第2話 Nデバイス - N-Device -

 若いうちは旅をしろ、そう言ったのは酒場の白髭オヤジだっただろうか。


 説教じみたそれは人生の先輩からのささやかな助言だったのだろうが、酒場から千二百キロ地点でバイクを両断されたリッパーは、旅なんてロクなもんじゃあないと心底思った。

 髭オヤジは、若いうちは苦労を買え、とも言っていたが、廃ビルのコンクリート壁をえぐるガトリング砲火、こんなものに金を払う奴などいないとリッパーはつばを吐いた。

「警報。加熱による駆動系への負荷、十二パーセントに増大」

「排熱二秒!」

 イザナミの警告に、リッパーは反射的に怒鳴った。

 天候は変わらずの晴れ。熱砂に雲が訪れることなど年に数回で、太陽は眼下の生物を平等に照りあげてニヤニヤしている。

 むせ返る熱風のごうごうという音と野生動物の息遣い。それを割るようにガトリングが叫び、リッパーの潜んでいた壁を蜂の巣にした。戦艦に搭載されるタイプを携行型にした六連マズル(銃口)の二十ミリガトリング砲の前では、廃ビルのコンクリート壁など数秒ともたない。

「排熱完了。通常射撃戦駆動、稼働率八十八パーセントを維持」

 相手の隙をつき次のセフティゾーンまで移動しつつ反撃、単純な戦術だが相手が吼えっぱなしの大型ガトリングなので全く楽ではない。

「ハイ、リッパー! 戦闘開始からもう七分も経過してるぜ? サイドアーム(予備武器)のアモ(弾薬)を十二発も消費。うち、着弾はたったの二発だ。レフト、リロード!」

「七分!」

 イザナギのカウントを聞いて、リッパーは思わず声を上げた。

 相手が砂塵に浮かぶ陸上戦艦なら一分で終わっている。接近して、両手の三五七リボルバーに装填してあるハイドラショック弾(ホローポイントの一種)をホバーエンジンの燃料タンクに近距離で撃ち込めば、木っ端微塵でおしまいだ。それが七分。頭がくらくらするのはヘルメットもフードもなしで熱の下にそれだけの時間いたからだと、イザナギに言われてから気付いた。

「ハイブに飛び道具を持たせるなんて、反則だと思わない?」

「現在対峙するハイブの戦闘力は、一個分隊に相当」

 イザナミが素っ気無く、それでいて的確に返す。

 熱砂の片隅で七分も小競り合いをやっている一個分隊の指揮官はさぞやマヌケなんだろうと思ったが、指揮官であるリッパーはすぐに訂正した。

「オーライ! つまり、イーブンって訳だ。持久戦になるのも仕方ないぜ。リロード、コンプ! フルバレット! トリガー!」

 イザナギがそれらしいことを言ったが、仕方がない、で七分も砂漠に立ち往生させられるのかと思うと、なにやらイラついてきた。脳が熱でやられ始めているのか、単に堪忍袋のキャパシティを越えたのか、あるいは両方か。ともかくリッパーのイライラは毎秒ごとにうなぎ上りで、あっという間に頂点に達する。

「タクティクスチェンジ! 弾幕に中央突破!」

 サイドアームのリロードを終えたリッパーは小さく叫んだ。その単純明快な戦術は、言い換えれば適当な戦術とも呼べるが、イラついて練った戦術などその程度だろう。

「論外。臨界駆動は八秒が限界です」

 イラついているリッパーとは対照的に、イザナミは普段通り、冷静なものだった。

 ブルン! と音がしてハイブからのガトリングが砂の上を走り、リッパーの隠れている壁を砕いた。対峙しているハイブは話し合いが終わるまで待てない性格らしい。

 マズルを砂に向けたまま十歩先にある別の壁に駆けて滑り込むと、ガトリング砲火がそれを追尾してきた。

「ベッセルのクイックドロウでミニガンと対決かい? ノー! リッパーと一緒にミートパテにされるのはゴメンだね!」

 イザナミに続くようにイザナギが言う。新たな戦術は二対一で却下されたが「手」導権はリッパーにある。二挺のサイドアーム、ステンレス三五七リボルバーを太股のホルスターに戻し、顎の前で両手を交差させる。

