第24話 もう一つの集団戦闘

それ以外の模擬戦はつつがなく進んでいった。

もう一つの生徒会メンバーがチームに入った模擬戦を除いて。


「それでは次はアリシア、セシル、カイル対ガレン、ノーラン、レオナで模擬戦を行う!」


自分たちの模擬戦が終わって反省会をしていた生徒たちも、このメンバーの模擬戦を見ようと再度集まっていた。


「どなたかカイルさんとレオナさんは知っていますの?」

「レオナさんは入学試験の時にガレンさんと組んでたはずです!」


すっかり回復したミーナが元気に答える。


「ほんっとミーナの記憶力すげーよなぁ。俺様まったく覚えてねぇわ」

「えへへ。あとカイルさんはこないだのモンスター討伐演習で一緒になったですよ。2人とも火魔法使いですね」


お互いのチームが初期位置について準備を整えているようだった。


「ちなみにどちらが勝つと思いますの?」

「んー、どうだろうな。単純な1体1の強さだったら間違いなくセシルだけど、ガレンは周りを生かすのがうまいからな」


俺様には分からねぇとか興味がねぇと言ったぶっきらぼうな回答が来るかと思っていたら、意外とイグニスはしっかり答えてくれた。


「ま、俺様としては個人授業もしたしノーランに勝ってほしいけどな」

「あら、そんな事していましたの?」

「無詠唱魔法を教えてくれーって毎日放課後練習中にやってきてな。初めのうちはめんどくさかったし、あいつの見込みあんまりよくねーから苦労したわ」


あのお調子者とこの唯我独尊男がどんな会話をしながら修行していたか想像が付かない。


「えー!ずるいです!ミーナも教えてほしいです!」

「あれだけ自由自在に魔法使えるミーナならすぐ出来んだろ。つーかもう使えんだろ、お前」


イグニスがミーナの頭を大きな手でポンポンと叩く。


「で?どうだったんだ?あいつの出来は」


マリウスも一緒に観戦モードだった。


「ま、結果は見てのお楽しみだな」

「では……はじめ!!」


セオドア先生の掛け声で模擬戦が開始した。


***


「って……おいおいまじか!?まじかよ!!!」


横で腕を組んでいるイグニスが興奮を隠さず喜びを露わにする。

イグニスだけではなく見ている全員が度肝を抜かれていた。

開始の合図と共にノーランは体の周りに文字通り無数のヒートスパイクを展開する。


「すごいです!ノーランさんの無詠唱魔法!!!」

「あんな数制御するなんて……」


ミーナもナタリーも思わず声を漏らしていた。マリウスも声は上げなかったものの正直驚いていた。


威力自体は大したことが無い。それに明後日の方向へ飛んで行っているものも散見される。ただ、物量が尋常ではない。


地面を這って、空から、木の陰から、様々な方向から襲い掛かるヒートスパイクに対して、アリシアチームは防戦一方だった。


「わっ!?おいおい勘弁してくれ!!…っ!!!無数の炎が舞い踊る戦場、灼き尽くせ!炎の結界、イグニッションフィールド!」


避け切れなくなったカイルは足を止めて魔法障壁で守りを固める。


「ノーランナイス!レオナ頼んだ!」

「任せといて!灼熱の炎よ、全てを貫く槍となれ!炎の刺突、ヒートスパイク!!!」


チームメイトのレオナの詠唱魔法がカイルの防壁に突き刺さる。

レオナがヒートスパイクで攻撃している間もノーランの魔法は途絶えることなくカイルを襲い続け、完全に削り倒していた。


「隙あり!エアースラッシュ!」


ノーランの弾丸の嵐の隙間を縫ってセシルがガレンチームの拠点に直進し、手に風魔法を纏って特攻する。


「隙なんて無いんだよな!ストーンバリア!!」


セシルの攻撃が到達する前にガレンがきっちりガードする。


「さすが……っ!」


風の刃を完全に止められて驚愕の表情を浮かべるセシルに背後から再びノーランのヒートスパイクが襲い掛かる。

とっさに地面に転がって回避するが、完全に避けきることは出来なかったようで左腕の袖を少しだけ焦がしていた。

慌てて距離を取り、元居た拠点にセシルが戻るころには、一人集中攻撃を受けていたカイルは倒されていた。


