第51話 再会
(どうしよう……!どうしようどうしよう!!)
頭の中にミーナと同じことがよぎる。
学園に行く前と夏休み、まだ関わって間もないけど、それでも屋敷中のみんなに、それにレヴィアナに大事にされているのは嫌と言うほど知っている。
「……お父様!!」
そう叫んだ声は自分でも驚く程大きかったと思う。
「待てって!!」
イグニスに肩を掴まれる。
「離して!!あそこにお父様が要るかもしれないじゃない!!」
「無茶言うな!あんなとこに今行っても何もできねぇだろうが!!もう少し様子をうかがってから……」
理由も誰がやっているのかも全く分からないけど、反乱がおきているのはこうなってしまっては間違いなかった。イグニスの言う通り敵の正体が分からない状態で突っ込むのは明らかに無謀だった。
「離しなさいよっ!!まだ無事かもしれないじゃない!!」
肩に置かれた手を振り払うと、そのまま走り出そうとした私を今度は後ろから羽交い締めにする。
「あんたなんかにわかるわけないじゃない!!大切な人が目の前で死んじゃって、違う世界に成っちゃう気持ちが!!!」
感情が爆発したかのように私は泣き叫びながら暴れまわる。
しかし、どれだけ暴れても彼の腕から逃れることはできない。
―――パンっ!
頬を殴られた。衝撃で頭が真っ白になる。
ゆっくりと視線をずらすと少しだけ、でもはっきりと悲しそうな表情を浮かべたガレンが立っていた。
「落ち着け。大丈夫だ。今燃えてるのは玄関と客間の近くだけ。あんなところにアルドリックさんは居ないよ」
落ち着いた声で諭すように言うガレンの言葉で徐々に冷静になっていく。
「それにほら、あれをみろよ」
視線を屋敷に向けると屋敷の周りにはバチバチと火花が散っている。
「エレクトロフィールド……?」
「あんな規模の防御魔法を展開できるなんてアルドリックさん以外いないだろ」
「じゃぁ、じゃあお父様たちは無事なの!?」
「多分。きっと反乱軍もあれに攻めあぐねていったんあきらめたんじゃないかな」
張りつめていた反動で私はその場にへたり込む。
「大丈夫だって。アルドリックさんが本気で応戦していたらもっと地形が変わるくらいになってるだろうし、きっとあの人は大丈夫」
頭上でイグニスもなぐさめてくれる。
私ですらディスペアリアム・オベリスクを壊せたんだ。三賢者と呼ばれているお父様が本気を出したらこんなものではないはず。
そしてそれと同時に自分の短絡的な行動を後悔した。
あのままイグニスに止められていなかったらきっと私は炎の中に飛び込んでいただろう。屋敷の一部をあそこまで破壊する相手にそんなことをしたらどうなる?
「ごめんなさい……」
「俺の方もいきなり叩いて悪いな」
「いえ。おかげで頭が冷えましたわ」
「まぁ、自分の家があんな風になってたら俺様だって取り乱すわ。さっきの狼狽振りは見なかったことにしといてやるぜ」
イグニスが私を立たせてくれる。安心できる手だった。
「それにもう夕方だし今日はこれ以上戦闘は起きないだろ。もう少し暗くなったら俺様たちは裏口から家に忍び込もう」
改めて私一人で来なくてよかった。
今は闘いが落ち着いている様に見えるが、取り乱した私が飛び出していったら魔法の集中砲火を喰らっていたかもしれない。
「ほら、見てみろよ。玄関付近はひどいけど、裏側は全然無事だ。きっと大広間とかでみんな集まってこの反乱に備えてるって」
ガレンが指さす方向を見ると確かに屋敷はまだ原型を留めている。うん、大丈夫、大丈夫。
ガレンも的確に状況を判断して私を落ち着かせてくれた。
この場所で一番冷静なのは間違いなくガレンだった。
―――でも、じゃあどうしてそんな悲しそうな顔をしているの?