「ジャンプアップ!」

 合図と同時に背中に収納されたメインアーム、銀色の大型リボルバー二挺が素早く滑り、頬の横からそのグリップを勢いよく跳ね出す。

「臨界駆動で八秒なら、三秒でガトリングガンを黙らせて、残り五秒でハイブを叩く。イザナミ! イザナギ! 臨界駆動イグニション! ガンファイト……レディ!」

 こんなものは戦術ではない、解かってはいるが足し算引き算で指示を出すと、それらしく聞こえるような気がした。

「了解。通常から特殊射撃戦駆動へ緊急シフト、臨界駆動スタートアップ。ヒートスリットシステム起動。強制排熱、準備完了。ECCM及びプラズマディフェンサーはオートで待機」

「ウィルコ! コール・ガンファイト! スクランブルAFCS(次世代火器管制システム)スタンバイ! ダブルベッセル、オン! レーザーリンク、マルチロックシステム、オン! エイミング(照準)コントロール、オン! レンジファインダー、オン! シーカームーブ! レッツロック! ハー!」

 イザナミ、イザナギが返して、臨界駆動が始まるまでの二秒、リッパーは二挺のカスタムリボルバー、ベッセルをぐいと握り締め、息を止める。二秒後、脳内が一瞬瞬(またた)いて四肢が軽くなる。


 三五七リボルバーに変わって両手に握られたリッパーのメインアーム、専用のAPI弾(徹甲焼夷弾)を装填した五十五口径三連発のダブルアクションリボルバー、ベッセル・ストライクガン。

 片方だけで重量二キロほどのヘビーバレル・リボルバーだが、知覚と神経反射速度を電気刺激により二十倍に強制加速させる臨界駆動の使用中は、左右のベッセルの体感重量はほぼ無くなる。


 熱で焼けた蜂の巣の壁から飛び出して二歩目にガトリング砲火、足元の砂がしぶきを上げる。砂粒はリッパーの視界でゆっくりと舞い踊っている。強制増幅された動体視力により粒子の一つ一つがくっきりと見えた。

「ヘイ! リッパー! 奴のエイミングは甘いぜ! レンジ、ファイブファイブ! シーカームーヴ! トリプルロック、トリガー!」

 そもそも携行ガトリング砲の照準など知れている。七分の足止めでこちらが一発も喰らっていないことが何よりの証拠だろう。やたらめったらに撃ちまくるので身動きが取れず防戦一方で、気がつけば七分が経過していたに過ぎない。

 無論、反撃に際してベッセルや臨界駆動を使わなかったからでもあるが、それは単に温存しておきたかったからだ。

「臨界駆動、百〇二パーセントに到達。残り六秒」

 砂しぶきの中での四歩目でまず一発、右のベッセルが火を噴いた。狙いは高速回転するガトリング砲の六連マズルの一つ。二十ミリ弾を割いてバレルに到達した徹甲焼夷弾がバレル内で炸裂し、敵ガトリングがジャム(動作不良)を起こす。

 続く五歩目のトリガーはガトリングを握るハイブの白い腕で、肘から真っ二つになった。最後の三発目はガトリング砲を支えている太いスリングだ。これで戦術の前半が終了した。

 右手のベッセルを撃ち尽くして相手のハイブは、ジャムを起こして役立たずとなった大型機関砲を右腕ごと地面に落とし、左右の重量バランスを崩して反対の左に倒れこんでいる。リッパーは射撃地点から飛ぶように更に二歩、ハイブの真正面に立った。

「ハロー、アルビノさん」

「臨界駆動、残り五秒、四秒」

「ライトベッセル、リロード!」

 蒼白はハイブに共通で、そこに感情が乗っていないのも共通だ。

 男性タイプで、端整な顔立ちだが無表情なので色気も何も無い。リッパーと同じ赤い血を右肘から吹き出しているが痛みは感じていないらしく、距離を四歩まで縮めたリッパーに猛速度の左拳を放ってきた。左のベッセルが吼えてその拳を左腕の根元から弾き飛ばし、血飛沫(ちしぶき)が砂にバタバタと落ちた。

