第42話 合流するナタリー

「はぁ…っ…!はあっ…!!!グレイシャルスライドっ!!!」


ナタリーは焦っていた。


少しでも早く生徒会のメンバーと合流するために限界を超えた速度で森を疾走している。

よけきれなかった枝が服を切り裂く。痛い。でもそんなの気にしていられない。


「氷河の刃、我が意志に呼応し突き進め!鋭き氷の矢、アイシクルランス!」


ミーナが囮になってくれたからか、こちらに来るモンスターの数も減った。それでも軌道上にいるモンスターを薙ぎ払いながら直進していく。


(見えた……っ!!)


視線の先にずっと目印に探していたガレンの要塞が見える。

後はあそこをめがけて直進していけばいいだけだ。


「氷河の奔流、我が意志に従い押し寄せよ!冷たき波動、グレイシャルウェーブ!」


何度目か分からない魔法を唱え、前方に氷の移動通路を出現させる。

さっきまで体を纏っていたミーナの身体強化魔法も解けてしまっている。自分の体が重たいのが嫌でもわかる。でも、ここで止まるわけにはいかない。


「はぁ……っ!!はぁ……っ!!」


呼吸を整える暇もなく駆け抜けながら次々と氷の通路を展開していく。もう体力の限界が近づいているのがわかるが、今はただ少しでも早くみんなと合流するため駆け続けるしかない。


もしかしたらずっと見つからなかったクラスメイトを巻き込んでしまったかもしれない、そんな考えもよぎる。でも私にはミーナのほうが何倍も大切だった。


「ナタリー!?ミーナは!?」


異変を察知してセシルが駆けてきたようだ。

会話する時間すら惜しい。

一瞬だけセシルを見て、また疾走する。


(――――着いた……!)


永遠にも似た時間を走った気がする。


みんなの表情がこちらを一斉に見る。みんな驚いた顔をしている。きっとあたしだけでミーナがいないことを心配してるのだろう。


大丈夫だよ、すぐにミーナは来るから。


突然ここにミーナが飛んで来たらきっとみんな驚くだろうな。そんな顔を見ながらミーナと2人で一緒に笑おう。


ミーナにも見えるように、この森中のどこからでも見つけられるように派手な魔法を使おう。


「轟く雪崩の如き力にて蹂躙せよ!氷雪の轟音、アバランチブラスト!」


残っている全ての力を込め空に向けて魔法を放つ。氷の塊が天に放たれ一気に花火のように破裂する。これで気づいたはずだ。


「―――……っ!」


魔力を使い果たしたことによりグレイシャルスライドが消え、地面に投げ出される。うまく受け身を取ることも出来ず、地面と衝突し全身に痛みが走る。

反射的に握りしめたイヤリングを一層強く、強く握りしめた。


「大丈夫ですか!?」


アリシアさんが駆けつけてあたしの体を起こしてくれた。


「ナタリーさん!……ナタリー……さん?大丈夫ですか……?」

「はい、大丈夫です。これを目印にミーナさんが転移してくるんです。大丈夫ですよ」

「そうじゃなくって……その傷……」


アリシアさんが私の右腕を指さし、そのまま慌てて自分の制服を脱いで縛り付けてくれる。あぁ、私のけがを心配してくれてたのか。たしかに痛い気もする。

アリシアさんが世話しなく色々してくれている。ほかのみんなも駆け寄ってきてくれるみたい。

そんな中私は左手に乗せた2つの、2種類のイヤリングを祈るように見つめ続ける。


ナタリーさんはこのイヤリングを目印に戻ってくるって言っていた。光るのかな?そらから降ってくるのかな?それともこのイヤリングから飛び出してきたりして。


……それでもイヤリングはイヤリングのまま、一向に光り出す気配もない。


「なんで……なんで戻ってこないの……?」


耳鳴りがひどい。マナを全部使い切ったから……?

要塞からほかの人も出てきた。

誰かが話しかけてくる。

何かを言ってる。説明しなきゃ……。


「モンスターに囲まれて、ミーナさんが、これ……イヤリング……これを目印に、ミーナさんが囮になって、私が逃げて……でも私が空に魔法を撃ったら、ミーナさんが飛んできてくれるの」


みんなが困惑してるのがわかる。私も何言ってるかよくわからないけど、これだけ伝えれば大丈夫わかりますよね?


「転移って……ミーナがそう言ったの?」

「うん。オリジナル魔法、完成させたって、飛んでくるって、ミーナさんがそう……いったの。さっきのミーナさんすごかったんですよ?私なんかじゃ歯が立たないモンスターをどんどんやっつけて。でも、私が空に魔法を撃てば……ミーナさんがちゃんとこっちに……でも足りないのかな?あれ?まだ帰ってこないみたいですね」

「ナタリー、ミーナと同じ風魔法使いの僕が断言するよ。……そんな魔法はない」


セシルさん、私も風魔法にそんな魔法が無いのは知ってます。

それでもミーナさんがそういったんです。あんな沢山のどうしようもなく強いモンスターに囲まれて、それでも笑ってそう言ったんです。


それにさっきのミーナさんは風魔法なんかよりもっともっとすごかったんです。きっと私の合図が見えなかっただけなんです。

ミーナさんがそう言ったんです。


「わたしのまほうがたりないから……もうもういっかい……」


右手はアリシアさんが握ってくれているので左手を挙げようとしたけどうまく動かなかった。


(あれ……?)


それにうまく詠唱も出来ない。あたまももうまわらないや。

ちょっとだけやすもう。

それでまたあいずをおくるんだ。

そしたらミーナさんがやってくるんだから。


……そこで私の意識は途切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る