神様、天界から追放される。野に下って適当生活していたら、いつの間にか預言者になっていた件

柊遊馬

第1話、神様、追放される


『はっきり申せば、貴様を天界より追放する、ということだ』

「……はぁ、そうですか」


 主神に呼び出されたから来てみれば、待っていたのは、私の追放であった。

 私は神である。位でいえば、等五級と高くもなく低くもない、ほぼ真ん中くらいだ。一応、男性型ではあるが、自分としては正直どちらでもよかった。


「よろしいですか?」


 光り輝く存在、光そのものというべき姿の主神に私は尋ねた。


「私は主神様ほど見通す力はありませんので、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか? 何か、落ち度がございましたか?」

『貴様はよく働いた』


 意外なことに、主神からお褒めの言葉を賜った。


「ありがとうございます」


 ほとんど反射的に私は口にしていた。主神は続ける。


『貴様は、異世界に手を出した神たちの不始末の片付けと、罰則執行を行ってきた』

「それが仕事に御座いますれば」


 用もないのに異世界に干渉した結果、そこの生命体の運命を変えてしまったり、不法に連れ去りなどを起こした神、女神に対して罰を与え、時に天界から追放するのが、私の仕事である。


 神を神が罰する。神を罰するのは神のみ。その下っ端の実行係が私なのだ。ついた通り名は『追放神』だったりする。


『しかし、貴様の執行の手腕に対して、上級神から複数の文句が私に届けられている』


 あぁ、察し。


『希望するなら、書状を読み上げようか?』

「いえ、簡潔にお願いします」


 神様の文句は長い。とにかく長い。それに付き合うは、いかに悠久を生きる神でも面白くない。複数も、など冗談ではなかった。


『要するに、貴様の徹底過ぎる仕事ぶりが、一部の神々を苛立たせた、ということだ』


 実に簡潔である。


 大方、追放された神や女神の中に、上級神の子飼いやらお気に入りがいたのだろう。一度追放してしまうと、よほどの奇跡が起きなければ天界に戻れないため、そういうお気に入りを拾い上げることもできない。

 追放とは、そもそもそういうものだ。


 だから、忖度せず追放を執行した私に、恨みが向いたのだろう。

 神様とて、完全ではない。全知全能なる存在など、神の中にもいるかどうか。

 私は、派閥に関心がなく、独立独歩を貫いてきたので、余計に庇ってくれる神はいなかったのだ。


『落ち度と言えば落ち度であるが、そうでもないとも言える。これは見方次第である』


 主神の深いお考えは、私のような凡神には及びもつかない。


『貴様流に言えば、貴様がいなくなれば、天界の一つの不協和音が消える、ということだ』

「承知しました」


 確かに、私を不快に思っている神々にとって、私が天界にいることは、彼らの不満や不和をもたらすことになるだろう。私がいなくなれば、そういう不満も消え、穏やかになるというのは、一面の真実である。


『申し開きはあるかね?』

「主神様の慧眼の前に、私めが申し開くことはございません」


 私が言い訳を述べずとも、主神は全てお見通しだ。時間の無駄だ。私のような凡神など、代わりは幾らでもいる。天界から消えたとて、誰も困らない。


『では、貴様は天界を追放とする。……追放先は、適当な世界に送られる。力もある程度制限されるだろうが――いや、貴様に説明は不要であるな』

「はい」


 これまで追放後のことは、神や女神に毎回口上を述べてきたのは私である。自分がさんざん口にきたそれを、改めて告げられても意味はない。


「それでは」

『うむ。さらばだ』


 主神の光で視界は覆われ、何も見えなくなった。

 そして、私は天界から追放された。……何故か、追放神が追放されたと、神々の笑い話になるような気がしたが、まあどうでもよかろう。

 私には、もう関係のない話だ。



  ・  ・  ・



「これが地上か……」


 私は、そこに広がる大自然を眺めた。風に乗って香る青々とした森の匂い。足から伝わる土の感触。どれもこれまでに感じてきたものとは違った。


 どこぞの世界に落とされた。それがどこであるか、私は知らないし、知る必要もないだろう。私が天界から追放され、これからはこの世界で生きていく。ただそれだけなのだから。


 ぐぅ、と腹から、音が鳴った。おおっ、これが腹が減るという感覚か。なるほど、地上ではこうなるのか。神に似た姿で作られた人間もこうだったと記憶している。


「知識の泉」


 ふっと、周りには青白い光が無数に浮かぶ。よしよし、この力は封じられていないようだ。


 天界はもちろん、多種多様な世界の知識が詰め込まれた光の結晶。その知識を借りられれば、まず困ることはあるまい。


「さて、他にも使える能力はあるだろうが……」


 それはぼちぼち試していくとしよう。まずはこの空腹感を満たそう。天界から、暇つぶしに色々な世界を覗いた経験が役に立つ。

 そして考えねばなるまい。私は、この世界で、これから何をするのかを。


 もう神の世界から追放された以上、地上の生物に干渉してはならないというルールは消滅した。……だからといって、低級の神や天使のように悪魔に転職するつもりもないが。


 とりあえず、能力を試しつつ、現状とこの世界のことをざっくり確かめる。……なるほど、剣と魔法の息づく世界か。


 シャクリ、と、砂から変換して作ったリンガなる果物を齧る。……うん、これは瑞々しく、面白い歯応えだ。

 知識の泉と、物体を別のモノに変える能力、変換は使えるな。


 私は適当にフルーツを選び、それを変換で作りつつ、さらにこの世界の確認を続ける。


 人種がいて、人型の亜人種族がいて、モンスターと呼ばれる類いがいる、と。人が作る国家はまあ強そうではあるが、まだまだ未開拓な地も多い。


 そうだなぁ……。この人が寄り付かない場所に拠点を置いて、のんびりした生活を送ることにしよう。元神ではあるが、天使ではないから、あまり人に関わることもあるまい。神のお遣いである天使と違って、私には使命はないからな。


 思えば天界では、ずっと仕事に励んでいた。追放された地で、気ままに、やりたいように生きて、誰が咎めるだろうか?


 せっかくだから、人間に倣って快適な家造りをしてみようか。何はなくとも、住むところが大事だ。

 地上に降りてから、多少の暑さ寒さは感じられるようになった。これが極端にどちらかに傾くだけで、快適には過ごせないだろう。


 私は神だった。住むところに不快な部分があってはならない。一つ、知識の泉を使って、神の家を作るとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る