「サイ……ボーグ?」

 両腕を失ったハイブが透き通る声で言った。ガラス瓶を指で弾いた、そんな音色だ。表情に色気はないが、その無機質な声には不気味な色気があった。

「残念、八割は人間よ?」

 ベッセルの五十五口径マズルをハイブの頭部に向けたままリッパーは応える。

 トリガーをぐいと押し込むとハンマーが浮く。ダブルアクションリボルバー特有のトリガータッチだが、ハンマーを軽量型にしているので重いと言うほどでもない。好みで言えばタッチの軽いシングルアクションだが、連射するためにダブルアクション仕様を選んだ。時に嗜好と実益は異なるものなのだ。

「臨界駆動、残り二秒」

「シーカームーヴ! レンジ、ゼロワン! ダブルロック! 真っ白けのカーネル(頭脳核)ど真ん中! トリガー!」

 ドドン!

 左のベッセルのシリンダーに残った二発をハイブの頭部に向けて叩き込むと、辺りの空気が弾けて砂が舞い上がった。

 五十五口径API弾のリコイル(反動)は全て、リッパーの腕にある外側七ヵ所の切り込み、ヒートスリットで吸収される。色気の無い端整なハイブは顔の鼻から上を周囲に散らし、その場で棒立ちになった。

「ヤーホー! ダブルビンゴ! カーネル、ワンクラッシュ! ターゲット、デリート! ヒーハー!」

「ゼロ秒、臨界終了。敵個体、沈黙。カーネル反応消滅。特殊射撃戦駆動から通常駆動に強制シフト。ヒートスリット、排熱開始」

 ベッセルを構えていたリッパーの左腕がだらりと落ち、ヒートスリットから熱風が、ごう、と吹き出した。その排熱で、熱砂にあってそこだけ極端に温度が上がる。

 同時に、ハイブの頭部から血が吹き出た。

 先ほどまで艦載機関砲を手足の如く扱っていたハイブは、両腕と頭部を失ってようやく人間のように見えた。あちこちから吹き出して止まらない血がそう見せているのだろう。

 その様子を数秒眺めて、リッパーは二挺のベッセルを両肩に添える。可動ガイドアームにキャッチされたベッセル二挺は、スライドして背中に収納された。

「リロード! リロード! リッパー、ベッセルのシリンダーはライトもレフトもカラだぜ?」

 排熱音が邪魔だと言わんばかりにリロードと繰り返され、リッパーは溜息を一つ、棒立ちになったハイブを軽くブーツで蹴った。無抵抗なハイブは砂地に倒れ、ゆっくりと地面を赤く染め上げていく。

「ハイブはもう、こんな、よ? リロードよりも足、バイクが先だわ」

「甘いぜリッパー! そんなだから真っ白けに先手を取られるんだ!」

 まるで小姑(こじゅうと)だ、と思ったがイザナギの言いたいことは解かる。


 接敵したときにメインアームであるベッセル二挺のシリンダーが空(から)だったのはリッパーのミスではあった。

 しかしだ。

 思いながらハイウェイに向けて歩きつつ、収納したベッセルを再び顔の両脇にジャンプアップさせた。

「ハイブと接触する可能性はまあ、あるとして、飛び道具を、それもあんな大物を持ってるなんて完全に想定外でしょう?」

 日除けマントの内ポケットから掌ほどある弾丸を取り出し、ベッセルのシリンダーを埋めていく。

「それにね、あたしの索敵範囲は三百メートル四方が限界なの。その外をカヴァーするのがアナタたちの役目でしょう?」

「排熱終了。ヒートスリットシステム、オフ。通常駆動へのシフト完了。臨界駆動によるフィードバックは相殺、稼動率八十八パーセントを維持。発言の一部の訂正を進言。四時間二分前の音源再生」