「完璧なガレンの作戦勝ちだな」

「つってもあの無詠唱ヒートスパイクは仕方ねー気もするけどな」

「お前ならどうする?」

「俺様ならー……まだ正確に狙いを付けられてねーみたいだし、相殺合戦に持ち込んで大技をぶっ放すかな」

「チーム戦だぞ?さっきみたいにレオナの詠唱魔法が飛んでくるかもしれない」

「わーってるっつの……。つーかガレンのストーンバリアの塹壕が厄介だよな。あれ、時間与えると無限に作りだすぞ?」


イグニスとマリウスがこうして喋っている間にもガレンチームは拠点を要塞の様に作り上げていた。完璧な防御態勢を整えたそれは、火の弾と火槍が飛んでくる迎撃機能付きだ。


「セシルはどうすんのかなー?ちょっかい出してるみたいだけどあれじゃガレンの防壁生成速度を上回れねーだろ」

「あいつは俺たちとは何か違う対処法を思いつくさ」


マリウスとイグニスがそうこう言っている間にもセシルはガレンチームの拠点に肉薄する。

しかし攻撃は全てガレンの防御魔法で防がれてしまう。

2人の焦点は完全にセシルがどう戦うかに絞られていた。


***


「あっちゃー…まずったかな?」


セシルはどうやってこのガレンの防壁を突破したものかと頭を掻きながら考える。


(まずはノーランを何とかしないとだよね。まだ狙いはうまくつけられないみたいだからシルフィードダンスで攪乱して僕とアリシアの攻撃で……)


セシルは自分の高速機動に絶対の自信を持っている。それこそ何があっても、どんなことがあっても、仮にどんな至近距離から仕掛けられたとしても思考よりも先に体が反応する。


さっき迎撃された時も結局袖を焦がされただけで怪我はしていない。


(幸いアリシアは魔法の狙いは正確だし、僕がよけ続けてタイミングを図って一緒に狙ってもらえば……)


そうアリシアに提案しようと振り向いた瞬間、そこにはすでにアリシアがいた。

セシルは少しだけ驚きながら笑顔でアリシアに考えた作戦を提案しようと口を開いた。


「アリシア、あのね―――」

「あ、あの!セシルさんっ!私にやらせてください!私が突破口を開きます!」


セシルと同時にアリシアも口を開く。そしてセシルにも思ってもみなかった提案をしてきた。


「アリシアが?あのガレンのストーンバリアと二人のヒートスパイクは結構鉄壁感あるけどどうするの?」

「これでやってみます!」


アリシアが取り出したのは剣だった。ずっと腰に添えていたから気にはなっていた。


ただこれまでの授業でもアリシアが剣を使って何かをするのは見たことは無かったし、この状況を剣で打開できるとも思えない。

それにガレンのストーンバリアは土魔法ではあるものの鋼鉄よりも固い。僕のエアースラッシュでも少しずつ削っていくので精いっぱいの鉄壁の防壁だ。


瞬時に大量の問題点が頭を巡る。


「あのねアリシア、ガレンのあの防壁――――…」

「はい、知ってます!とっても固いんですよね?でも多分大丈夫です。私これから少し長い詠唱をするのでその間私を守ってください!」


アリシアがにっこりとほほ笑む。強い決意の様な、確信めいた何かを感じた。


(守る……?この僕が……?)


そんな戦いしたことない。今まではいつだって戦場では一番自由に駆け回るのが僕だったはずだ。そんな僕が誰かを守って戦うなんて考えたことなかった。


でも、真剣なアリシアの目がそうさせたのだろうか、どうしてかアリシアの言葉は信じてみようという気になった。


「ははっ!何をするつもりかわからないけど、うん!任せてよ!僕がしっかりと守ってあげる!」


***


(ここまでは順調…というか順調すぎる。ノーランの無詠唱魔法が思った以上にすごいな)


ガレンはストーンバリアで作り上げた塹壕というか城塞の中で思案する。

ここからセシルはどう出るだろうか。

本当はもう少し攻撃の要をぼかしたかったが、ここまで明確にノーランが目立ってしまってはそれも難しい、きっとセシルはノーランを集中的に狙ってくる。


(……それに……そもそもセシルが仕掛けてくる……だけどな)


