第37話 モンスターの反撃

(これは……ほかのみんなは大丈夫です!?)


ミーナは焦っていた。

ディスペアリアム・オベリスクから出てきたモンスターは一体一体が本当に強かった。

急いでほかの生徒の安否を確認したいのだが、そのモンスターの群れが多すぎてなかなか前に進めないでいた。


「早くしないとレヴィアナさんたちが……!」


心配する気持ちが焦りを生む。何とかしたいが、セシルさんやナタリーさんの敏捷性、アリシアさんのオリジナル魔法をもってしてもこの数のモンスターを処理し続けることは不可能なように思えてしまう。


「グレイシャルウェーブっ!!!」


時折現れる巨大モンスターは本当に厄介だった。今もミーナがようやく体制を崩し、そこにナタリーさんの巨大魔法を直撃させることで倒すことができた。

こんなモンスターたちの猛攻の中、ディスペアリアム・オベリスクを破壊しにいったあの3人は本当に大丈夫なんだろうか?


今朝目が覚めた時からずっと嫌な予感が止まらなかった。もしかしてこのままレヴィアナさんたちが居なくなってしまうんじゃないか?そんな恐ろしい考えが脳裏にこびりついて離れない。


「はぁ……はぁ……」


焦りも相まって息が切れてくる。体中にモンスターの返り血を浴び、綺麗な緑髪もところどころ赤く染まってしまっている。


(ううん!だめだめっ……!ここでミーナが頑張らないとです!!)


そんな弱気な自分を叱咤し、必死に魔法の詠唱を始める。


「危ない!ストーンバリア!!」


飛んできた火球をガレンさんの防御魔法がはじいてくれた。


「ありがとうございますです!」

「あいつら3人なら大丈夫だって。俺たちは俺たちにできることをしよう!」


ガレンさんが頭にぽんと手を置いて励ましてくれた。


「絶対に、絶対に全員で生き残らないとな」


その言葉はどこか自分に言い聞かせているようにも聞こえた。

大きく深呼吸をして、再び機動力を上げるためにシルフィードダンスの詠唱を開始する。

セシルさんの様には出来ないけれどミーナだって攪乱させることくらいはできる。

大丈夫、マリウスさんもガレンさんもセシルさんもみんな強いんだから。


「はい!わかりましたです!」


何度も言い聞かせてそう返事したものの、ずっと不安は消えなかった。

ミーナ一人じゃ倒せない敵が現れたから?

モンスターが使ってくる攻撃がどんどん強くなってきたから?

―――それともこれほど探しているのに、クラスメイト一人とも合流できていないから……?


「はあっ……はあっ……ふっ!!ぁああっ!」


アリシアさんのブレイズワークスの一振りが、巨大なモンスターを炎と共に真っ二つに両断した勢いのままモンスターの群れを突っ切り、アリシアさんはまた次のモンスターの群れへと突っ込んでいく。


でもどう見ても疲労がすごい。さっきから呼吸もずっと荒い。


あれだけのオリジナル魔法を維持するだけでもどんどんとマナを使っていってしまうのだろう。

それにガレンさんの鉄壁の魔法も移動しながらでは効率が悪い。


先ほどからのストーンバリアの塹壕も使い捨てみたいになってしまっていて、いくら膨大な魔力を持っているとはいえ、このままだとガレンさんのマナも尽きてしまうかもしれない。


(レヴィアナさんも、イグニスさんも、ノーランさんも切り開いていったです。ミーナも……!)


もう一度大きく深呼吸をして、シルフィードダンスを展開する。


「皆さん!ここで拠点を作ってくださいです!ミーナが、ミーナが他のみんなを探して連れてくるです!」


アリシアさんとマリウスさんは何も言わずに頷いてくれた。ガレンさんは心配そうにミーナを見る。


「そしたら僕がいくよ。僕のほうが速い」

「セシルさんはここを守っていてくださいです!ミーナの魔法じゃモンスターを倒すことは出来ないです!」


拠点を守る役目としては役立たずだ。自分自身が一番理解している。


「でも、逃げることならできるです!セシルさんより小柄なミーナの方が得意です!!」


でも、誰かを探してくることなら出来る。それにレヴィアナさんたちがディスペアリアム・オベリスクを壊したとしても残ったモンスターもなんとかしないといけない。そのためにはみんなで集まる拠点が必要だ。

ミーナが分かるようなことだ、そのことはきっとみんなもわかってる。


「わかった!誰も見つからなくても少しでも危なくなったらすぐに逃げてくるんだよ!」

「はい!もちろんです!」


セシルさんの言葉に強く頷いて、ミーナは走り出した。


「まって!私も行く!!」


足元に氷の道ができ、そのうえをナタリーさんが滑って移動してくる。


「へへ、グレイシャルスライド。私もミーナみたい、ってほどじゃないけど機動力系の魔法使えるようになったの」

「あぶないです!ナタリーさんもみんなと一緒に居てくださいです!」

「危ないのはミーナも一緒でしょ?それに私ががいれば足止めもできるから」


そういいながらナタリーは襲ってきたモンスターの足を凍らせて動けなくしている。


「ね?だから2人で行こう」


本音を言うと1人きりでこのモンスター犇めく戦場を駆けるのは心細かった。


「ありがとうございますです!一緒にみんなを探しにいくです!!」

「うん!」


ナタリーさんと一緒に、今度は2人で走り出す。それだけで心が少しだけ軽くなった。


「みなさん、絶対に無事でいてくださいです……!!」


まだ見えないクラスメイトを想ってミーナは呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る