第50話 予兆の正体
「で?さっきの、どういう意味だよ」
「ん?さっきの?」
馬車の中でイグニスがガレンに質問を投げかける。
「とぼけんじゃねーよ。さっき反乱が本当かもとか言い出してたやつに決まってんだろ」
「んー……まぁ、なんと言うか……?勘?」
「んだよそれ。勘って……なんの確証も無いってことじゃねーか」
イグニスは呆れたようにため息をついてガレンを見つめる。
「まぁいいじゃないですの。その勘でこうしてわたくしたちに付き合ってくれてるんですから」
言ってしまえば私がさっき見た映像も勘みたいなものだ。
本当に何でもなかったら私の花壇から適当に花を摘んでアリシアにお土産にして、バラみたいにジャムを作ってもらおう。
夏休みの頃のまったりとした旅行と違い、高速馬車はスピードを上げ草原をかけていく。馬車の振動もすごかったが、今の焦る気持ちにはむしろ心地いい。
「ところでさ。イグニス、レヴィアナ、お前らアリシアの事どう思う?」
「突然どうしたんですの?もしかして好きなんですの?」
突然イグニスと私にそんな質問をしてきたガレンに私たちは首をかしげる。
「ま、大した意味は無いんだけど。雑談みたいなもんだよ」
ガレンはそう言って笑った。
「んー、どう思う?って言われてもな。昨日模擬戦闘で実際にブレイズワークスと対峙してわかったが、あれ攻防一体のやべー技だな」
「―――ふぅん。レヴィアナは?」
どういう意味なんだろう?
ガレンの表情を見る限りその場限りの回答を求めているわけでは無いらしい。かといってどういった意図で聞かれているのか全く分からなかった。
「そうですわねー……」
うーんと顎に手を当てて考える。
「今度作ってくれるというジャムが楽しみですわね!」
さっきまで頭に浮かんでいた偽らざる本心だった。
少しの間馬車の中に沈黙が流れ、それからガレンの笑い声が響いた。
「――――はっはっはっ!お前ら戦闘バカに食欲バカかよ!あーーー!なんか俺ばっか気を張ってバカみたいだわ」
ガレンは笑いすぎて涙が出たのか目元を拭いながら笑い続ける。
「ごめんごめん。ちがうわ。うん。よかった」
「いや、全然よくねーけど。俺様はお前が何言ってるか全くわかんねーし」
「まったくですわ。何がよかったんですのよ」
「あーっはっはっ……。うん、うん、ま、そうだな、卒業式の日にでも話すわ」
「んだよそれ、すげー勿体ぶるじゃーねーか。そんな先まで覚えてねーよ」
そう言ってイグニスはまた大きくため息をつく。
ガレンが何を持って満足したのか全くわからなかったけど、なんだかやけにすっきりとした顔をしていた。
そこからは馬車の中の雰囲気も柔らかいものになり、雑談に華を咲かせながら時間を潰す。
特にガレンとは夏休みに話せなかった分を取り戻すかの様に時間が許す限り話をした。
でも私の家が近づいていくにつれて、馬車の中の空気と反比例するかのように嫌な予感はどんどん大きくなっていく。
「あの……お話し中申し訳ございません……」
馬車の御者が遠慮がちに連絡窓から声をかけてくる。
さっきよりかなりスピードが落ちており、表情も曇っている。
「そろそろ着きそうなんですが、それが……ヴォルトハイム邸の方から煙が上がっていまして……」
その言葉に弾かれた様に籠の窓から顔を出し周りを見渡す。
すると馬車のスピードが落ちた理由がわかった。ヴォルトハイム邸の方からモクモクと煙が上がっているのが見えたからだ。耳を澄ませると爆発音も聞こえる。
「ここまででいいですわ!」
本当に反乱ならばこの馬車の方々を巻き込むわけにはいかない。
嫌な予感が的中してしまった。私たちは弾かれた様に家へと向かう。
あれだけきれいに家へと続く道の左右に植わっていた針葉樹もところどころ燃えている。
(お父様……――――…!)
少しでも早く家の全貌を確認したくて私は走る速度を上げる。
足がもつれそうになる、息が切れる、それでも走り続ける。
そしてやっと見慣れた自分の家が見えてくる。
だけど私が見た光景は、信じられないものだった。
「……嘘でしょ?」
そこにあったはずの我が家の一部は大きく燃え上がり、轟々と火柱を上げている。
私の視界が涙で歪み、体を走る血液が冷たくなるのを感じた。
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