『二十七キロ先に移動熱源。放熱パターンから生物と確認、衛星を開きますか?』

『うん? 群からはぐれたガゼルか何かでしょう? 無視しましょう』


 ヒビだらけのハイウェイでベッセルを装弾しつつリッパーは、再生された自分の声にうなだれた。

「もういいわよ。全部があたしのミス、そう言いたいんでしょう? でも――」

「――倒したんだからいいじゃない? リッパーは戦果しか見ない! リロード、コンプ。ダブルベッセル、フルバレット、クローズ」

 いちいちもっともなので反論のしようがない。

 七分と少し前にガトリングの弾幕を浴びたバイクは、燃料タンクが爆発して前後に分断され、まだ白煙を上げている。今やもう単なる鉄屑だ。

 そのガラクタと日除けマントのフードを嫌味な太陽がじりじりと照りつける。ハンディナビを見るまでもなく現在地はケイジ(都市空間)の中間地点で、次のケイジまで千三百キロはある。

 他にしようもないので次のケイジまで歩こうか、と渋々足を動かそうとした矢先、イザナミが反応を捉えた。

「移動熱源? 捨てる神に拾う神ね、コンボイ(車団)よ」

 地平線まで続くハイウェイの先端は陽炎で揺らいで、コンボイの先頭車両は浮いているように見えた。

「ハイ、リッパー! あいつらからアモのチャージが出来るぜ!」

「右腕人差し指潤滑剤の補充が必要です」

 ハイウェイの中央で親指を付き立てつつ、リッパーは大きな溜息を吐いた。

「あたしたちはバンデット(略奪集団)じゃないの。あちら様の前でそんなこと絶対に言わないでよね? 品性を疑われるわ」

 先頭を走るバギーはリッパーの真横を過ぎて停止し、続く巨大なタンクローリーは耳心地の悪いブレーキ音で止まった。

 後続のトレーラーやバン、キャビンやバスも速度を落とし、そして、全ての車両の窓からライフルやショットガンが突き出てリッパーに向けられた。

「マスター?」

「リッパー?」

 ずらりと並ぶマズルを目で追って、リッパーは、はは、と小さく笑った。

 しばらくそのままで待っていると、コンボイから数人がライフルを持って降りてきた。日除けマントで全身を覆った砂っぽい連中だった。もっとも、人のことを言える状態ではないのだが。

「あちらがバンデットだった、なんてオチはイヤよ? 駆動系はノーマル、AFCSオフライン。ただし……」

 コンボイからの一人、ススで真っ黒な男が二つ目のライフルをリッパーに向け、ヘイ、と声をかけた。

「オートディフェンシブモード、念の為」

「了解、駆動系をATDへシフト」

「コピー、AFCSオフライン」

 スス男がライフルとマスクを下ろし、ぐいと顔を近づけた。近くで見てもやはり黒い。

「何だ? 通信か? 仲間が潜んでるのかい?」

「ノー、いえ、イエス? 潜んではいないし、仲間と呼ぶのかどうか……説明するのが面倒だわ。ほら、自己紹介なさい」

 リッパーはマントから銀色の両腕をずいと突き出し、スス男に向けた。


「ヤー! ライトアームはNシリーズの最先端! AFCSデバイスのN-AGI、スーパーガンスリンガーのイザナギだ! シューティングは任せろ! そんなチンケなライフルでもハイブと同格に戦えるぜ! ハーハーハー!」


 ――イザナギの正式名称は、IZA-N-AGI・1st。

 IZAコープ・Nデバイス・アサルトガンズインターフェイス・ファーストシリーズ。

 兵器開発から宇宙戦艦の建造まで手広い大手軍需企業IZA社が開発した、Nデバイスと呼ばれる戦闘システムの一部で、イザナギは略称。リッパーの右腕として装着され、主に火器官制を担当する。

 イザナギを構成するAIは、一般のAIとはかなり違うものである。

 便宜的にAI・人工知能と呼称されてはいるが、実際はラプラスサーキットと呼ばれる第六世代型量子演算ユニットの一種で、確率論的予測分析、情報処理と並列化、統合と最適化を繰り返した結果、揺らぎを持った、人間に似た個性を獲得している。