現時点では圧倒的にこちらが有利だ。ただし、完全に拠点を作り移動できない状態を作った。セシルは高機動を生かしてこちらの要塞を削り取ろうとしてくるはずだ。いつものセシルだったら。


狙って創り上げた状況だったが、あまり時間をかけすぎてカイルがまた戦線復帰してきても困る。牽制のための攻撃を仕掛けようと思ったが、先に相手が動き出したようだった。


(ん…?これは…もしかして――――)


「ノーラン!レオナ!全力でアリシアを狙え!!!あそこの木の陰だ!!アリシアの詠唱を止めるんだ!!」


「「了解!」」


2人は正確に次々とヒートスパイクを狙いへと放っていく。

しかしそこに立ちはだかったのはセシルだった。


「おいおいマジか?」


あまりの事に驚きの声を漏らしてしまう。


俺が知っているセシルは絶対にこんな風に誰かを守るために戦ったりしない。事実こうしてアリシアの前に立ちはだかっているセシルの姿を見ても(アリシアに注意を集めてこちらに単身突っ込んでくるのではないか?)と身構えてしまう。


そのためにガレンは攻撃に参加せず不意打ちを警戒していた。しかし……。


「大地の力で舞い上がれ、石の駆け足よ!岩石の滑走、ロックスライダー!」

「あまいよ!激しい風の盾よ、我らを護る壁となれ!絶対の防壁、ウィンドウォール!」


ガレンも攻撃に参加するが、セシルに見事に阻まれてしまう。3人によるこれだけ大量の、そして威力の大小を織り交ぜた全方位からの攻撃なのに、まるで背中にも目があるようにセシルは危なげなくさばき切る。


「ははっ。まぁ防御に回るってのも少しは楽しいの……かもね?ガレン!!ここは抜かせない!!」


完全に自分の攻撃のタイミングが読まれている。ここまで完璧に動きを読めるものだろうか?ガレンは自分の口角が上がってしまうのを止められない。


「――――なるほどなぁ……やっぱそうなるんだな」


そして、もうとっくにわかり切っていたことだけど、自嘲気味な笑いを漏らす。

そうか、やっぱりそうなんだな。


「ノーラン、レオナ、小さな攻撃はきっとセシルにはじかれちまう。2人も大きめの魔法の詠唱を始めてくれ」

「わかった……けどよ、セシルの攻撃はどうするんだ?無視すんのか?」

「多分だけどセシルからは攻撃してこねーよ」

「ふぅん……?あのセシルがねぇ。ま、了解だ。レオナ!思いっきりやってやろうぜ!」

「うん、わかった!」


2人は攻撃を一時中断し詠唱を開始する。思った通り、一瞬戦場に空白が生まれてもセシルはこちらへの高機動襲撃をして来なかった。


(さて……俺はどうしたもんかね……)


未来のために、ここで当たる気がしない攻撃をしておくのも悪くはないかと、ストーンバリアで積み上げた塹壕を削りながら、次々とロックスライダーを打ち続けた。


***


「セシルさん!準備出来ました!すみません!思ったより時間がかかってしまって」


アリシアがマナの収束を終え、セシルに声をかける。


「大丈夫だよ。僕もアリシアのとっておきって言うのに興味あるし」

「ありがとうございます!少し離れててください!」


そしてアリシアは詠唱を始める。


「火の精霊たちよ、共に舞い踊り、我が創造の力となれ。炎の息吹をもって、この鍛冶に宿り、武器と防具に力を与えよ!ブレイズワークス!!」


アリシアが魔法を発動した瞬間アリシアの周囲に炎の膜の様なものができる。剣に収束した魔法は一段と燃え盛り、その炎が次第に形を変え、まるで生き物のように動き始めた。


「いまだ!2人とも!」


ガレンの合図でノーランとレオナが一斉に炎魔法を唱える。


「「灼熱の炎よ、全てを貫く槍となれ!炎の刺突、ヒートスパイク!」」


2人がマナを限界まで練り込んだヒートスパイクはそのまま一直線にアリシアに向かっていく。アリシアの新魔法に目を奪われていたセシルは一瞬反応が遅れ、ノーランたちへの迎撃も遅れた。


