的に解呪された?いや……なにか違う気がする。詠唱中の魔法に対して、それもあと発動させるだけの魔法に対して外部からの割り込みなんてできるはずが………。
「―――――まさか……?」
「きっと今頭に思い浮かんでるのが正解だよ。でも残念だったね。もうそろそろ24時になってしまう。お前には死んでもらわないとならない」
―――――動け……動け……っ!!!
あの時と同じだ。いくら念じても体はピクリとも動くことも、今ではもう声一つ上げることは出来なかった。対策はしていたはずだ、こんなのアリか!?
「まぁ、他の奴らも始末したしお前で最後だ。さすがにもう眠い」
……ほかのやつら……?反乱にかかわったやつの事か……!?
ダメだ、もう考える時間もない、悔しい……。こんなやつの思い通りになるのは……!何かないか……?何か……っ!
「ヒートスパイク」
そこまで考え、俺の思考は灼熱の炎の槍に貫かれた。
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