対人模擬戦闘
第20話 【12歳のころの私】
夢。夢を見ている。12歳の時の私の夢。
12歳になってようやく私もお母さんと同じように、装置を付けることができるようになった。
大人たちが頭に付けていたものは「ソニックオプティカ」と呼ばれる仕組みを使うためのデバイスだった。
昔の人は初期のソニックオプティカの事をAIと呼んでいたと後から教えてもらった。
大人に倣って私も耳のデバイスを装着する。
この12歳の時に耳だけ、14歳になると目の方のデバイスも利用できるようになるらしい。
起動すると「名前を付けてください」と言われたので「ソフィア」と名付けた。
もっと昔友達がゲームで登場してきた、ヒロインのお母さんの名前だった。
ソフィアは質問すると何でも教えてくれた。
「ねえ、ソフィア。ゼファリアってどんなところなの?」
『ゼファリアは、エコフレンドリーな場所です。この都市は、緑豊かな公園や自然がたくさんあって、植物や動物と調和して暮らしています』
「へえ。ねぇ、えこふれんどりー、ってどんな感じなの?」
『ゼファリアでは、建物の屋根には緑がいっぱいで、また、太陽光発電がよく使われています。』
「太陽光発電……。発電するのにわざわざ太陽の光を使うって言う事?」
『ええ、大変珍しい地域です。またそれ以外にも都市の中心には大きな湖があって、そこを渡るための空中のゴンドラがあります。ゴンドラに乗ると、空中から美しい景色を楽しむことができます』
「え?どんな景色なの!?みたいみたい」
『14歳になって視覚デバイスが解禁されるまでお待ち下さい』
「ちぇー。ねぇ、その視覚デバイスってお母さんたちが目に付けてるやつよね?もしかしてあれを付けたらゼフェリアの景色が見れたりするの?」
『もちろんゼフェリアに限らずありとあらゆる景色を、そしてありとあらゆる経験をすることができます』
「じゃあさ、今はゼフェリアの景色を実況してよ」
『もちろんです』
ソフィアはそう言うとゼファリアの景色を実に愉快に実況してくれた。
目を瞑りソフィアの声に合わせて頭の中で色々と想像する。色とりどりの花が咲き、木々の葉っぱが揺れ、小鳥のさえずりが聞こえる。
こうして私の世界はどんどんと頭の中で広がっていった。
今まで図書館で調べていたよりも、何倍も刺激的で、知識欲が掻き立てられる。
私はソフィアにどんどん質問をする。
そしてソフィアは答えてくれる。
そうするとますますこの世界を知りたくなる。
今まで私が知っていると思っていた世界は、ほんの一部だったと思い知らされる。
世界には様々な国があり、文化があり、人々の暮らしがある。
絵本や小説といった図書館に置いてあった本では描かれていなかった世界がこんなに広がっているなんて本当に驚きだ。
そして自分がいかに狭い世界で生きていたのかも思い知らされた。
あんなに楽しかった図書館に大人たちが誰もいなかったのはこのソニックオプティカが全部教えてくれるからだったのかと一人で納得した。
「ねぇソフィア……うちペット買っちゃダメなんだってー。育て方もソフィアにいろいろ聞いたのにー」
『そうなんですか。それは残念ですね』
「ねー。ペットショップの管理人さんも環境にやさしいペットだって言ってたのにねー。一緒にお散歩もできたのに」
『そうですね。その代わり私がいるじゃないですか』
「まぁ……そうなんだけどさー。ソフィア頭よすぎるんだもん!ねぇねぇ、そうだ!ゼファリアはわかったからまたアストラポリスについても教えてよ!」
こうやってソフィアとの雑談を毎日、毎日繰り返した。
「早く14歳になれたらいいのに」
最近はずっとこれが口癖だ。
頭の中でソフィアの説明に合わせてアストラポリスの街並みを想像する。
ソフィアも毎回新しい切り口で驚きと興奮を喋ってくれるから楽しいけど、でもあくまで私の想像の中でアストラポリスの街でしかない。
視覚デバイスが使えたらこの渇望からは解放されるんだろう。
それでもっと大人になって実際にその場所に行ったりしたらきっと最高だ。
『そろそろもう夜も遅いので今日はこれくらいにしましょう』
「えー。もうそんな時間ー?もう少しー」
『ダメです。健康によくありません』
「はーい」
もっと知りたいのに。眠らないといけない自分の体がもどかしかった。
ああ、この目で見てみたい。この耳で聴いてみたい。この身体で感じてみたい。そんな風に想いを募らせていつも眠りについていた。
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