「アリシアっ!!」


セシルの叫び声が聞こえる。しかしアリシアは炎の魔法を纏った剣を横一線に振るう。剣の軌跡通りに炎が飛び散り、辺りを明るく照らし出す。

そして同時に2人が放った巨大な魔法は一瞬にしてアリシアにかき消され、後には心地よい熱風だけが残っていた。


「おいおい……マジか……?」

「うそ……私の全力のヒートスパイクが……」

「やっぱりすげぇな!じゃあこれはどうだ!!大地の力で舞い上がれ、石の駆け足よ!岩石の滑走、ロックスライダー!!!」


この戦いでガレンが初めて全力で攻撃に転じる。

先ほどまでの時間を埋めるためのロックスライダーではなく、全力のロックスライダー。マナをため込んだ要塞の様な塹壕をそのまま魔力で操作してたたきつける。


その状況を見てセシルは少しだけ焦る。一人だけならば避けることができる。しかし今のこの炎を纏っているアリシアに触れて平気だろうか。またもアリシアを慮って対応が遅れてしまった。


「大っ―――丈夫ですっ!!!」


アリシアは少しだけ剣の重さに体を持っていかれつつも、炎を纏った剣を迫りくるロックスライダーに対して横薙ぎに振るう。


炎はより激しく燃え上がり、魔力で強化され鋼鉄の様に固い岩はいとも簡単に引き裂かれ、そのままアリシアの左右後方に飛んでいく。

セシルはその様子を見て戦慄を覚える。


「アリシア…その魔法は…?僕そんなの見たことないんだけど…?」

「私が考えたオリジナル魔法です!でもまだ慣れていないのでマナがどんどん持っていかれちゃってます。あまり長くは使えません」

「すごい……すごいよアリシア!!」


セシルは、この状況で笑みがこぼれる。こんな強い魔法初めて見た。魔法の戦闘でこんな感情を持つのは初めてだった。


「じゃ、反撃と行こうか!」

「はい!」


アリシアは勢いよくガレンたちの拠点向かって駆け出した。今までと同じように、大量のノーランの無詠唱のヒートスパイクが飛んでくるが、アリシアが纏った炎の膜に防がれて、直撃する前に散り散りになって消えていく。

決め手を失ったノーランの動きが一瞬止まったように見えた。アリシアも速度を速める。


「大地の揺り籠、大気を揺るがせ!揺動の戦慄、アースシェイカー!」

「きゃっ!」


直接攻撃ではブレイズワークスに阻まれてしまうと判断したガレンは、アリシアの地面をはじき上げ上空へと打ち出す。


体制が崩れた状態では剣をふるうことはできないだろう。それに強力な魔法だとは言ってもアリシアはまだそこまで戦闘経験はない。


「大地の力で舞い上がれ――――」


そのまま追撃の詠唱を始めるが、アリシアは上空から回転して炎を纏った剣をガレンに向かって振るう。


「まじかっ!!ストーンバリア!」


慌ててガレンも魔法で攻撃を防ごうとするが、完全に不意をつかれた上に、空中で無理な体制で剣を振るったにもかかわらずその威力は凄まじいものだった。相殺しきれずにそのまま吹き飛ばされる。

追撃に備えてより強力な防御魔法の詠唱を始めようとした瞬間――――


「これはチーム戦だよ?ガレン。僕を忘れてもらっちゃ困るな」


いつの間にか背後からセシルの声が響いた。


「忘れてねーよ!2人とも!!!」


ガレンの合図で一気にノーランの無詠唱のヒートスパイクがノーランを完全に包囲する。そしてレオナの詠唱魔法がセシルに向かって放たれる―――


「―――そして僕の実力をなめてもらっちゃ困る」


一瞬ですべてのヒートスパイクを処理し、完全に無防備になった3人に対してセシルは追撃を行う。


「猛威を振るう風の暴力、破壊の渦を巻き起こせ!無慈悲なる暴風、ガストストーム!」


そして、その猛威は3人を捉える。詠唱を行う暇もなく吹き飛ばされたノーランとレオナはなす術なく、2人とも気を失った。


「きゃっ!!きゃーっ!!!」

「はい、お帰り、アリシア」


空にはじかれ落ちてきたアリシアを、涼し気な顔でセシルは受け止めた。


「降参だ、こーさん。ったく……完璧かよ」


そう言ってガレンは両手を上げた。

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