雨上がりの君は世界で1番美しい
あまみず/雨水
第1話 運命はいつも雨の日から
高校二年生の春。
少年は運命の出会いをする。
「この傘、使って!」
◇
「じゃあな時雨(しぐれ)。また明日ー」
「うん。じゃあね」
教室でそんな会話が鳴り響く。
俺、時雨は日直の仕事があり、今日は友達を先に帰らせた。
新学期が始まって早2週間。
友達も1人でき、上々な学校生活を送っていた。
だが、いつも不運は突然に。
(最悪だ・・・)
そんなことを心の中でつぶやく。
日直の仕事が終わり、帰る準備をしていると雨が降ってきた。
天気予報を見ていなかった時雨は傘を持っていなかった。
(なんで今日雨降るんだ・・・)
雨が降る光景を教室の窓から眺めている生徒たち。
時雨は荷物をバックに入れ席を立つ。
教室を出るとみんな傘を持ち下駄箱へ向かっている。
時雨はみんなと同じように下駄箱へと足を運んだ。
思い返すと俺の人生はいつもこんなんだ。
雨が降るときに限って天気予報を見ない。
大事な持ち物がある日は忘れ物をする。
なにかとタイミングが悪い。
そのようなことを考え下駄箱につく。
靴を履き替え、外に出る。
土砂降りだ。
雨が降り始めまだ10分しか経っていない。
にもかかわらず水たまりがすでにできていた。
雨の音が鳴り響き、周りの声も聞こえにくい。
(行くしかないか・・・)
時雨は覚悟を決め、バックをかざす。
そして走り出した。
靴の中に水が入り靴下のぬれる感触がする。
地面をけりはねた水がズボンの裾に付着する。
カバンはすでにびしょ濡れで、教科書が無事でないことを悟る。
だが時雨はただただ街中を走り続けた。
学校から家までは30分。
走れば20分で着く距離だった。
時雨は残り15分ほどで着く距離まで来ていた。
だが、時雨は体力にはさほど自信がなかった。
次第にスピードは落ち、息が切れ、心臓が痛くなった。
そして走りから歩きへと変わっていく。
息が上がり疲れ切った時雨は休めるところを探そうとした。
周りにあるのは住宅街。
ほとんどの家はシャッターを閉め人気が全くなかった。
そして10mほど先に屋根のあるバス停を発見する。
急いで時雨はそのバス停まで走っていった。
◇
バス停に着いた時雨はバックを下ろした。
バックはびしょ濡れになっていて、中身の教科書は濡れてしまっていた。
服は絞ると大量の水が出てきた。
体中が濡れていてとても嫌な気分になっていた。
時雨は持っていたハンカチで体を拭き一息ついた。
ポケットの中にあるスマホを取り出し、天気予報を確認した。
どうやら夜まで雨は続くそうだ。
時雨はとてもショックを受けた。
またこの大雨の中を走らなきゃいけないのか。
もう濡れたくない。
なんで傘忘れるんだよ。
心の中で自分をも責めだす。
(そろそろ行くか)
いつまでもうじうじしてはいられない。
早くしないと風邪をひいてしまう。
そう思い、再び覚悟を決める。
その時、一人の少女が歩いてるのが見えた。
顔は見えないが服装は時雨の高校と同じ制服だった。
少女はこちらに気づいたようで一歩づつ近づいてくる。
そして、時雨の前に立ち。。。
「あれ?時雨君?」
聞き覚えのある声だった。
彼女は傘を下ろし、こちらに声をかけてきた。
彼女の短めな茶髪がゆらりとなびく。
すらりと伸びた手足や白い肌はとても美しかった。
瞳は星屑のようにきらめき、見つめる者を深い世界に誘う。
同じクラスの雨音さんだ。
彼女は心配そうな目でこちらを見ていた。
「どうしたの!?そんなに濡れて!とりあえずはい。これ」
彼女は左手をポケットに入れ、何かを取り出す。
出てきたのはハンカチでそれを俺に渡してきた。
「ありがとう...」
「いいよ、全然。それで、どうしたの?」
「いや、傘忘れちゃって・・・」
雨音さんは話したこともない俺を心配してくれた。
突然話しかけられ困惑したが、とてもうれしかった。
まだ新学期が始まって2週間しか経っていない。
だが、雨音は時雨の名前を憶えていた。
時雨はそれだけでも嬉しかった。
「そうなの!?じゃあこの傘、使って!」
そして雨音さんが手に持ってる傘を差しだされた。
驚きを隠せない時雨は、目を丸くする。
「え、でもそれじゃ雨音さんが」
「私、家この辺だから大丈夫」
雨音さんはにこやかに俺と会話を交わしていた。
話したこともない他人になんでそこまでできるのか。
でも、この傘を受け取れば雨音さんはびしょ濡れで帰ることになる。
この傘は受け取らないようにしよう。
「あと、別に返さなくていいよ」
「いや、それはさすがに・・・。それにまだ受け取るなんて言って・・・」
そのようなことを言うと雨音は無理やり俺に傘を持たせてきた。
その時、一瞬手と手が触れ、時雨はドキッとした。
そして雨音は傘とハンカチを時雨に渡し、土砂降りの雨の中を走って行く。
「じゃあね!」
勢いに負け彼女から傘を受け取った。
お別れとお礼の言葉を言う前に彼女は走り去ってしまった。
時雨は傘を持った手を胸に当てる。
鼓動が早い。
どきどきと胸の高鳴りを感じる。
さっきまで冷えていたはずなのに体が熱い。
耳まで熱くなってるのがわかる。
すごいそわそわする。
風邪か?
いや違う。
これは恋だ。
最悪な一日が最高な一日に変わった瞬間だった。
明日からの毎日が、昨日までとは違くなる。
そんな予感がした。
この運命的な出会いから時雨はどのように人生を歩んでいくのだろうか・・・。
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