 そうして得た性格は、次世代FCSの塊で火器を扱うからか、やたらと好戦的で、それでいてフランク。極端に言えばチンピラやマフィアのようなものだった。

 ラプラスサーキットをFCSに応用したイザナギ、Nデバイスの戦闘スペックは他を圧倒、凌駕し、単体でハイブと対等以上に戦えるのである。


「IZA社製駆動統合制御デバイス・N-AMI、略称はイザナミです。左腕と戦術策敵を担当。現在、稼動域は通常を維持。コンボイの全戦闘力は想定範囲内、問題なし」


 ――イザナミの正式名称は、IZA-N-AMI・1st。

 IZAコープ・Nデバイス・オールラウンドミリタリーインターフェイス・ファーストシリーズ。

 イザナギと同じくNデバイスの一部でリッパーの左腕として装着され、通信と策敵、情報収集に電子戦、戦術立案と駆動制御、そして防御を担当する。

 メインフレームはイザナギと同じラプラスサーキットで、こちらもその処理能力により人間に近い性格を持っているが、沈着冷静で上品な戦闘指揮官のようで、イザナギとは正反対、無駄な世間話などは基本的にしない。

 リッパーの副官のような存在で、危険が発生した際に一番最初に状況を察知して、リッパーに伝える。

 リッパーは、対ハイブを想定した大型のカスタムリボルバー、ベッセルを二挺扱うが、これは、右腕のイザナギに搭載されたアドバンスドFCSによってコントロール射撃される。

 その際、左腕のイザナミは、両腕やリッパーの生身部分を通常駆動から特殊射撃戦に特化した駆動系に切り替えてそれを制御する。

 ベッセルの強烈なリコイルは、両腕の中身を覆う衝撃緩衝ジェルにより全て熱に変換され、両腕に刻まれたヒートスリットと呼ばれる切り目から強制排熱される。このヒートスリットシステムの排熱制御もイザナミが担当している。

 両腕のヒートスリットシステムを利用することでリッパーは、ベッセルを始めとする強力な火器を精密照準のまま、マズルを跳ね上げることなくロスタイムゼロで連続射撃が行えるのだ。

 策敵や駆動制御をラプラスサーキットの予測分析能力で行うイザナミは、イザナギと連携することでその能力を最大限に発揮する。


 ちなみに、イザナギは男性、イザナミは女性風のマシンボイスに設定されており、これはいつでも変更可能なのだが、リッパーが試してみたことは、まだない。

 初期設定がそうだったから、単にそれだけのこと。


 陽光を照り返すリッパーの白銀の両腕がいきなり喋りだし、スス男はあからさまにたじろいだ。ライフルは地面を向いたままだった。

 音量が大きかったのでスス男の背後にいた数名も似たような反応だった。自己紹介なら名前だけでいいだろうに、毎回思うが、饒舌な二人はどれだけ言い聞かせてもこんな調子だった。そしてこう付け加えた。

「あたしはリッパー……砂漠の真ん中で立ち往生してる哀れな旅人、ってところ」

 二人に習って何か付け足そうかとも考えたが、何も浮かばなかった。短い自己紹介を聞いているのかどうか、相手の興味はイザナミとイザナギに集中していた。無理もないが、一応続ける。

「見て解かると思うけど、こちらに戦闘の意思はなくて、どちらかと言うと助けを求めてるの。次のケイジまで乗せてくれるとありがたいんだけど?」

 むう、と返事があったが肯定なのか否定なのか定かではない。白銀の両腕がよほど珍しいらしく、武器を下ろした集団がリッパーをぐるりと取り囲んだ。

 確かにNシリーズは現在の地上では相当に珍しいデバイスではある。

 しかしだ。

 砂漠のハイウェイど真ん中に立つグラマラスな美女、つまり自分だが、そちらも少しは評価して欲しいものだ。今は砂まみれだが前のケイジの酒場では自慢の銀髪はそれなりにチヤホヤされたし、言い寄ってくる男も相当数いたのだ。

 もうしばらく後、Nデバイスと名乗る両腕とリッパーが脅威ではないと判断したらしき見物人の一人が「乗せてやりなさい」とスス男に言い、周囲もうなずいた。

 イザナミとイザナギを見せずに名乗れば話は単純だっただろうと後で思ったが、ともあれ結果オーライだ。

「で? アンタ、名前は?」

 スス男が言って、リッパーは撃ち殺してやろうかと思った。


 旅は道連れ世は情け、酒場の白髭オヤジがそうも言っていた。

 山ほどの銃口を向けられた挙句に無視されて道連れもなにもあったものか、情けない限りだ、相手に悟られぬように悪態を付くリッパーだった。

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