私はなんだか怖くてその理由を聞くことができなかった。
***
反乱軍は屋敷を包囲しているようだった。
しかし完全に包囲しきるには人数が足りなかったらしく、私たちは隙を縫って屋敷に近づいていく。
改めて近くで見るとお父様のエレクトロフィールドは私のモノの何倍もすごかった。
これでは並みの魔法使いでは攻撃を通すことは出来ないだろう。
「これ……どうしましょう」
「同じ雷魔法使いでうまい事相殺とかできないのか?」
「出来る訳ないでしょう。ガレンこそ土魔法で」
「ムリムリ。近づけた瞬間分解されちまう」
反乱軍を近づけないための防御魔法ではあるけど、私たちもどうやって入ったものかと少し立ち止まっていると突然目の前のエレクトロフィールドの一部が解放された。
「この魔法で一部だけ解除……相変わらずすごいな……」
「あぁ、こんなの俺様にも……というかこの規模のフィールド張れる人なんてあの人なんじゃねーか?」
屋敷の中は自分の家ではないかのように静まり返っていた。
まるで人の気配がない。「きっと大広間だ」というガレンの言う通りに、そのまま私たちは慎重に進んでいく。
階段を登り、廊下を進む。大広間に近づくにつれて、緊張で心臓の鼓動が大きくなる。
廊下を曲がり正面の応接間には灯りがついていた。
その光を見て、私ははじかれるように駆け出し扉をはね開ける。
「お父様!!」
「おお、本当にレヴィだったのか。おかえり、レヴィ。それにイグニス君、ガレン君もようこそ」
そこにはこんな状況にも関わらず、いつもの優しい笑みを浮かべるお父様がいた。
部屋の中には他に誰もいない。
お父様はソファーに腰掛けていて、テーブルの上には紅茶の入ったカップが置かれていた。
上から下まで確認してもケガ一つなく、ここだけ見ると本当に日常のティータイムのようだ。
その様子に一先ずほっと胸を撫で下ろす。
「お父様……外は……?それに皆様、フローラは……?」
広すぎる大広間に誰もいないことが少し怖かった。
「大丈夫だよ、レヴィ。フローラが少し怪我をしただけだ。屋敷も客室が少し壊れただけだし、何も心配することは無い」
それでも心配そうに父を見つめる私の頭を優しくなでる。
「他のみんなは外が少し落ち着いたからお風呂や食事の準備をしてもらっている。もう少しで整うはずだ。こんな状態で大したおもてなしもできないけど君たちも食べていくかい?」
この状況にあって、本当にいつもと何も変わらないお父様に頭が混乱してくる。
普段通りすぎて、逆になんだか心配になってきた。
なにか言うべき言葉がグルグルと頭の中を駆け巡っていたが、うまく口から出てこない。
そんな私を見かねてかお父様はもう一度私の頭をなでる。
「アルドリックさん!」
「おじさん、だよ、イグニス君」
「こんな時にそんなこと言っている場合ですか!こんな、いったいどうしたんですか!?」
「反乱は、まぁそれなりによくあることじゃないか」
「それでも、でも、アルドリックおじさんがそんな反乱の対象になるなんてありえない!」
イグニスの言葉にお父様は少しだけ困った表情をする。
「反乱は何がきっかけで起きるかわからないからね。私もそれなりに平和に貢献してきたつもりだったけど、まぁきっと何かあったんだろう。そのあたりも食事をしながら話そうか」
そう言ってお父様は微笑んだ。
「ガレン君は少し久しぶりだね。ずいぶん大きくなった。お父様は元気かね?」
「――――お久しぶりです。久しぶりの再会がこんな形で残念です」
「再会に残念ということは無いよ。でも、そうだね。今度はお父様と一緒に、もっと盛大におもてなしができるタイミングで会えると嬉しいね」
「今度……ですか」
「そう、今度、だ。さぁ、君たちも席に着き給え。まずは楽しい話をしよう」
少し父とガレンの会話に間があったような気がしたが、それよりも今はお父様が無事だったことに心底安堵していた。
もう知っている誰かを失うのは何より怖かった。
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